新たな国造り④
今、迂闊に依頼を出せば、それだけで怪しまれてしまう。
だから、ミモザ帝国の冒険者ギルドで、協力を求めようと思ったのだ。
ここなら、ミモザ帝国の双子姫の影響下である。
ジルハルト殿下たちの魔の手が伸びることはないだろう。
一方、シルフさんたちによって、『森の牢獄』に閉じ込められた調査官さんたちは、森での生活を余儀なくされていた。
『くそっ! 出口はどこだ?』
調査官さんたちは初めこそは、森から脱出しようとムダな努力をしていたけれど。
どうやっても、ここから出られない。
それが分かった瞬間、とてつもない絶望感が襲ってきたようだ。
調査官さんたちは、全身の力が抜け、その場にへたり込む。
だが、森の中にある『赤い屋根の白いレンガの小屋』を発見したことで、転機が訪れた。
『……なんだ、ここは?』
命からがら入った小屋の中は、蓋を開けてみたら、まさかの『超ハイテク技術が詰まった家』だった。
小屋の中は、小屋とは思えないほど、おしゃれな雰囲気を醸し出していた。
部屋には丸テーブルと棚と布団があり、休憩スペースのようになっている。
タブレット端末で、料理や飲み物を注文できるし、タンスの中には、着替えなどもそろっていた。
魔道テレビやお風呂やシャワーなどの設備も充実しており、まさに至れり尽くせりだった。
『今日のごはんは、親子丼にするか』
『私は、カツカレーにしよう』
『「タッチパネル」というものを押すと、しばらくしてから料理が出てくる。この仕組みは素晴らしいな』
最初はこの森を出るまでの拠点だったけれど、いつの間にか、調査官さんたちは小屋に居着いてしまっている。
よほど、居心地が良かったのだろう。
「実は、タッチパネルで選んだ料理は、アリスのお父さんとお母さんが作っているんだけどね」
私はこそっと、内緒話をするように小声でつぶやく。
調査官さんたちは、本来なら『森の牢獄に拘束したまま、放置する』つもりだった、
だが、優しいアリスの両親の意向で、『移住食』だけは維持することになったのだ。
まあ、あのまま、行き倒れにするのは目覚めが悪いしね。
『はあ~~。俺はもう、ここで暮らし始めてから一生分は驚いたぞ』
『私もだ』
『ここでの暮らしを伝えたら、虚偽報告で処罰されるかもな』
調査官さんたちは、調査官の仕事をしていた時よりも、快適で悠々自適な暮らしをしているようだ。
ちなみに、設備はすべて、現在知識をもとに呼び出した精霊さんの力のおかげである。
そして、美味しい料理や飲み物は、アリスのお父さんとお母さんのおかげだ。
『まさに、俺たちの理想を再現したような場所だな。王国に戻るより、ここにいた方が幸せなのでは……?』
『よし、決めた! 私は帰らないぞ! 一生、この小屋で暮らす!』
『スローライフ、最高!』
調査官さんたちは元気を通り越して、違うところに行ってしまった。
そんな元気溌剌な彼らの状況の説明は置いといて、改めてミモザ帝国の港町、ヴァルバルト。
「うわあっ、綺麗!」
潮風が頬をなでて、私の髪を揺らす。
港には、大小様々な船が停泊していた。
その向こうには、コバルトブルーの海原が水平線を描いている。
「海、すげえな!」
「本当ね!」
一緒に付き添ってくれたサフランくんとアリスも感動していた。
「よし。早速、冒険者ギルドに行きましょう!」
私たちは白いレンガが敷き詰められた石畳を、色鮮やかな建物の間を縫って進む。
カラフルな建物が並ぶ港町。
海に吹く優しい風を肌で感じ、染み渡る青空を見上げる。
「大きな港町ね。冒険者ギルドに行くのが楽しみだわ!」
心なしか、足取りが軽くなる。
視線を向ければ、アリスとサフランくんも、冒険者ギルドに行くのがよほど楽しみなようだ。
肝心の冒険者ギルドは、町の中心部にあった。
ギルドに入ると、受付の女の人がテーブルを整えていた。
「ここが、冒険者ギルドみたいだな。依頼は、ルージュ王国の王都の冒険者ギルドと同じように、受付に出せばいいはずだ」
「そうみたいね!」
サフランくんの言葉に、アリスは興味津々みたい。
私は早速、手にしていた依頼書を受付に出しに向かう。
「ラトレ村の警護依頼ですね」
「はい」
受付の女の人の確認に、私はしっかりうなずいた。
しばらくの間、受付の女の人がやる作業を興味津々で食い入るように見ていると。
「問題はなし、ということで、受理させていただきます。こちらは、依頼を受理した証明書となります」
「ありがとうございます」
受付の女の人が私に渡したのは、今回の依頼を受理した証明書だった。
「アウリ、サフラン、見て! 依頼はあそこに貼られるみたい!」
アリスが指さしたのは、大きな掲示板のようなものだった。
早足で向かってみると、そこにはアリスの言うとおり、依頼がずらりと並んでいた。
討伐依頼。
護衛依頼。
採取依頼。
様々な依頼が貼られている。
恐らく、ラトレ村の警護依頼も、ここに貼られることになるのだろう。




