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夜明けの新世代  作者: 日下田 弘谷
第2章 戦場の生殺与奪
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第9話 代償

「稲嶺。一旦引いて体勢を立て直そう」


「し、しかし」


「いいから」


 猪原が出した急な指示に対して稲嶺は一旦距離を置く。あまりに強い口調の言い方に、何か作戦があるのではないかと思ったのである。


「新谷、空見。こちらから攻め込むには足場が悪すぎる。向こうから攻めてくるか、もしくは相手の動きが止まるのを待とう」


『猪原さん?』


「ちょっと。状況分かってんの?」


 その提案に無線越しの新谷、そして空見も疑問を呈す。


「分かってる……僕らの仕事は『新生物を倒すこと』なんだ」


「あぁ~、なるほど……了解。気は進まないけどね」


 空見はその意見に一部同意を示すが、良心が全面的な賛同を示すには至らない。


『空見さん、本気ですか?』


「本気よ。だから援護してよね。その時が来たら、ね」


『は、はい』


 猪原発案の作戦がこの時点を持って始動する。だがその詳細を知るのは猪原と、全貌を察した空見のみ。


『(キレちゃうのも仕方ない……けどね)』


 積極的に客の援護に回っていた稲嶺が退避開始。待機指示中の新谷もこのタイミングを生かし、銃の装填を始める。この場唯一の防衛戦力が引いたとなると、もはや敵が狙うものは決まっている。


「お、おい」


「うわっ」


 その触手が撮影をしていた客集団に振り下ろされる。端末を放り出してまでの回避になんとか成功するが、一瞬遅れればあっという間に押しつぶされるだろう。


『猪原さん、空見さん。援護は?』


「まだいい。というより、多分、新谷の出番はない」


「そうね。せいぜいできるのは敵の注意を引き付けること。だけど今回のそれはこっちの仕事じゃないし」


 一般人が襲われている状況にも関わらず、現状こちらはただ見ているだけ。その状況に我慢ならない新谷は通信を持って前線組に問うが、猪原・空見の返答は冷たいもの。しばらく大騒ぎしながら逃げ回っているが、いかんせん足場が悪すぎる。すぐに男の1人が捕まってしまう。


「ちょっと。あんた達、国民を守るのが仕事なんでしょ。早く助けなさいよ」


 あまりの急展開。女の1人が猪原らへと助けを求める。しかし、


「悪いけど、それは自衛隊にでも頼んでくれ。自分の仕事は新生物の退治。人助けは仕事じゃないんだわ」


 猪原もさすがに善人ではない。なんならまだメンタル面が未熟な未成年なのである。


「戦場って実はいいところでさ……人が殺されそうになってるのを見捨てても罪には問われないんだわ。なんなら殺しちゃっても、怪物との戦いに巻き込まれたって言えるし」


 自分たちを馬鹿にした人間を、命を賭けて守ろうという気になれるわけがない。男の一人が無残にタコに捕食され、女が悲鳴を上げるも、彼にとってはただの哀れな被害者が1人増えた程度の認識である。


「それに、逃げろって言ってるのに逃げない奴まで助けられねぇわ。悪いけどここで死んでくれ」


 その直後、捕まった男は悲鳴と共にタコの口の中へ。それはもう一般人にとっては耐えがたい叫びの声と、飛び散る鮮血。さらに知り合いの無残な姿に、連れ達が悲鳴を上げ、泣き崩れる者も現れる。


「ただまぁ、死は無駄にはしねぇよ。なぁ、空見、稲嶺」


「「当然‼」」


 捕食するのに夢中になっていたタコ。今捕まえた1人を口に運び、また新たに1人捕まえたところで、その間に背後に近寄っていた空見と稲嶺が攻勢を掛ける。体重をかけた一閃を繰り出し、それぞれ一本ずつ足を寸断。さらに空見に関しては引き際にもう一本の切断にも成功。この早さと力を兼ね備えているのは、さすが人並み外れた力を持つ新世代であり、剣術については一日の長がある彼女ともいえる。


 だが欲を出しすぎたか。逃げるタイミングが一瞬遅れただけに、敵の空いた触手が彼女を叩き潰さんと迫る。


「っと。よくやった空見」


「サンキュー、猪原」


 だがそれを守るのは猪原であり、


『出番がないってのはひどいと思いますが?』


 注意を引き付けるのは新谷の仕事である。そうしてタコの意識が新谷に向いた瞬間に稲嶺に続いて、猪原・空見も一時離脱。


「さぁ、戦果報告。私は2本切断」


「自分は1本」


「合わせて3本。残り5本」


 もっともそのうち2本については客を掴んだまま。1本は少し前に先の方だけ切断しているため、自由に使える健在な足は残り2本。


「空見。締め、行ける?」


「ま、やってみるわよ。猪原は私の援護。稲嶺は可能な限り足を切断」


「了解」「心得た」


「新谷は私たちを撃たない範囲で援護。その……猪原の意見を汲めば、客は最悪撃ってもいいみたい」


『え? あっ、はい、え?』


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