第2話 決意
彼女はあれでいて実は仲間思いなのだろう。この歳にして人の凄惨な死に際を見ることが多くなり、ちょっとずつであれば感覚がマヒしているところである。しかし空見はやはり仲間である子たちを見捨てることになった上層部の指示に不満を募らせているところ。もしここで同僚から反乱者が出たとなると、十中八九は彼女が原因である。
「分かってるから。そんなこと」
打ち合わせを終わらせて帰ってきた新谷。彼女がふと空見に対し、籠谷の行っていた 『読み』を話したその反応である。曰く自分たちの報告よりも早く指示が出た謎についてはなんとなく彼女も原因が分かっているようである。だがそれよりも自分たちの報告より早く、いわば速やかに『味方を見捨てる』判断を下した上層部の神経を疑っているのだろうか。新谷のそれとは似ているようでまったく違う視点の話である。
「割り切るべきってのは分かる。分かるけどさ……」
「それが国を守る私たちに課された宿命です。上層部の指示は絶対。私たちの感情に任せた軽率な行動が他の人たちを危険に晒すかもしれません」
感情に訴える空見に対して新谷が正論で迎撃に出る。しかしそれに不満を募らせるように返す空見。
「ねぇ……あんたは見捨てられるの? 私や猪原、稲嶺が生死を彷徨っている時。上層部から見捨てる指示が出たら……」
その問いに新谷が少し悩んで答える前に、空見が引き続き口を開く。
「私ならできないかな。お父さん、お母さんが新生物に襲われて死んじゃった。そんな私にとってはみんなが私の家族だから。大切な家族を見捨ててまで守りたい国なんて私にはないよ。例えその行動が国に弓引く行動だとしても」
「あまり口にすることじゃないですよ。それは」
そんなこと当たり前である。死んでしまっては元も子もない。だからこそみんな知らない他人よりも家族が大事だし、場合によっては家族よりも自分の命が大事なこともあるだろう。だがそれでも多くの人たちが顔も名も知らない赤の他人を守らんがためにその命を賭けてきた。それが人類の歴史というものである。そして今はそれを自分たちがやる番というだけなのである。
そのことも空見は分かっているのだろう。
「ごめんね。ただ自分の思いをぶつけたかっただけなのかも。忘れてとは言わないから、新谷の胸の中だけに押しとどめておいて」
「分かりました。では私も自分の思いを語らせてください」
彼女は落ち着いた声ながら鋭い目を空見に向ける。
「私は例え何があっても一般の人たちを守るために戦います。そしてもし空見さんが国に弓引き一般人に危害をもたらすとなれば、その時は私の銃口は空見さんに向きます。誤った道に進む者を止めるのも家族の使命ですから。ですが絶対にそんなことはさせないでください。私も空見さんを撃ちたくありません」
「分かった。私の記憶の片隅くらいにおいておく」
いつもの彼女のテンションなら「あんたの射撃の腕で私に勝てると思うの?」と煽り口調で言うに違いないが、その言葉が出てこないあたり本当に悩んでいるのだろう。




