過去への回帰③
『サフラン様はその、「影の家系」の正嫡として生まれましたが、あまりに純粋で強すぎる才能を持っていたようなのです。王位継承権を巡る争いや、宮廷魔道具師たちに利用されることを恐れたサフラン様のお母様が、あえて「ただの人間」として生きられるように遠く離れた森へ捨てたらしく……』
そこで、テレビの精霊さんは心苦しそうに言い淀む。
サフランくんの過去のことを考えていたら、その裏に隠されたルージュ王国の巨大な秘密に突き当たってしまった。
サフランくんが、王族の血を引く隠し子。
改めて考えると、この世界に存在しないテレビや防犯カメラ、真空パックや缶詰の構造を理解して、それに伴う魔道具を忠実に造り上げた才能はとんでもないことだ。
恐らく、ルージュ王国の王家の影の家系しか持ち得ない、特殊な魔力パターンがあるのだろう。
その特別な術式で、サフランくんは無意識に『日本の家電』を再現したのかもしれない。
「それって、脅威の力よね……」
私はその事実を噛みしめるように口にする。
ルージュ王国から来た精霊さんたちが言っていた。
最近のルージュ王国の宮廷魔道具師たちの動向は、目に余るものがあると。
この世界は魔道具を基盤に、生活が保たれている。
もし、彼らがサフランくんのことを知ったら、自分たちの権威のために、王族として迎え入れようとするかもしれない。
そうなれば、ルージュ王国を根底からひっくり返す出来事になる。
そこまで考えて、私ははたと重大なことを思い出す。
「でも、サフランくんは以前、ルージュ王国の魔道具師ギルドで働いていたわよね。王家に、サフランくんの存在がバレているかも……」
その事実に気づいたわたしは、平静を失って狼狽える。
「アウリス・クロエ様、ご安心ください。その心配はないみたいです。サフラン様は平民だと侮られていたらしく、鑑定スキルで、その秘められた力を把握されることもなかったようなのです」
テレビの精霊さんが示した答えは、完全に予想外だった。
「ルージュ王国……。思っていた以上に、闇が深いわね……」
ずさんな管理体制。
ルージュ王国から逃げ出した精霊さんたちの気持ちがよく分かる。
平民出身というだけで、アリスとサフランくんはまともな待遇も与えられず、虐げられていただろう。
そして、それは精霊さんたちにも言える。
精霊さんたちが言っていたとおり、私たち精霊や妖精を、彼らは『道具』としてしか見ていないのだ。
ひどい話だ。
ルージュ王国、想像以上に大きな格差があり過ぎる。
『改めて、申し上げます。このことは内密にお願いしたいのです』
「分かっているわ。アリスやサフランくんたちに危険が及ばないように引き続き、ルージュ王国の動向を探ってちょうだい!」
『かしこまりました』
私が抱いた危惧。
その可能性を認めるように、テレビの精霊さんは慇懃丁重に応えた。
ルージュ王国の王位継承者は、表は王太子である第一王子、ジルハルト殿下だけだ。
でも、裏では『至高の魔道具師』と呼ばれる、王族の血を引く隠し子たちがいる。
サフランくんの存在が知られたら、王家の陰謀が、ラトレ村に及びそうになるかもしれない。
「みんなが望む、穏やかな日々。それを最大限応援するのが、この村に住む、大精霊の役目。この事実は、何としても隠蔽しなくちゃね!」
私は切に願う。
このまま、誰にも知られずに、サフランくんたちが平穏な生活を送れることを。
彼が傷つかないように、穏やかに過ごせる日常を死守する決意を固める。
ラトレ村に、豊穣の恩恵を。
そのためなら、どんな苦労も惜しまないと決めていた。
だが、私はこの時、根本的なことを忘れていたのだ。
食堂の繁盛が村を潤し、テレビ番組放送によって、ルージュ王国の既存の権威を脅かすほどの新たな経済圏やコミュニティを作っていたことを。
だからこそ、『日本のものを具現化する』という画期的な精霊さんを次々と呼び出す大精霊の私を、ルージュ王国の王都の人たちが放っておくはずがなかったーー。




