新たな国造り③
『本来なら、精霊様は崇められる存在なのに、酷使するなど許されません』
『精霊様をお守りすることが最優先事項です。精霊様たちの国造り、せいいっぱい、力を尽くさせていただきます』
「お心遣い、感謝いたします」
そううなずいたアリスの瞳に、喜びの輝きが宿る。
こういう事象に置かれて、一人ではないということは、とても心強いもの。
それが同じ前世を持つ人物なら、なおさらだ。
私たちには、精霊さんたちのためにやらなくてはならないことがある。
今回のチャンスを生かすも殺すも、私たちの手腕にかかっているのだ。
精霊さんたちのための国造り。
そのための機会が、ようやく訪れたんだ。
すべてが終わった時、精霊さんたちの境遇が少しでも良いものに変わることを祈りながら。
私たち『アウリス』はそっと見つめ合い、同じ想いを重ねて微笑んだ。
再び、再会した私たちーー。
まるで、特別な世界に迷い込んだような心地になる。
やがて、気持ちを切り替えるように、マリン様は明るい話題を振った。
『そういえば、食堂は順調ですか?』
「はい。お客様も増えて大繁盛しています」
それを聞いたリラ様は、私たちを見つめたまま、迷うような沈黙を落とす。
『その……テレビを拝見したのですが、新作のメニューで、ロールケーキを食べられるとか……。ぜひ、食べてみたいのですが……』
「ロールケーキですか」
私は予期せぬ要望に驚いてしまった。
「……確かにロールケーキは、今までにないおいしさだけど、王女殿下への献上品としては庶民的すぎないか?」
「ううん、そんなことないわよ」
サフランくんの戸惑いに、アリスは小さく首を横に振った。
「一口にロールケーキと言っても、いろんな種類があるわ! ロールケーキの中にフルーツを仕込んだり、アーモンド風味を活かしたものもある! 中には、栗を贅沢に楽しむ、モンブランのロールケーキだってあるわよ! 見た目も味も華やかなんだから!」
「そうなんだな」
アリスの力強い説明に、サフランくんはすんなり納得する。
アリスのスイーツへの愛が破格だったからかもしれない。
そのタイミングで、マリン様は本題に入った。
『今後、私たちは、精霊様たちの国造りの力添えに、ラトレ村を訪れることになると思います』
「分かりました。では、その時に、ロールケーキを献上させていただけたらと思います」
私の言葉に、マリン様は幸せそうに微笑んだ。
『楽しみです。訪れる日程は改めて、お伝えしますね』
「ありがとうございます」
私がそう答えると、精霊さんたちが次々と顔を出して、私たちを取り囲む。
近くで、話を聞いていたのだろう。
みんな興味津々だ。
『ロールケーキ、どんなものですか?』
『すごく興味があります!』
精霊さんたちはそう言うと、喜んで跳び跳ねた。
「とても素敵なスイーツよ。楽しみにしていてね」
『素敵なスイーツ……!?』
『どんなスイーツなのか、楽しみですーー!!』
私の言葉に、精霊さんたちは一斉に歓喜に湧いた。
みんなでスイーツを食べる。
何気ない日常の中にある幸せは、本当に貴重だと思う。
輝くスイーツに見とれていた――なんてお互い様のような感想を唇に添えれば、なおさらだ。
私は、みんなのために、自分のできることをしたいと思っている。
精霊さんたちの架け橋となって、みんなが幸せに暮らせるようにしたい。
そのためなら、どんな苦労も惜しまないと決めていた。
*
精霊は如何なる行動も、世界に対して『可能性』を紡ぐ。
蓄積された奇跡は、やがて世界を救う可能性にすらなるのかもしれない。
精霊とは、そういう特別な存在だ。
「だから、きっと、精霊さんたちのための国造りもうまくいくはず!」
そうやって、私は自分を鼓舞する。
聖女アリスと勇者リスアと魔王ウリ。
ミモザ帝国の双子姫ーー第一王女マリン殿下と第ニ王女リラ殿下。
そして、まだ巡り会えていない私たち。
私には、頼りになる自分が『10人』がいる。
それは、これ以上ない幸福だ。
今世は恵まれている。
だから、精一杯、頑張ろう。
そう思って、やってきたのは、ミモザ帝国の港町ヴァルバルト。
船で手っ取り早く行けて、冒険者ギルドがある町がここだったのだ。
現在、ラトレ村は魔王軍が守っている。
だが、魔王ウリの庇護下にあるとはいえ、村の治安の改善はなかなか難しい。
とはいえ、ネファーの町など、ルージュ王国内の冒険者ギルドで依頼するのも危険な感じがした。
『派遣した調査官たちはまだ、戻らないのか?』
『……大変、申し訳ございません。連絡が途絶えておりまして……』
調査官さんたちが消息を絶った日から、ルージュ王国の王城は騒然としていた。
『あの偽聖女の村の調査に、いつまでかかっているんだ!?』
ジルハルト殿下たちは、ラトレ村に派遣した調査官さんたちが一向に戻らないことに不安を募らせていたのだ。
新たな調査隊を派遣して捜索を行っているが、行方知れずのままだ。




