第9話 怒り狂う
「ちょっと上官に会わせなさい」
「いえ……それはちょっと」
現場では意外とすんなり引いた空見であったが、いざ本拠地へと戻ると上官秘書へと詰め寄っていた。いったい裏で何があったのか問い詰めるため。そしてなぜ仲間を見殺しにしたのかを問うため。だが秘書は「今忙しい」「ここにはいない」などあれこれ理由を口にしつつ彼女を立ち去らせようとするが、それでも空見は一向に引く様子を見せない。
「……新谷。どう考える?」
「と、言われても困るところです。私も諸葛亮がごとき頭脳を持ち合わせているわけではありませんので、裏の世界の100歩先は見渡せません。所詮は後方支援のオペレーターです」
猪原はその詰め寄る空見の後ろで新谷に聞いてみるが、彼女からは決して芳しくない反応。
「ですが……もしかしたら空見さんと同じ。いえ、空見さんよりたちが悪い発想に至ったのかもしれませんが」
「その心は?」
「どうせ連れ去られるなら諸共殺す……でしょうか」
「まったく何を言ってるのか分からないんだけど」
いまいち話が読めない猪原の一方で、その近くで稲嶺は「だとすればあの攻撃は」と何かを察したかのような反応。しかしせいぜい独り言とも言えるような言い様にやはり周りは気付かない。
ついには空見が秘書に掴みかかっての乱闘寸前に。さすがにそこまでいったとなると止めざるを得ない。曲がりなりにも軍隊組織に準ずるような立場である以上、組織内部での暴力沙汰ともなると笑えない話である。
「ほ、ほら。早く帰りなさい。次の任務までの重要な時間です。しっかり体を休めなさい」
「あぁぁぁわぁぁぁせぇぇぇろぉぉぉ。何をしたか、なんで味方を見捨てたか聞くんだからぁぁぁぁ」
「稲嶺。足持って。運ぶから」
「大丈夫? セクハラで訴えられない?」
「訴えられた私が弁護してあげます。弁護士の資格はありませんが」
「ダメじゃん」
とりあえず3人で暴れる空見を抑え込みながら運ぶ。彼女の怒りはもっともなのである。現場で命を張って戦っている一方で、裏で暗躍なんてされていられては気持ちのいいものではない。もしも彼ら彼女らを守るためならば納得も行くが、そのために動いているものが仲間を見捨てる指示を出すかと言われると甚だ疑問である。だとすれば何かの権益のために動いている……とするのは分からない話ではないのである。




