やがて、打ち上げの空へ③
「私のお願い、叶えてもらったんだもの。私も、アリスの実家の食堂が繁盛できるように協力するわ!」
「アウリ、ありがとう」
私たちは同じ人物の転生者だ。
特筆する人生ではなかったけれど、同じ前世の知識を有している。
アリスの実家を見捨てるなんて、天地がひっくり返ってもできるわけがない。
だけど、相手は王族。
精霊の力を使って、妨害返しするのは悪手だ。
変な噂が立って、アリスの村に何らかの悪い影響が及ぶかもしれない。
「どうしたらいいのかな」
うーんと唸っていたその時、頭の中にぱっと閃光が走った。
「そうだわ。精霊の力を使って、お店を宣言すればいいのよ」
突然、ひらめいた考えに指が震える。
心から、胸が打ち震えた。
もしかしたら、アリスたちを救う方法を見つけられたかもしれないから。
「この案なら、きっと、アリスのご両親も喜んでくれるよね」
その笑顔を想像するだけで、心がほわほわと温かくなる。
未来は定まっていない。
私たちの想いが、どのように未来を彩るのかはまだ、分からない。
それでも、前に突き進むだけだ。
私の幸せはもちろん、私の大切な人たちの幸せにも絶対にたどり着くために――。
私は空を見上げながら、これからの明るい未来に想いを馳せた。
食堂の繁盛。
私たちが抱いた決意がまさか、新たな国づくりと、魔道具を用いた世界放送のテレビ番組の制作につながっていくなんて、この時は思いもしなかった。
*
アリスと契約して、ついに始まった念願の異世界『アルトクラン』生活。
だけど、順風満帆とは言いがたい。
アリスの実家のお店が、ジルハルト殿下の魔の手によって、潰れかけている。
つまり、閉業の危機。
これはまさに、星の大精霊と聖女による、初の共同作戦ね!
長旅を得て、私たちがたどり着いたのはアリスの故郷、ラトレ村だった。
「ここがラトレ村ね。いつも上空から見ていただけだから、こうして足を踏み入れるのは、何だか不思議な感じ」
私はつぶやき、前方の村を眺める。
建物の数からして、恐らく人口は多くないだろう。
周囲は緑が豊かで、村のものと思われる畑が広がっている。
「精霊の需要はありそうね」
私は表情を華やかせる。
町より村の方が、精霊の出番は多いと思うのだ。
精霊と接する機会が多い聖女の故郷。
それにルージュ王国の温暖な気候は、精霊の恵みとされているため、村の人たちはきっと精霊である私を歓迎してくれるはずだ。
そう信じたい。
「よし! まずは、私の働き口と住む場所を決めなくちゃ!」
「アウリ、わたしも協力するわね」
「……アリス、ありがとう」
アリスの簡素で温かい言葉に、私はじんとする。
心が嬉しさと幸せでいっぱいだった。
アリスと契約して本当に良かった。
感傷に浸っていると。
「アリス、久しぶりだな」
いきなり遭遇したのは、アリスの知り合いの男の子だった。
外見年齢はアリスと同じ、十五歳くらい。
輝くような栗色の髪に、宝石のように美しい瞳。
小柄で、あどけなさの残る顔立ちの男の子だ。
転生の間で、異世界TVのアナウンサーをしていた時に見たことがある。
アリスの実家の近くに住んでいる、サフラン・フォーラムくん。
愛され食堂のお得意様だ。
彼は魔道具師で、この村で唯一の魔道具工房を立ち上げている。
魔道具師とは、道具に魔法効果を付与できる、特殊な職業である。
魔法の概念を文字化する才能が必要で、誰でもできるわけではない。
この世界は魔道具を基盤に、生活が保たれている。
でも、ラトレ村は小さな村だから、値段が高い魔道具の売れ行きは悪い。
基本はレンタル専門で、畑仕事などに使用されていることが多いみたい。
「サフラン、お久しぶりです」
アリスが花開く笑顔で、丁重に頭を下げる。
そこで、サフランくんが右腕を庇っていることに気づいた。
「腕、どうしたんですか?」
「実はさ、荷物を運ぶ時にひねったんだよ」
「結構、腫れているみたいですね。ちょっと失礼しますね。『ヒール』!」
アリスが魔法を唱えると、サフランくんの右腕の腫れはあっという間に治ってしまった。
「あれ……?」
ふと、サフランくんの右腕にあった『特殊なアザ』が気になった。
複雑な多角形が組み合わさった、水晶の花のような不思議な紋様のアザ。
初めて見るアザに、私が思わず、首をかしげていると。
「アリス、ありがとうな。腕が動かしづらくて、困っていたんだ。相変わらず、アリスの魔法はすごいな」
「そんなこと、ないですよ」
サフランくんが興奮したようにお礼を言ってくれるので、アリスは少し照れているみたい。
聖女であるアリスは、聖魔法が得意。
失った身体の一部さえも蘇させる、最強の聖魔法の使い手。
その力で、多くの人たちを救ってきたのだろう。
アリスの隣で、私がうずうずと話すタイミングを伺っていると。
「ん……? そちらの方は?」
サフランくんが不思議そうに首をかしげてきた。
「紹介するわね。わたしと契約した星を司る大精霊、アウリス・クロエ。訳あって、働き口と住む場所を探しているの」
「大精霊? アリスと同じ名前なんだな」
予想外の単語に、サフランくんが聞き返す。
それに相まって、私は裾をつかんで一礼した。




