第7話 毒を食らわば皿まで
コンテナの間を縫い、大型の船の横を通り、しばらくすると車が停車する。
「止まった。さぁ、私たちの出番」
相手の車が止まると、こちらの車が完全に静止する前にドアのない出口から飛び降りる空見。刀を抜いて相手に迫る。だがそこで降りてきた外国使節たちは案の定な行動。
「まぁ、そうですよね。人質は向こうの手の中ですから」
車の屋根から使節に銃口を向ける新谷がつぶやく。
その使節は第3課の少女たちを抱えて盾としながら、さらにその首筋にナイフを突きつける。いくら新世代と言われる人たちが人並み外れた回復力を持っているとしても、確実に急所を仕留められれば死は免れない。いくらなんでも死から蘇るほどの回復力は持ち合わせていないのである。
「チッ。卑怯な手を。新谷、敵だけ狙えない?」
「私の射撃能力でそれができるとでも? 無理を言わないでください」
「稲嶺は」
「ちょ~っと難しいねぇ」
新谷・稲嶺共に銃こそ構えてはいるものの、お互いに人質が邪魔で攻撃ができない。人質を取っていない相手なら狙えもするが、その男を狙った場合、他の男たちが人質をどうするかは分からない。そして猪武者の空見もさすがに人質を取った相手に切りかかるほど馬鹿ではない。
自称・使節の男たちは何やら外国語で叫びながら、そこそこ大きな船へと乗り込む。それが彼らの用意した船なのだろう。よく見れば前や後ろにカバーの掛けられた大きな荷物があるように見えるが、よくよく観察してみれば箱型のようには見えない。ではなにかと言われると、機銃だとかの大型武装……にも見えなくもない。
「新谷。海自や海保に場所の連絡は? さっきまでは場所が分からないからって」
猪原が問うと新谷は車の中を指さす。するとここまで車を運転してくれた運転手が通信機を片手に連絡中。
「相手の船からして、対抗するのは簡単でしょう。所詮は民間船舶ですから。ただ……状況が状況だけに安易に海自・海保も手が出せないでしょう。人質ごと仕留めてもいいなら話は別ですが」
「悪いけど、自分は仲間ごと敵さんをぶった切る趣味はないぞ」
「気が合いますね。私もです」
お互いにお互いを牽制していると、すぐに遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。すると男たちは再び外国語で叫びながら船へと逃げ込む。人質となっている第3課の少女たちが抵抗するように暴れているも、さすがに多勢に無勢である。空見並みのパワーがあればともかく、戦闘能力を期待されていない新世代の第3課ともなれば、男複数人にいとも簡単に抑え込まれる。なんなら成人の、それもガタイのいい人相手ならば1人に抑え込まれることもいとも簡単に想像できる。
遠くに赤いサイレンが見え始める。そのタイミングで船のもやいが解かれ、ゆっくりと岸壁から離れ始める。
「猪原。援護して。突っ込む」
「お、おぅ」
もう猶予はないと判断した空見が突入開始。猪原がその前に割り込み彼女の盾となる。その様子を見た男はおそらくは船内に隠していたのであろう拳銃を取り出し、2人向けて発砲。それを猪原が銃弾を見切って得物の鉄棒で弾き飛ばす。こんな芸当ができるのはもはや彼だけである。もっとも弾いた銃弾のコントロールはできないようで、後ろの車のフロントガラスに当たってしまい、運転手が怯えて隠れてしまったが。
「空見さん。無茶をしては人質が」
「殺したいなら殺せばいいじゃん。逃がすくらいならみんな私が殺す」
「まぁ、人質を殺せば使節たちへの攻撃をためらう理由もなくなりますし……合理的なんでしょうか?」
こうなったからには躊躇する理由もないのだろうか。空見が手を出してしまった。もはや毒を食らわば皿までと言わんばかりの新谷は、ついに牽制銃撃を開始。船首に着弾するように威嚇を行うが船が留まる気配はない。
「猪原。船に飛び乗る。道を開けて」
「わ、分かった。行ってこい」
すると猪原は空見の声を聞いて横に避ける。敵の銃弾にさらされることも厭わない思い切った行動。空見は刀を振りかぶりながら、コンクリートの地面を蹴って飛翔。
「私たちの仲間を、返せぇぇぇぇぇぇ」
既に数メートルから十メートル程度は離れていよう距離。普通の人間には飛び乗るのは難しい距離をあっと言う間に詰める。しかしその時である。
「危ない。離れて」
稲嶺の声。
その直後、船に数度、何かが突き刺さった。そしてそれは燃料を貫いたのであろう。船はけたたましい音を上げて炎上し、空見を含めて周りにあった様々なものを吹き飛ばした。




