かって夢見た光景③
「ごめんなさいね」
「いえ、献上物の確認は重要なので」
マリン様の謝罪の言葉に、アリスのお父さんは丁重に一礼した。
「では、試食させてもらってもいいですか?」
「どうぞ、お召し上がりください」
リラ様の確認に、私はぺこりと頭を下げる。
マリン様とリラ様はナイフでロールケーキをサクッと切り分けると、フォークで口に運ぶ。
「ふんわり、ふわふわ。口の中で弾ける、この食感。絶妙ですわ」
「どちらも絶品です。このとろけるような味わい、優しい甘さと口溶けが良いですね」
マリン様とリラ様が嬉々として、声を弾ませる。
フルーツを仕込んだロールケーキは、瑞々しい果汁と生クリームが合わさり、口の中で『春の訪れ』を感じさせるような、爽やかな甘みだ。
アーモンド風味を活かしたロールケーキの方は、精霊の加護が宿った、香ばしく濃厚なコク。
食べた瞬間に、魔力が微増するような、不思議な充足感があるのだ。
私も試食させてもらったけれど、どちらも甲乙つけがたい美味しさだった。
「お気に召していただけて光栄です」
アリスのお父さんがそう言うと、精霊さんたちが次々と顔を出して、私たちを取り囲む。
近くで、様子を窺っていたのだろう。
『これがロールケーキですか?』
『美しい……! すごく素敵です!』
初めて見るロールケーキに、精霊さんたちは歓喜で打ち震える。
前のめりになった精霊さんたちは、ロールケーキに興味津々だ。
こんなにテーブルに集まったら、お二人の邪魔になるのでは、と思ったけれど。
集まった精霊さんたちは、私とアリス以外には見えないので、大事にはならなかったみたい。
でも、圧を感じるのか、マリン様とリラ様は精霊さんたちの存在に気づいたようだ。
「不思議ですね。何だか……精霊様たちの祝福の視線を、全身に浴びているような気がしますわ……」
「特別な体験ですわね。皆様、精霊様、妖精様、今日はありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」
心の底から感謝するマリン様とリラ様の幸せそうな姿に、私たちまで嬉しくなる。
「ロールケーキのお礼に、ラトレ村と精霊様たちの国に結界を張らせていただきたいと考えております」
「これほどの『加護』がある地なら、新しい精霊様たちの国の設立を、我が帝国も全面的に支持しましょう」
それはありがたいと私は思った。
ラトレ村と精霊さんたちの国に、マリン様とリラ様の結界があるのとないのとでは段違いだ。
私は大国、ミモザ帝国という、大きな後ろ盾を得て安心する。
「では、しばらくお時間がかかりますが、ラトレ村と精霊様たちの国をつなげるために力を尽くさせていただきます」
「空間魔法を駆使して、ラトレ村の方々と精霊様たちが安心して暮らせるように尽力します」
マリン様とリラ様は毅然とした態度で、これからの展望を語る。
「精霊様たちの住居や温泉など。具体的な施設の案はありますか?」
「ラトレ村に、大浴場を造ってしまうのはどうでしょうか?」
「そうですね。精霊さんたちのために、『お菓子の家』みたいな建物を造りたいと考えています」
私はふわりと、精霊さんたちの国を夢想した。
「それは素敵ですね。僕も、できる限りの支援をさせていただきます」
ラトレ村に訪れていたアウベルさんも同意する。
ラトレ村と精霊さんたちの国をつなげる作業。
そして、精霊さんたちが住まう住居や施設の建設。
かなりの大仕事になりそうだ。
「よし、精霊さんたちのための国造り、頑張るわよ!」
それでも、すべてが順風満帆。
そう思っていたその時ーー。
『星を司る大精霊、アウリス・クロエ様、大変なことになりました!!』
テレビの精霊さんが緊急で割り込んでくる。
『ルージュ王国が、アウリス・クロエ様たちを王城に招待しようと目論んでおります!』
「ええっ!?」
予想外の出来事に、肝を冷やした。
……私はこの時まで気づいていなかったのだ。
テレビ番組という強力なメディアを持ってしまったことで、『村の豊かさ』が隠しきれない噂として、ルージュ王国の王都まで届いてしまっていたことをーー。




