王都で結奈を待っていたのは、何故かド派手な王子!
俺たちは、その後三日掛けて、王都に着いた。
そのまま、カーマイン家の屋敷に逗留する事にした。
結奈を、直接宮殿に連れて行く訳にはいかない
俺の父である、クレスター・カーマイン伯爵に逢わせてから、殿下に報せようと思っていた。
屋敷に着くと、侍従長のオズワルドが出迎えていた。
「お帰りなさいませ!ロナルド様」
「留守中、何か変わりはなかったか?」
「はい!宮殿より、三度使者の方がお見えになりまして、ロナルド様の、お帰りを尋ねに来られました。」
「ロナルド様。そちらのお嬢様は?」
「ああ~、名前は結奈だ。大切な客なので、低調に仕えてくれ。それと、結奈はこの国の事には疎いので、侍女長のマーサに、世話して貰うように手配を頼む。」
「結奈です。宜しくお願いします。」
「はい。そのように手配をいたします。」
「父は、相変わらず屋敷には、戻らないのか?」
「はい。明後日、お城にて他国の姫君達をお迎えして、舞踏会が開かれます。その為に、此処の処お忙しく、いつもお城で過ごされてお出ででございます。」
「エンドリア殿下の花嫁選びか!」
「はあ~。左様でございます」
結奈は客間に案内されて、侍女の方が、煎れてくれたお茶を飲んでいた。
ロナルドは、侍従長と二人で自室に行ったので、久しぶりに自分の時間を満悦していた。
カーマイン領から出てから、いつもロナルドと二人で過ごしていた。
人に、慣れていない私は緊張の毎日なのだ。
此処の男性は、女性に対して異常に過保護過ぎるのではないか?私には、放置して貰った方が精神的配慮だと思う。
(優しいロナルドには言えないな~)
大きな窓の外は、手入れされた庭園が見える、今は雪化粧だが、春になればきっと素晴らしい庭園だろう。
庭の真ん中辺りに池があり、その側にはドーム型の東屋が建っている。私は、一人その景色を眺めていた。
ドアをノックする音がした。
「はい!どうぞ。」
ドアを入って来た人は、40代位の女性だった。
私の前に立つと優雅にお辞儀をすると。
「お嬢様。私は、この屋敷で侍女長を務めております。マーサと言います。
お嬢様が此処に逗留される間は、お世話をさせて頂きますので、何なりと言いつけて下さいませ。何か御希望は御座いませんか?お嬢様?」
「すいませんが。一つお願いがあります。」
「はい!なんなりと?」
「私の事は、結奈でかまいません。名前は結奈です。結奈と呼んで貰えると嬉しいのですが?お嬢様は何だか身体が擽ったいような?つまり拒否反応を起こしているの!結奈でお願いします。」
「しかし、ロナルド様の、大事なお客様を呼び捨てする訳にはいきません!ここでは、結奈様と、お呼びする事ではいけませんでしょうか?」
「名前を呼び捨てにする事は駄目なの?私、ロナルドと呼び捨てなのですが?」
「いえ!ロナルド様とお嬢様・・・失礼を結奈様の間では、構わないと思いますが、私達はこの屋敷に仕えている者が、呼び捨てにする訳にはいかないのです。私が呼び捨てにする事で、屋敷の者達皆が、大事なご主人様の、お客様を蔑ろにしたのでは、面目が立ちません!様を付ける事をお許し下さい!」
「ごめんなさいね!自分の事しか考えていなかったわ!では此方も譲歩して、必要最低限で名前に、様を入れて呼ぶことをお願いします。マーサさん」
「私の事はマーサで、お呼びください!お願いします。結奈様!」
「我が儘いってごめんなさいね!私は、この国の作法もしきたりも何も知らないの。だから、マーサ!私に色々な事を聞かせて下さい。宜しくお願いします。」
「はい!私でお教えすることであれば、喜んで!結奈様!」
私達は、お互いの顔を見つめてから、どちらとも無く笑い出した。
私は、呼び方一つでバトルしたのは初めてのことだ。
そのお陰でマーサとは、良好な関係を結んでいる。
この異界に来てから、人の繋がり増えていく。
日本に居た、あの頃の自分が幻のように思える。
しかしもうあの頃の自分も日本にも戻る事は出来ない
私は、此処で生まれた結奈として生きて行かなければならない。異界から弾き飛ばされるまで、ここで頑張るしかないのだ。
ロナルドはこの屋敷に来てからは、忙しいのか?朝食を、一緒に食べたきりで、それ以降逢っては居なかった。
私は自分の部屋で本を読んでいた。
この屋敷には沢山の本があり、ロナルドは、何時でも好きなだけ読んでも良いと言ってくれたので、興味のある数冊の本を持ってきて読んでいる。
どうしてなのか?不思議な事だが、言葉も読み書きも、不自由しないのだ?これは、理論的に考慮しても説明が出来ない?本を開いて文字を見ても、日本の文字ではないのだけど、私にはそれが読めて、すらすら書くこともできる。
この事は、有り難いと思い、余り深く考えない事にする。
そんな日の午後。マーサが来客を告げて、下の応接間に来て欲しいと部屋に来た。
私は本から眼を離して、おもむろにソファから立ち上がり、スカートの座り皺を伸ばした。階下の応接室のドアをノックした。
部屋の中よりドアが開いて、ある光景を思い出した。カーマイン家の領地での屋敷で起こった、私が逃亡した時の光景が頭の中に過ぎる。その時のイケメン3人組が眼の前にいるのだ。(何?嫌だ!嫌な予感がする)
中でも、一番ピカピカに派手な衣装に身を包んだ男性が、近づいて私を抱きしめた。
突然の事で、それも一番苦手な人に抱きつかれて、パニック状態に落ちる。
思わずその男の頬に、平手をお見舞いする!
「見ず知らずの男に、抱きつかれて、へらへらしていると思ったら大間違いよ!私はこれでもまだ清い身体で、誰も触れさせた事がないのだから!」
「ロナルド!貴男!其処にいて、何故、この変態男を止めないのよ!笑ってないで何とかして!」
「結奈!こんな修羅場に出会った事が無いので、この状態が面白くて!止める事も忘れていたよ!」
「ロナルド!いつも言っているわよね!俺が私を守る?貴男の守る事の意味は、私の事を変態に好きにさせる事なの?」
「君は、この国の、王子様に向かって変態扱いをするなんて、同憂つもりだ!どんな刑罰がその身に起きる事を考えないのか!」
「やめろ!ロベルト!私が悪かった。結奈の居た処では、スキンシップはしないのか?久しぶりに逢いたい人に出会ったら、抱きしめてみたくなるだろう?」
「残念ながら、私の育った処では、再会しても、抱きしめる行為をするのは、恋人同士でしかしません!誰とでもそんな事をしたら変態行為で、警察に訴えられますよ!」
「結奈は、初めての経験なのだな!そなたは、その歳でまだ処女なのだな?」
「いくらなんでも!国の王子だろうが、他の人の前で目の前の女に処女!言って良いことと悪い事ぐらい理解してないのですか?この歳で処女がそんなに悪い事ですか?」
「結奈!私が悪かった!謝るよ!この国の女性は14歳になるともう結婚もできる年齢なのだ。だから結奈の年齢でまだ・・・・初・・男を知らない方が貴重なのだよ。私はデリカシーに欠けていた。そうか?・・・結奈は初雪の様な人なのだな。」
私は自分の耳を疑った?14歳で結婚?20歳迄には経験者?
私、ここでは行き遅れのお局様なの?何という破廉恥な国に着たのだろう。
日本でも、四百年まえ迄はそうゆう事も在った事は、ドラマや本での知識は在ったが、現実に突きつけられると、唖然としてしまう。
最近の日本では、結婚適齢期もどんどん上がっている。
私、まだ成人式にも出ていないのに?もう婚期過ぎている。
「結奈に逢いに来たのは、君にも、明日の夜に開かれる舞踏会に、来て欲しいからだ!来てくれるよね?」
「ごめんなさい!無理!無理です。私が、舞踏会なんてとても行けません。低調にお断りします。」
「結奈!これはお願いではなくて、この国の王子の、頼みを拒否する事は、この国を冒涜する事になるから、君には、牢獄に入って貰わなければならないだろう!そうだろう?ロベルト騎士団長!」
「はい!殿下!左様でございます。今直ぐにでも、逮捕して、城の地下牢に連れて行きましょう!先ほどよりの殿下に対する態度も、無礼でしたので、この処置は致し方ないかと!」
「お待ち下さい!殿下!結奈にも、少し考える時間も必要かと?それに舞踏会の支度もありますので、今日の処は此くらいでお許し下さい。殿下!」
「ロナルドの言う事も一理ある、結奈!明日の夜。そなたが来るのを楽しみにしているぞ!」
私は、混乱していた。大勢の人で溢れかえった、広間の状況を妄想するだけで吐き気がする。(なんなのよ!どうして!こんな状況に追い込まれるの!)
私にとって異界は、面倒なことばかり巻き込んでくれる。
そうだシャロン!あの猫、私の指導者だって言っていたのだから!この状況を説明して貰わなければ。いけないわ。。
宮殿にいる?宮殿に、シャロンがいるって事は、明日舞踏会に行かなくては、シャロンにも逢えない?同じ王都に居るのなら何故こないのよ!(本当に怠慢な指導者なのだから!)
私は、どんよりとした気持ちで、自分に与えられた部屋に戻った。
そこには4~5人の女性の軍団が私を取り囲み、ドレスを次から次ぎへと着せかえして行く。
この騒ぎは何なの?側にいるマーサに助けを求める。
「結奈様。明日の舞踏会のドレスのお支度です。時間が限られていますので、最初からお作りするのは無理です。店にある物を持ってこさせました。お気に召した物は御座いましたか?」
「私は、ドレスの善し悪しの区別が就かないわ?だからマーサのセンスに任せる!でも短時間で決めて。長い時間をかけていたら、当日は、病気になり欠席なんていう状態に成りかねないでしょう?」
私のこの一言で、優秀なマーサは、見事私の予想を遙かに短い時間で、ドレスは決まり手直しが終わった。
私は、少し遅めの夕食を取り、お風呂に入りベッドで休む事にした。
マーサも、ホットした様子で、部屋を出て行った。