精霊が招く逃避行⑤
『精霊たちの国……!』
『我々の国ができるというのか……!』
精も根も尽きた私とは裏腹に、精霊さんたちは歓喜に湧いていた。
さて、ここからどう出るかと、興味を引かれているみたい。
憧憬の眼差しで、私たちの出方を窺っている。
その瞬間、私の中で何かのスイッチが入った。
「そうね! 精霊たちを利用する者たち。そんな相手、こちらから願い下げだもの!」
自暴自棄になった私はこぶしを突き上げて力強く言った。
型破りなテレビ番組の放送に、精霊さんたちの大移住。
常識なんて、木の葉みたいにひっくり返してきた私たち。
これくらいで、動揺しているわけにはいかない。
事態は急を要するのだ。
そう感じた私は必死に声を張り上げる。
「言われるままに泣き寝入りするのは、精霊と妖精の名折れ! 精霊さんたちのための国を造って、酷使した人たちをきっちり見返してやらなくちゃ!」
『アウリ様。我々も、全力を尽くします!』
『これまた、革命。大精霊様と聖女様たちの力に不可能なことはないです!』
私の宣言に、精霊さんたちは口々にそう応えていった。
次第に気持ちが落ち着いてくると、改めて、自分が口にした言葉の重みを実感する。
とめどなく弾む胸を押さえて、私は深呼吸した。
「数多の精霊さんたちの恩恵がある村……。これって……すごいことだよ……ね……?」
「ええ。精霊の村と言っても、遜色ない状態だわ」
気持ちを確かに声に込めれば、アリスの唇は微かに緩む。
いつの間にか、食堂の繁盛から大きく飛躍してやりたい放題になっている。
だけど、こんな規格外で波乱万丈なやり方が、『私たち』らしいと思った。
「……よし。楽しみが増えたら、何だか、やる気が漲ってきたわ!」
「そうね! 次回のテレビ番組の収録準備に、精霊さんと妖精さんたちの移住をお祝いする、期間限定のスペシャルイベントの開催準備! それに精霊さんたちの移住先への斡旋をしたりと、やることは盛りだくさんだわ!」
スペシャルイベントと銘打って、新たな国造りの前の『建国祭』みたいな感じになりそうだ。
「正直、お父さんとお母さんが……実家の食堂が、ジルハルト殿下から妨害を受けていると聞いた時は、どうしたらいいのか分からなくて苦しかったけれど……」
アリスの話を聞くたびに、私は少しずつ鼓動が早くなる。
「アウリと契約してからは、毎日が水を得た魚のようだった。食堂を立て直して、新しいメニューを追加して、テレビ番組を放送した」
ようやく、胸のつかえが取れたような気になった。
こんなにも、晴れやかに前を向けるなんて思わなかった。
そう言いたげに、アリスは私を見つめた。
「アウリ……。あなたと出会ってから、わたしは嬉しいことばかり……」
アリスは噛みしめるようにぽつりとつぶやいた。
「あなたに出会えた時のわたしが、どれほど嬉しかったか……。あなたと出会ってから楽しいことばかりだわ。本当にありがとう。感謝してもしきれない」
私は穏やかに微笑む。
言葉に刻まれたアリスの想いを、一滴もこぼしてしまわないように。
どこよりも近く、どこよりも遠い場所に、私たちがいる。
本当はもう二度と交わることはなかった私たちを、今こうして……『契約』が繋いでくれた。
アリスやラトレ村の人たちに心から笑って欲しいと願った日から、私はきっと、この村のことが好きになっていた。
だから、私の中に降り積もっていった想いも、アリスたちの気持ちも悩みも不安も、ぜんぶぜんぶ抱きしめたい。
一度きりの季節、今しかできないイベント。
大好きなみんなと、のんびりとした時間をともに過ごす。
その心地よさが、私には愛おしかった。




