やがて、打ち上げの空へ④
「初めまして。この度、アリスと契約させて頂きました、星を司る大精霊、アウリス・クロエです。アリスと名前が同じでまぎわらしいので、『アウリ』と呼んでください」
「うわあっ、精霊さん!」
「アリスお姉ちゃん、精霊さんと契約したの!」
それを聞いた子どもたちが、私たちのもとに殺到する。
精霊をまともに見るのは初めてなのかな?
子どもたちの圧がすごい。
「そうですよ。アウリは、星を司る大精霊です!」
「すごーい!」
アリスが私を紹介する。
すると、子どもたちのその歓声とともに、張り詰めていた場の空気が温まった。
「魔法、見せて!」
「僕も、魔法見たい!」
「魔法……ですか?」
そのお願いに、私はぐるりと頭を悩ませる。
子どもたちが喜んでくれそうな星魔法。
それってやっぱり、『あれ』よね!
そう判断して目を閉じると、日本で何度も見た花火の光がまぶたの裏で蘇った。
夏の風物詩の一つ。
前世の友達と一緒に、お祭りに行った時のことを思い出す。
目を開くと、そこには夜の帳が下りてきそうな夕暮れの空。
これは、絶好の花火日和かもしれない。
「よし、出てきて! 花火の精霊さん!」
私は両手を広げて、精霊を呼び寄せる。
『お呼びでしょうか? 星を司る大精霊、アウリス・クロエ様』
私の呼び声に従って、線香花火のような儚い姿をした精霊が目の前に姿を現した。
「精霊が、精霊を呼んだ?」
予想外だったんだろう。
サフランくんは面喰ったように言葉を詰まらせた。
「花火を打ち上げたいの。お願いできる?」
『かしこまりました』
私のお願いに、花火の精霊さんは快諾する。
「わあっ、なになに!?」
「かわいい!」
子どもたちはたちまち、好奇心むき出しで近寄ってくる。
花火の精霊さんは平然として、子どもたちに囲まれていた。
温和な花火の精霊さんは、意外と子ども慣れしているのかもしれない。
「私は、星を司る大精霊。大精霊はね、自分と同じ属性の眷属(精霊)を生み出すことができるのよ!」
「おなじぞくせい?」
「けんぞく……ってなに?」
疑問が尽きない子どもたちに、私は言い直した。
「えっとね、精霊のお友達を呼ぶことができるの」
「すごい!」
子どもたちのはしゃぐ声に、私は少し照れくさそうにする。
「……なるほどな」
サフランくんは目を見開いたが、すぐに納得する。
「大精霊だと、そんなすごいこともできるんだ。言われてみれば、手荷物がないな」
荷物を持たない旅人なんて、普通ならあり得ない。
女性なら、特にカバンのたぐいは必須だ。
手ぶらという時点で、私がただ者ではないと踏んだのだろう。
「じゃあ、花火の打ち上げをお願い。準備はいい?」
『もちろんです』
「さあ、今のラトレ村の空は、絶好の花火日和! 打ち上がりますのは、聖女アリスの帰還を祝う特大スターマインです!」
私が目配りすると、花火の精霊さんは華麗にお辞儀をした。
——ドンッ。
花火の精霊さんが手をかざすと、花火の音が辺りに轟いた。
同時に、空に大輪の花が咲く。
「なんだ、これ? すげぇー!」
「わあっ! すごーい!」
「キラキラ!」
サフランくんと子どもたちは、同時に頭上を仰いだ。
絶え間なく空を彩るそれを見て、村のあちこちから歓声が上がる。
「……花火を見るのなんて、久しぶり。これって、星魔法?」
「うん。花火に似せた星魔法。花火の精霊さんに打ち上げてもらっているの」
「そうなのね、素敵!」
私の説明に、アリスはぱあっと表情を輝かせた。
赤や緑、黄色や紫。
色とりどりの光が、次から次へと空に高く放たれる。
そして、巨大な円を描き、またたき、こぼれ落ちていくように散っていく。
「子どもたちが喜んでくれて良かった……」
私はほっと胸をなで下ろしてから、花火の精霊さんを見つめた。
「次の花火で、最後にしようか。花火の精霊さん、ありがとう」
『分かりました。では、とっておきの花火を打ち上げますね』
空に咲いた一番大きな花火が、私の想いに応えるように儚く散っていく。
花火の精霊さんはそれを見届けた後、すっと姿を消していった。
花火が終わった後、静まり返った静寂の中で、私はサフランくんにつぶやいた。
「ねえ。この光を、小さな箱の中に映し出せるとしたら……興味ある?」
「えっ……?」
とんでもない提案を持ちかけられて、サフランくんが唖然としていると。
「サフランくん、アリスちゃん、今のは何だい?」
「すごく綺麗だったよね」
近くにいた村の人たちが、好奇心を隠しきれない顔で聞いてくる。
「みんな、紹介するわね。わたしと契約した、星を司る大精霊、アウリス・クロエ。今のは、彼女の力によるものなの」
アリスが前に出て、かいつまんで説明した、その瞬間――。
「ええええ!?」
「大精霊様!?」
村の人たちはみんな、仰天して大声を出す。
「アリスちゃんが、大精霊様と契約!?」
離れた場所でも、混乱が起こっている。
「大精霊って、そんなにすごい存在なのかしら?」
『も……もちろんです』
私は唖然とする。
そんな中、近くを飛んでいた風の妖精シルフさんが教えてくれた。
『少なくとも、この村では、精霊はとても貴重で尊い存在なのです』
「えっ……? そうなの?」
目を丸くしているシルフさんから、素敵な情報を聞いた。
この村、精霊がいないらしい。
以前はいたけれど、別の場所に移動してしまったというのだ。




