第1話 戦時の国家権力
「失礼します」
「いらっしゃい。まぁゆっくりしてよ」
新任務の発動が迫る中、新谷は共同作戦を実施する第12課の部屋へと来ていた。出迎えたのは空見と同じく日本刀使いのお侍さん・籠谷青空。そして部屋の奥で大剣を磨いているのは参加戦力の中では屈指の近接攻撃力を誇る平安かなみ。なお部屋の床のところどころに大きなへこみがあるのは彼女のその武器の重量ゆえである。
「それで何の用かな」
「大した用事ではありませんが……どうも最近、空見さんが疑心暗鬼なんですよね」
「チーム内のこと?」
籠谷は来客用の湯飲みに緑茶を入れながら問う。彼の入れるお茶は知る人ぞ知る素晴らしき一品だとか。
「いえ……ウチの上層部に対してです。少し前の話になりますが、第3課と共同した外国使節の護衛作戦ですが」
「知ってる。結局、第3課員は救出できず。船の自爆により外国使節ならびに第3課員もろとも死亡だったかな」
「自爆……かどうかが怪しいんですけどね」
「と言うと?」
「私も確信が持てないのであまり深くは……」
「ではやめておこう。根拠のない風評は良くない」
そう口にしながらお茶を目の前に置くと、新谷は軽く頭を下げる。
「空見さんはその船の爆発後の上層部の対応に不信感を抱いたようです。上層部は爆発後の船を前に撤退命令を出しました」
「まぁ変に突っ込ませて不要な被害を出させたくないってとこじゃないかな。ミイラ取りがミイラになっては笑えない話だし。おかしい話かな?」
「私たちの報告より早くに命令が来たとしても……ですか?」
その言葉を聞いた籠谷は目を細め、さらに後ろにいた平安も手を止め耳を澄ませる。
「と言うと?」
「あの現場において最も船の爆発地点に近いのは私たちだった。第9課の構成員と、そこまで運んでくれた運転手が最も近かったのです。つまりあの船の爆発の第一報を入れることができるのは私たちのはずだった。にも関わらず」
「君が第一報を入れようとする前に上層部はそれを知っていた」
「えぇ。何かおかしいと思いませんか?」
「確かにおかしいと思う。もし今が20世紀初頭頃だとすれば、だけど」
籠谷は笑みを浮かべながら答える。
「どういうことですか?」
「先の件についてだいたいの事情は知っている。君たちがどうやって外国使節の車を追いかけたのか。ということも」
「それはこちらも車で追いかけました。警察に協力をしてもらい――」
「では先に逃げたはずの外国使節を見つけた方法は?」
「あっ……」
新谷は籠谷の言葉から答えと思わしきことに気付いた。彼は胸ポケットから新世代所属を示す身分証を取り出す。そこには彼の名前や写真のほか、『日本国』の名称がはっきり書かれている。
「伊達に自分たちは国家権力じゃない。それも平時の国家権力ではなく、国民の命と生活を戦火から守るため強化された『戦時の国家権力』なんだよ。遠く離れた場所の情報を得ることなんて、今のご時世決して難しくはない……あくまでも自分の推測だけどね」
彼は所詮は推理であって真実ではないと釘を刺しておいて不安そうな表情をする。
「まぁ、ただそうなると気にはなるけどね」
「何がです?」
「上層部を勘繰りすぎた空見さんのこと。よからぬことをしなけりゃいいけど」




