果てなき空の精霊歌⑧
「……無視するわけにはいかない。森の入口に行きましょう」
「そうね……」
事態を重くみた私たちは早急に、森の入口へと繰り出す。
そして、王様たちと鉢合わせた途端ーー。
「あなたが星を司る大精霊、アウリス・クロエ様か?」
探るような態度で、王様がそうつぶやいた。
私たちの正体がバレている。
王家の情報網、侮れない。
どうやら、私たちの身元は、既に調査済みなのだろう。
もはや、隠し通せる段階ではないみたいだ。
「……はい。星を司る大精霊、アウリス・クロエと申します。ご尊顔を拝見できたこと、光栄に存じます」
「私はゼルトリア・フリク・ルージュ。ルージュ王国の国王である。お疲れのところを押しかけてしまって申し訳ない。どうしても一度、お会いしたいと思っていたのだ」
私が頭を下げて認めると、王様は洗練された優美な動作で名乗った。
「此度はこの地まで来ていただき、感謝する。大精霊様のご尊顔を拝し、恐悦至極に存じる」
「ええっ!?」
私は思わず、目を大きく見開く。
王様たちが、私たちに対して突然、恭しく跪いたからだ。
王族であるはずの王様が見せた、場違いなほどの敬意。
「陛下、それはお止めください」
「それはできない。今、この場だけ、我が国と臣民のため、膝をつくことを許してほしい」
恐れおののくように恐縮する私に対して、王様は重々しく告げる。
「アウリス・クロエ様。どうか我が国の王城にお越しくださり、ルージュ王国を救っていただきたい。あなた様の望みは、この国の王である私が必ず、守ると誓おう」
王様は力強くそう宣言すると、私と視線を合わせる。
王様は義理がたいお方なのだろう。
その光景が、私には何だか、神聖なものに感じられた。
「私の願いは、みんなが穏やかな日々を送れることです」
私は一呼吸置くと、意を決して口にした。
「みんなが幸せに暮らせる平穏を望みます。その、王様、もうお立ちください……。私には恐れ多すぎて……」
「アウリス・クロエ様。そなたの願い、しかと聞き届けた。みんなが理想とする日々を送れるように、私も影ながら見守ろう」
立ち上がった王様さんがゆったりとした仕草で、私に向かってうやうやしく一礼する。
「ラトレ村。この地に、我が王家の血を引く者、サフラン・フォーラムがいると思う。鑑定で、そのことを確認させてもらえないだろうか?」
「それは……」
私が絞り出すように言葉を紡ぐと、王様は穏やかな口調で話し始めた。
「彼を無理やり、この地から連れ去ったりはしない。彼の穏やかな生活を守ることを約束しよう」
「……分かりました」
私は躊躇いつつも、サフランくんに目を向ける。
「サフランくん……」
「アウリ様、大丈夫です」
サフランくんは小さくうなずくと、王様たちのもとへと歩み寄る。
その瞬間、私の胸を打ったのは初めて、サフランくんの過去を知った日のこと。
この胸に抱く想いは、そこへと通じる道だと痛いほどに思い出す。
高貴な血筋という、抗えない運命。
それを突きつけられても、踏み留まることもなく、前に進む覚悟を決めたサフランくんはとてもまぶしかった。
「サフラン様はまこと、ルージュ王国の王家の血を引いておられます」
「…………っ」
老魔道具師さんの鑑定で見極められて、サフランくんの表情が強張った。
「サフラン・フォーラム」
「……はい」
歩み寄った王様が、サフランくんの背筋までしゃがみ込む。
そして、サフランくんの右腕にあった『特殊なアザ』を見ると、愛しそうに彼を優しく抱きしめた。
溢れんばかりの愛が抑え切れなくなったように。
恐らく、あのアザは、ルージュ王国の王家の証だったのだろうーー。
「そなたは、あまりに純粋で強すぎる才能ゆえに、幼い頃にこの森の中に捨てられたと聞く。此度はまだ、幼いそなたを国の醜い争いに巻き込んで済まなかった。深く謝罪する」
王様の瞳からこぼれ落ちた涙。
それは間違いなく、抱きしめているサフランくんを想って流した……かけがえのない心の雫だった。




