表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
実験小説『イケベ大公爵家の日常』  作者: 西村紅茶
マリエ・イケベ編
13/24

その3


◆ヤンデレ入ってるイケベ大公爵家のメイド マリエ・イケベの二月三十日付けの日記



 今日は大変なことがあった。


 シホ様が、家に帰るとおっしゃったのだ。私はもう、ほとんど倒れそうになりながら問いただすと、あちらの世界に帰ってしまってもう来ないというのではなくて、ちゃんとあちらの世界とこちらの世界を行き来できるかどうか、確かめておきたいとのことだった。


 わたしのような単なるメイドが御主人様を束縛なんてできないのだけれど、わたしが、おみ足に縋り付いて、泣きわめいてお願いすると、なるべく早くこちらに帰ってくると約束してくださった。



 シホ様はわたしのことを「マリエさんって『やんでれ』だね」とおっしゃった。


 『やんでれ』という言葉の意味は教えて頂けなかったけれど、なんとなく意味は分かる。

 たぶん、ちょっと異常とか、そんな感じの意味だろう。


 言われるまでもなく、自分でも分かっている。けれど、旦那様を失ってから、もう決めたのだ。分別よくして、それで死ぬほど後悔するくらいなら、やりたいようにやるのだ。


 それに、シホ様が「あちらの世界に帰る」とおっしゃったとき、エマさんがすぐに偉い人たちを呼んできてくれたから、わたしとシホ様の周りには、エマさんの他に、マーサさんもデイライトさんもアスラウさんもいて、いつもだったら、わたしがご主人様の邪魔をするなんて、そんなことをしたら大目玉でお説教のひとつもあったかもしれないけれど、この日は誰もわたしを止めなかった。だからシホ様を引き留めたいというのは、わたしだけのわがままではなくて、みんなそう思っていたのだった。



 それで、こちらに必ず帰ってくるとお約束を頂いてから、シホ様は、私達、使用人一同が見守るなか、あの石の板の上に立たれた。


 そうするとシホ様の姿が一瞬ゆらいで、それから消えた。


 私は胸が痛くなって、なんだか貧血を起こしそうになったけれど、ほんのしばらく、多分五秒ほどの間が過ぎると、シホ様は陽炎みたいにぶれながら、また石の板の上に出現された。



 シホ様は、石の板のすぐ前で、噛り付くようにしていた私の顔をお認めになると、私の気も知らないで、のんびりと

「ただいまー」

とおっしゃった。


 わたしは、ほっとするやら、拍子抜けするやらで、どっと涙が出て、シホ様に走り寄って胸にかき抱いた。胸の痛みが消えて、腰が抜けそうになるほど心の底から安心したのに、今度は、なんだかシホ様が憎らしくも思えて、ぶったり噛みついたりしてやりたくなった。


 でもそんなわけにもいかないから、わたしはシホ様をもっと強く、ぎゅうと抱き締めたのだった。そしたらシホ様が、


「むぐぐ……ちょ、ちょっといたいわ……」

とおっしゃったから力は緩めたけど、放したりはしなかった。


 シホ様の額にキスをして、そのまま抱っこで部屋にお連れした。



 シホ様の部屋には、あたりまえみたいに、乳母だから当然なんだけど、アニさんがいて、シホ様を誰にも渡したくはなかったけれど、仕方がないからアニさんにシホ様を渡した。


 シホ様をアニさんに渡すときに、わたしの左手の指の股に、金色にきらきら光る髪の毛が一本ひっかかっているのに気付いた。


 わたしの髪の毛は黒だから、つまりこれはシホ様の髪の毛で、わたしはそれを何気ないふりでエプロンのポケットに入れて、お茶の用意をしてきますと言って部屋を出た。



 お茶の準備をしにいく途中でわたしはトイレに入り、独りになって、エプロンからさっきの髪の毛を取り出して食べた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ