第3話 大剣を手にしたメイド
第12課
小柄な体に似合わぬ大剣を振り回し、そして時には大剣に振り回されながら、圧倒的な攻撃力を誇る平安かなみ。彼女を攻撃の軸とした、突破力に優れたグループである。
「よ~っす」
そんな彼女がいる一室に入ってきたのは、同じグループ所属の籠谷。
「お帰りなさい。ご主人様」
「なんでメイド喫茶」
「暇だったのでジョークですよ」
いったいどこの世界に大剣のメンテをしながら主人を出迎えるメイドがいるのか。そんな武闘派メイドがいる家には、間違っても空き巣になんて入りたくないものである。
「ほんと、9課はいろいろ大変みたいで」
トイレから帰ってきた籠谷は、新谷との会話を思い出しながら不安に思う。曰くあのいざこざの原因は空見による上層部への不信感であるとのこと。彼は空見と同じ日本刀使いとして手合わせの経験も少なくない。それだけに他のグループに属しながら他人事とは思えない関係性なのである。
「まぁこんな仕事柄ですから。むしろ警察や自衛隊のような純粋な公務員ではないですから、多少の汚い仕事も受けなければならないのでしょうし、仕事に裏があることも珍しくはないでしょうね」
「一応公務員なんだけどねぇ」
彼ら新世代は厳密には公務員ではあるのだが、一方で新生物対策として臨時的に組まれた特殊な立ち位置の公務員でもある。国民の安全のために議論も立法も中途半端であった経緯があるためかなり複雑なのである。
「自分もたまには愛刀をメンテしようかな?」
籠谷は部屋の片隅の畳スペースに胡坐をかいて座ると日本刀を抜いて汚れを拭い始める。もっとも最近はこれを使う場面もそれほど多くなかったため、決して酷い汚れが付いているわけではない。せいぜい訓練でついたホコリくらいのものである。
「しかし……」
「ん~?」
ふと独り言のような平安のつぶやきに、籠谷が適当な相槌。
「もしかしたら空見さんの言うように、ウチの上層部は信用ならないのかもしれませんね」
「えっ? った」
突然の平安の一言。籠谷も予想しなかった話の展開に手を滑らせ、刀で自分の指を切ってしまう。
「痛ぇ。ちょっと指切った」
「大丈夫ですか? 救急箱くらいならありますけど?」
「いや、これくらいならすぐ治るから。絆創膏だけもらっていい?」
彼は平安に指を見せるが割と深めの切り傷である。別に大手術の必要があるレベルではないが、まったくの無事と言うほどでもないはずであるが。
「確かにそれくらいなら数日もあれば元に戻りますね。感染だけは気を付けてください」
平安も特に慌てる様子を見せずに絆創膏を持ってくる。
最前線で戦っている彼ら彼女らにとってみればその程度の傷は傷の内に入らない。という武闘派ゆえの理由もあるのだが、そのほかに本当に数日あれば怪我が治ってしまうという理由もある。新世代の特徴と言えば常人離れした戦闘能力であるが、体力や怪我の回復といった再生能力にも優れているのである。それだけに普通の人であれば週単位、場合によっては月単位でかかる怪我の回復に数日あれば十分と言ったことは決して珍しくないのである。もっとも平安の言うように傷口からの細菌感染など、「病気」に対しては一般レベルの耐性なのだが。
「さっきの話ですけど」
絆創膏を包装から取り出す平安に対し、籠谷は怪我をした指を差し出す。
「別に深い意味はないですよ。ウチの上層部はいわば政治家。政治家というものはつくづく利権にまみれていますから」
「そ、そうだよね。平安まで上層部に逆らいだすかと思ったよ」
笑う籠谷に、平安も笑いながら彼の指へと絆創膏を巻く。
「もし本当に何かあれば叩き切るかもしれませんけど、あくまでも私は国民の命を大事にするために戦いますよ」




