やがて、打ち上げの空へ⑤
妖精ーー。
その力のカケラは火や水、風や土といった自然に宿ることもあれば、感情や記憶など、目に見えないものに宿ることもあるらしい。
そのため、妖精の種類は様々で、姿や性質も妖精によって異なる。
人にいたずらしてこっそり反応を楽しむ愉快な妖精もいれば、静かに寄り添って見守るだけの妖精もいる。
そんな妖精の上位が『精霊』だ。
さらに、その上位が『大精霊』である。
だが、大精霊は希少で、高位の存在と言われていた。
この世界に、ほとんどいないと噂される幻の存在。
だから、みんな、私のことを歓迎ムードなのだろう。
そんな大精霊の私と契約したということで、アリスは注目の的になっているみたい。
これなら、精霊の力を使って、食堂を宣言しても変に思われないかも。
大精霊の加護がある村。
そう銘打って、多くの人たちを村に呼び込めば、必然的にアリスの実家の食堂も、以前のように繁盛するだろう。
花火も好評だったし、幸先は良さそうだ。
(これなら、きっと良い方向におさまるわね)
アリスたちの交流を見て、私はしみじみと感じた。
「ねえ、みんな。アウリは訳あって、働き口と住む場所を探しているんだけど、どこかお願いできないかな?」
「働き口か。そうは言っても、この村で働ける場所は限られているからな」
アリスの問いかけに、村のみんなの反応はとぼしかった。
「なら、アウリ。住む場所と働くところ、わたしの実家の食堂も選択肢に入れてみない?」
「アリスの……?」
急に、アリスの話の方向性が変わって驚く。
私としてはありがたい話だが、いまいちその意図が分からない。
何も分からず、曖昧に微笑み返すと、アリスは身を乗り出してきた。
「風の妖精さんから聞いたと思うけれど、この村、今は精霊がいないのよ!」
聖女であるアリスは、精霊や妖精の声を聞くことができる。
アリスも、先程の風の精霊さんの話を聞いていたのだろう。
「でも、ラトレ村は精霊や妖精を敬い、その恵みに感謝して生きている。だから、精霊の加護がある料理や食材とかなら、かなり需要があると思うの」
胸が早鐘を打つ。
それが本当なら、私の出番はあるかもしれない。
「お願い、力を貸して! わたしは、お父さんとお母さんが生きがいだったあのお店を……人々の笑顔が溢れる食堂のまま、残しておきたいの!」
「アリス……」
アリスの切実な声は、じんわりと私の心ににじんだ。
「そうなのね。分かったわ。アリス、私でよければ、お店のお手伝いをさせて!」
「アウリ……」
私の決意に、アリスの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「これから、一緒に頑張りましょう」
「ありがとう」
私とアリスは涙ぐんで励まし合う。
穏やかで温かい光景。
その様子にわずかに目を見開くと、サフランくんは何か言いたげに目を細めた。
「アウリ様、本当にいいのか?」
サフランくんは困った顔で、歯切れが悪い。
「こんなことは言いたくはないけれどさ。アリスの実家の食堂は、ジルハルト殿下に目をつけられている。たとえ、精霊の加護があっても、お客さんが来てくれるとは限らないんじゃないのか?」
「ああ」
サフランくんの言葉を補足するように、村の男性が言った。
「実は、ラトレ村の『愛され食堂』の料理は美味しくないって、近隣の町や村で話題になりつつあるんだよ。王族が絡んでいるだけあって、噂の流布の速さは半端じゃない」
「そんな……」
アリスは目を見開く。
サフランくんたちの言いたいことを察してしまったのだろう。
つまり、これから先、ラトレ村の食堂に訪れる旅人はいないということだ。
「ルージュ王国以外の旅人が来てくれたら、いいんだけれどな」
サフランくんが気の毒そうに言う。
そんな常連客がいれば、現状はもっと違っていたかもしれない。
でも……。
「……私、アリスの実家だから、働きたいと思ったんです。そのお店だから、お手伝いをしたいと思ったんです!」
きっぱりと言い放つと、サフランくんたちが戸惑っているのを感じた。
私は改めて、アリスを見据える。
「私の契約主はアウリス・リネット。主のために力を尽くすのは精霊の役目。だから、お店のお手伝いをしたいの!」
「……アウリ、ありがとう」
満面の笑みと一緒に放たれたアリスの言葉を、私は胸に抱きしめた。
その光景を目の当たりしたサフランくんは、観念したようにため息を吐いた。
「聖女のアリスと大精霊のアウリ様がいるお店か。こりゃ、とんでもない食堂になりそうだな」
「聖女様と大精霊様がいる食堂か……。めずらしい料理が食べられそうだ! もし、男手が必要な時は、いつでも呼んでおくれよ!」
「村のみんなが交代で通えば、ひとまず閉店はないよな!」
サフランくんたちの温かい言葉の数々に、私たちはほっと胸をなで下ろす。
「でも、王族や貴族の人たちが、アウリ様を狙ってきそうだよな」
サフランくんの声には、どことなく緊張感があり、空気が塗り替えられる。
大精霊の加護は、ラトレ村にとって恩恵であるけれど、国の脅威になりうるものだ。
下手をすれば、私は国の管理下に置かれるかもしれない。
それでも、私はありったけの意志を込めて宣言した。
「もし来ても、私たちの力で返り討ちするので大丈夫ですよ」
「二人とも頼もしいな」
「はははっ、聖女様と大精霊様か。こりゃ、王族や貴族の奴らも、うかつに手出しはできないな!」
村の人たちの笑い声に、何とはなしに心が弾む。
村特有の団結感がまぶしい。
聖女と大精霊が協力して作る、めずらしい料理。
確かに、いいアイデアだと思う。
素敵な予感に、足取りまでもが軽くなった。
ジルハルト殿下からの妨害が気がかりだけど、お店のために、私なりにできることをしていきたいと思った。




