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夜明けの新世代  作者: 日下田 弘谷
第3章 海を越えて
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第5話 カーチェイス

「いったいどういうこと? 説明しなさい」


 説明している暇もないとのことで、皆はほぼ私服のままで車へと飛び乗る。空見は車に乗ってしまえば時間はあるはずだと、新谷へと説明を求めた。そう言うなら自分の端末を見ればいいじゃないかという指摘については、猪原はあえて言わないままに彼自身は端末へと視線を向ける。


「外国使節団による第3課構成員の誘拐……なんでまた」


 その彼の言葉に空見が振り返る。


「ど、どういうこと? なんで?」


「知らんがな」


 空見が問うが猪原はそんなこと知る由もないのである。そうしていると、新谷から行先の指示を受けたドライバーが車を走らせ始める。


「おそらくはこの国の国防上の重要機密情報を奪うためでしょうか」


「機密情報ってもしかしてもしかする?」


 稲嶺の予想に新谷は狙撃銃の準備をしながら頷く。


「えぇ。そもそも外国使節団がやってきたのは『新世代』の技術を奪うこと。これが目的でしょう」


 新谷が視線を落とす先にあったのは『制限解放器』と呼ばれる腕時計のようなもの。しかし見た目は黒い円盤にベルトが付いているだけである。


「欲しいのはそれだけでしょうが、これ自体は簡単に外れるものではありません。そう簡単に取れていては、激しい新生物との戦いで耐えられませんから。それだけに機械だけを盗むことは難しかった。だから戦闘能力に劣る第3課のメンバーを誘拐したのでしょう」


 彼女は狙撃銃の準備が終わるとサンルーフを開いて攻撃準備を整える。走行中の車から頭を出すなど危険極まりない行動ではあるが、万が一に備えて練習はしているし、法律云々についても彼女自身が特殊な公的機関にいる立場なのである。そのあたりはどうとでもなる話である。


「カーチェイス案件?」


「そうだと思います。つまり……」


「残念。お二方はお留守番で」


 新谷は飛ばされないように体に固定用のベルトを括りつけ、サンルーフから走行中の車の屋根へ。そして稲嶺はいつ使うのか分からなかった拳銃をここぞとばかりに腰から引き抜く。


「ちぇっ。つまんない」


「まぁ、移乗攻撃に移ることになるまで待ってようか」


 空見・猪原の両名も一応は準備を整えるが、出番はそう簡単にあるものではないだろう。だいたい砲のない昔の海戦ならまだしも、なぜに昨今の、それもカーチェイスで移乗攻撃になりうるのか不明である。


 そうしていると高速道路に乗ってまもなく、マークしていたワンボックスの車が見えてくる。彼らより早く出たはずの車に追いつくとは意外だが、これでも新生物退治に向かうための緊急車両。容赦なく他の車を端に寄らせながら、スピード違反など気にせず急いだだけある。それにこっちは言わば国家権力である。様々なところに仕掛けられた監視カメラから逃げられるほど甘くはないのである。


「稲嶺さん。行きましょう」


「はいはい」


 と、稲嶺は車から身を乗り出し、箱乗り状態で拳銃を相手の車へと向ける。


「司令部より命令。人質の救出を最優先。犯人は殺しても構わない、と」


「ひぇぇ。曲がりなりにも外国使節なのに?」


「曲がりなりにも犯人ですから」


 2人とも車の外。正面からの風をもろに受けながら銃口を敵に向ける。


「近くの料金所は緊急封鎖しているそうです。逃げ遅れた車が多少いるかもしれませんが……ほぼいないはずです。派手にやります」


「さぁ、攻撃開始‼」


 新谷・稲嶺による銃撃が開始。稲嶺の拳銃は射程の問題か、それとも箱乗りかつ片手撃ちという不安定な状態だからか、そのすべてが左右上下へと逸れる。そしてメイン武器であるのに銃撃の得意ではない新谷の銃撃も似たようなもの。しかしそのいくつかは明らかに命中し、後ろのナンバープレートが外れて転がっていく。


「くぅぅぅ、私も」


 何もしていないのが退屈なのであろう空見はそう口にしながら、運転席の隣にあるマイクへと手を伸ばす。そしてなんとなくやりたいことを察したドライバーが片手でスイッチを入れると、彼女は思いっきり叫ぶ。


『前の車、止まりなさい。繰り返す、前の車、止まりなさい』


「言われて止まるくらいなら初めからやってないだろうけど」


 稲嶺は弾切れになったため、猪原から新たな弾を受け取り装弾しつつつぶやく。


『止まらないと撃つよ』


「もう撃ってます」


 狙撃銃というよりアサルトライフルの類かと思うほどに連射させる新谷もつぶやき。


 夜の高速道路。銃声に、エンジン音、そして空見のハイテンション警告、それらが響き渡る中、タイムリミットは迫る。もし船で海まで逃げられれば彼らはほぼ手出しができないのである。


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