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果てなき空の精霊歌⑥

『それはまことか?』

『確証はありませんが、恐らく……』


老魔道具師さんの断言が、私の心に重くのしかかる。

そしてーー。


『……そうか。ラトレ村に、我が王家の血を引く者が……』


王様のつぶやきに、私の鼓動が大きく跳ねた。


ラトレ村に、王家の血を引く者がいる。


その事実を知った王様は今後、どう出るのだろう。

自分たちの置かれている立場を考えると、事実を知られたことに激しく戸惑ってしまう。

ルージュ王国の崩壊と不穏な影。

テレビの精霊さんから受けた報告を、私は自分の部屋で静かに聞いていた。


「どうやら、ルージュ王国の国王様は、私たちと事を荒立てるつもりはないみたいね」

『はい。精鋭部隊を、森に派遣する余裕はなさそうですね』


そうこぼした私を見て、テレビの精霊さんはほっと安堵している。


「でも、特別な術式に……テレビの再現力に気づいた人がいる。隠し子のことが露見したら、サフランくんの身に危険が及ぶかもしれない」


私は懸念材料を口にする。

ルージュ王国の王家は、表向きは華やかな王家。

だが、裏では代々、王族の血を引く隠し子が『至高の魔道具師』として、王国の国防や宝具を維持する役割を担っている。

サフランくんは、『影の家系』の正嫡として生まれたけれど、あまりに純粋で強すぎる才能を持っていた。

王位継承権を巡る争いや、宮廷魔道具師たちに利用されることを恐れたサフランくんのお母さんが、あえて『ただの人間』として生きられるように遠く離れた森へ捨てた。

そして、ラトレ村の人たちに拾われ、そのまま、『ラトレ村の住民』として平穏に暮らしている。

だが、もし、サフランくんの存在が知られたら、王家の陰謀が、ラトレ村に及びそうになるかもしれない。

その真実で、今までのすべてが……ラトレ村の人たちとの培ってきた関係のすべてが崩れ去るかもしれないのだ。


『アウリス・クロエ様……』

「分かっているわ。アリスやサフランくんたちに危険が及ばないように引き続き、ルージュ王国の動向を探ってちょうだい!」

『かしこまりました』


私が抱いた危惧。

その可能性を認めるように、テレビの精霊さんは慇懃丁重に応えた。


「たとえ、世継ぎ争いが起きても、私たちがすることは変わらない。過去がどうであれ、サフランくんが、ラトレ村の住民に変わりないのだから」


私は部屋の窓から、サフランくんの工房がある方角を見つめた。

サフランくんの工房から聞こえるのは、規則正しい金槌の音。

それは王都の混乱とは無縁の、『命を育む音』として私の耳に届く。

泣きそうな空が、朱をはらみながらに暮れてゆく。

もう少ししたら、ぽつりぽつりと来るのだろうか。

私は訳もなく、胸にわだかまる切なさに思い巡らせた。

王様は、サフランくんの存在に気づいてしまうのだろうか。

それでも、サフランくんの過去が牙を剥いたとしても、絶対に守り抜こうと決意を固める。


過去に縛られるんじゃなくて、前を向いて生きたいと思えるようにーー。


奇跡の連なりで、私たちは巡り会えたのだから。

それを最大限支援するのがきっと、この村に住む、大精霊である私の役目だ。


*


「あの、すみません。ラトレ村に移住したいんだけど」

「受付はこちらですか?」

「はい。ちょっとお待ちください!」


前回の放送を終えた後、ラトレ村の入口には、押し寄せる移住希望者たちの長蛇の列ができていた。

そのほとんどが、ルージュ王国の王都からの移住者だ。


「移住希望者は、こちらにお並びください!」

「最後尾は、こちらになります!」


私とアリスが続けてそう言うと、わっとその場が沸き立った。

村の入り口に殺到する人たちへの受付対応をする毎日。

私たちはその対応に追われながらも、並行してラトレ村の開拓と精霊さんたちの国造りを進めていく。

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