果てなき空の精霊歌⑤
『ジルハルトが派遣した使者。それが我が国の国防低下へとつながり、ここまで国を危険にさらしてしまうことになるなんて……』
ジルハルト殿下たちが、テレビ画面で放った失言と醜態は、各国に波紋を広げる形になった。
『このような重大なことを放置していた、私の罪ということか……』
王様は深いため息をつく。
もう、これ以上速くならないだろうと思っていた鼓動が、さらに駆け足になる。
指先まで心臓のように脈打ったみたいだ。
王様はそれでもできるだけ、近隣諸国との外交を試みた。
異世界TVの放送によって、風評が立ってしまったルージュ王国を何とか立て直そうとしたのだ。
だが、一度、植えつけられたイメージを覆すのは厳しい。
それに流出してしまった情報をすべて封じ込めるのは、ルージュ王国のような、小国の国力では現状、難しかった。
当然、批判が殺到し、困難な立場に陥ることになる。
『歓迎会当日には、この国はどうなってしまうのだろう……』
王様は宰相とともに、ジルハルト殿下が犯した愚行の後始末に追われていた。
テレビという未知の娯楽は、ルージュ王国の王都の民だけではなく、世界中の人々を虜にしてしまっている。
さらに、聖女であるアリスがいなくなったことで、聖女の加護を失ったルージュ王国は衰退の一途をたどっていた。
しかも、精霊さんと妖精さんたちがこぞっていなくなったため、王都は植物が育たない不毛の地になりかけていた。
温暖な気候のもと、多種様々な農作物で繁栄してきた小国、ルージュ王国。
だが、ジルハルト殿下が犯した愚行のせいで、今はその面影もない。
聖女も精霊も妖精もいない、ルージュ王国の王都。
その末路を察したのだろう。
王都を離れていく王都の住民たちが、後を絶たなかった。
かつては王都の人たちの笑い声や、豊かな緑で溢れていた王都。
だが、今は不気味なほど静かで、作物が枯れて、茶色い土埃が舞う街になった。
かつての賑わいが消え、自分の足音だけが空虚に響く王宮の廊下。
王宮の庭園に咲き誇っていたはずの国花が、一晩で灰のように崩れ落ちる。
『この地は、もうダメだな……』
代々、この地で農家を営んできた老人が、枯れた畑を前に絶望して、街を去る後ろ姿も見受けられた。
『王都が枯れ果てていく一方で、緑豊かなラトレ村が、皮肉にも、かつてのルージュ王国以上に輝いて見えるな……』
テレビ画面を眺めていた王様は、玉座に深くうなだれる。
風光明媚で、大精霊の加護もある村。
そこに暮らす村の人たちが、とても生き生きとしていて活気がある。
そんなラトレ村は、今の王様にはまぶしく映ったのだろう。
『何故ですか、父上? ラトレ村の者たちは全員、我が王家への不敬罪で極刑にするべきです!』
肝心のジルハルト殿下は、城内で謹慎を命じられていた。
ジルハルト殿下がここぞとばかりに、ラトレ村に派遣しようとしていた精鋭部隊は、王様によって、すんでのところで呼び止められたらしい。
『王妃よ。ジルハルトはもはや、これまでかもしれない。覚悟しておく必要がありそうだ』
『陛下。ですが、ジルハルト以外で、王族の血を引くのは隠し子たちだけ。隠し子のことが露見すれば、世継ぎ争いが起きるのでは……』
醜態をさらしたジルハルト殿下は、既に王様とお妃様にも身限られていた。
後日、王太子を廃し、一王子になるようだ。
だがーー。
『しかし、このテレビというもの、興味深いですな。この回路の引き方は、ルージュ王家に伝わる秘伝の術式……。もしや、ラトレ村には我が王家の血を引く者がいるのでは?』
テレビ画面を凝視する老魔道具師さんの言葉に、私は胸がざわつき始める。
それを聞いた王様は興奮のあまり、勢いよく玉座から立ち上がった。




