第8話 炎上
一発のみならず複数発の「何か」により攻撃を受けた船。最初こそ使節や捕まった少女たちの声が聞こえていたが、あっという間に聞こえなくなる。
「え? え? え?」
船に飛び乗るつもりだったが爆風に押し戻された空見は驚きながら振り返る。
「ちょっと、あんた何やったの?」
何かしらの遠距離攻撃を食らったと見た空見が真っ先に疑ったのは新谷。
「何もしていません。対戦車ライフルならまだしも、この狙撃銃に船一隻を吹き飛ばすほどの威力はありません。というか対戦車ライフルでも船一隻は厳しいかと……」
敵に集中していた空見・猪原・新谷の3人は気付かなかった。だが残る1人、偶然にその攻撃の『音』にいち早く気付いていた稲嶺は、攻撃が行われた地点である後ろを振り返り、数十階はあろうビルの屋上付近に目を向ける。
「そ、そんなことより早く助けないと」
「馬鹿。この状況でどうやって助ける気だよ」
「でも」
そんな稲嶺の一方で海に飛び込もうとする空見だがそれを猪原が制する。捕らわれていた彼女たちが海に飛び込んだというのなら話は別だが、それは確認できなかった。つまり今はもはや火の塊と化したあの船の中である。
「とにかく海上保安庁および消防局に連絡を入れます……人命は絶望的ですが」
オペレーターでもある新谷は半ば諦め気味に連絡を回すと……
「みなさん。本部より連絡です。作戦成功につき撤退命令が出ました」
「「「はぁ?」」」
先んじて新谷に飛び込んだ通信。それを他3人に伝えると驚愕の声が漏れる。
「ちょっ、本部は馬鹿なんじゃないの? 味方もろとも葬っておいて作戦成功って」
逃がすくらいなら全員殺すとまで発言した空見が言うのもどうかと思うが、これを『作戦成功』とするか否かについては確かに悩ましいところである。
「なんにせよ上層部からの指示ですから、あとは関係機関に任せて引きましょう。もっとも……違和感しかない連絡でしたが」
「偽報とか?」
稲嶺がドアのない入口から車に入りつつ新谷に問う。
「いえ。間違いなく本部からの連絡ではありました。ですがとにかく異常ではありました。正体不明の爆発。最前線にいるはずの私たちが状況を連絡するより先に飛び込む作戦完了の報。裏がありそうなことではありますが」
「まぁ気にしていても仕方はないね。仕事柄」
なにせ新世代はこの動乱の世界において治安を守る存在。言わば政治力の後ろ盾になりうる強力な「武力」であり、そして多額の予算が投じられる「部門」でもある。欲にまみれた政治家や有力者がすり寄ってくることなんて珍しくもなんともない。そのほとんどが上層部の力によって排除してはいるものの、やはりそのすべてを追い返すことなどできないのである。
「帰りましょう。空見さん。猪原さん。気持ちの悪いところではありますが……」
空見は燃え上がる船を見ながら刀を鞘に納める。
この状況では助けることが難しいのは分かっている。
さらに言えばもう死んでいても不思議ではない状況だというのも分かっている。
だが仮にも仲間が死ぬのを黙って見ているだけというのが辛かったのである。
その上で両手を合わせて目を閉じる。
「助けられなくてごめん……来世で次に会うときは平和な国で」




