↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/50

やがて、打ち上げの空へ②

『聖女アウリス・リネット。あなたにお願いがあってここまで来たの』

「あ、その前に」

『……えっ?』


私の発言に、彼女は困ったように笑う。

その表情に何だか、胸を衝かれた。


「ねえ、その、アウリス・リネットって呼ぶの、やめてくれない」

『でも、同じ名前だから、まぎわらしくない』


私の戸惑いに、彼女は「確かにね」と考え込む。


「なら、わたしのことは『アリス』って呼んで。村のみんなからは、そう呼ばれていたから」

『分かったわ。アリス、これからよろしくね。私は「アウリ」って呼んで』

「分かったわ」


同じ私だからかな。

アリスとは、自然と会話が弾む。

意思疎通しやすいからかもしれない。


『で、話は戻るんだけど、私を召喚して、契約してほしいのよ』

「契約?」


私の言葉に、アリスは不思議そうに首をかしげる。


『ほら、女神様が、星の大精霊に転生した私を、異世界TVのアナウンサーに任命したでしょう。そのせいで、私一人だけ、いまだに女神様のために、異世界TVのアナウンサーの仕事をしている状態なの』


私は今までの苦労を語る。


『私もいい加減、みんなみたいに自由になりたいのよ』

「なるほどね。別にいいわよ」


私が放った願いを、アリスは軽やかに受け止めてくれた。

その瞬間、私の表情はぱっと明るくなる。


『ほんと!?』

「うん。わたしもさすがに、その状態が続くのは嫌だし」


私を後押しする声。

共感してくれる仲間。

元は同じ自分。

すぐに私の気持ちを理解してくれたみたいだ。


『じゃあ、早速、契約を済ませてしましょう』


私は本体をアリスがいる場所まで移動させると、ふわりと地に足をつける。

大精霊にはほとんどお目にかかれないため、アリスはちょっぴり驚くものの。


「わたしが精霊になると、こんな感じなのね」


私の存在をすんなりと受け入れてくれた。

そして、私たちは向かい合うと、厳かに儀式を執り行っていく。

森の中に星の光が降り注ぎ、私の姿が実体化していった。


「やったー! これで私の姿は、他の人間たちにも見えますよ!」

「アウリ、良かったわね!」


実体化成功!

無事に契約を済ませた私は、これで自由の身だ。

新たな精霊との契約に、アリスも喜んでくれたみたい。

ふぅ……。

女神様が何かしらにつけて、文句を言ってくるかもしれないけれど。

女神様のためだけに、異世界TVのアナウンサーをするのはもう、こりごりだ。

まあ、アナウンサー兼レポーターとして、現地取材したら、女神様も満足してくれるかもしれないし、きっと大丈夫よね。

よし、これからは自分の意思で自由に生きてみせる!

ぐっと意気込んでいたら、アリスが躊躇いがちに話かけてきた。


「アウリ……。わたしが、ルージュ王国の第一王子、ジルハルト殿下に、婚約破棄されたこと、知っている?」

「ええ。異世界TVのアナウンサーとして、各地を飛び回っていたからね」


アリスは、心に暗いものを引きずっているように声を落とした。


「殿下の気分に損ねたら、いつ左遷されるか、分からない。殿下の行いに物申すなんて、当然、許されないこと……」


その言葉に、嫌な予感がよぎった。

アリスは恐らく、婚約破棄されたことを気にしていないだろう。

だが――ざぁっと全身から一気に血の気が引いた。


「やったぁぁぁっ! ようやく、解放されたあぁああっ! ……って感激して、景気づけに実家に帰ろうと思ったんだけど、手紙が届いたのよ。両親が営んでいる食堂が潰れそうって……」


アリスの言葉は、そこで途切れた。

胸がちくりと痛む。

その原因って、もしかして――。

予想外なことに動揺している私に、アリスは気丈に振る舞う。


「わたしの実家は、小さな村で食堂を経営しているんだけどね。わたしが殿下に楯突いたことで、商売あがったりみたいなの」

「それって、ジルハルト殿下から妨害を受けているってこと?」

「うん……」


アリスの実家の食堂は、こぢんまりとしたお店だ。

客を持っていかれたとあっては、経済的に打撃だろう。

ジルハルト殿下によって、お店の客が根こそぎ奪われてしまった。

なにそれ。

自分は平然と、公爵令嬢と浮気していたくせに許せない。

ルージュ王国を、魔物の脅威にさらしたのは魔王の私だったけれど。

それでも、それでも――。


「このまま、黙っていたら、聖女の名折れ! 星の大精霊である私と契約を果たしたんだもの! きっちり見返してやらなくちゃ!」

「そうね! このまま、やられっぱなしじゃいられないわ!」


怒り心頭の私の気持ちに、シンパシーを感じたのだろう。

アリスは、今まで溜め込んでいた怒りを思いっきりぶつける。


「そもそも、ジルハルト殿下は浮気したり、婚約破棄したりと勝手すぎるのよ! まあ、わたしとしては、殿下と婚約破棄できて願ったり、叶ったりだけどね!」


アリスの熱弁に、私もしきりにうなずいた。

鬱蒼とした森。

ひしめく樹木の海。

私たちはひとしきり、ジルハルト殿下の文句を言い合う。

ここは森だし、私の大精霊の加護がある。

誰かが、私たちの言葉を聞くことはないだろう。

転生の間にいる女神様たち以外はね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。