精霊が招く逃避行④
『次回は、春におすすめのラトレ村お出かけスポットをご紹介! 春が旬! 真っ赤に実ったトマト祭りが開催!? そして、精霊さんと妖精さんたちの移住をお祝いする、期間限定のスペシャルイベントが開催予定! 華やかなフラワーガーデンや限定の春グルメも登場! 精霊さんたちと楽しめる、この時期だけの特別な体験をお届けします!』
「いいぞーー!!」
「異世界TV、最高ーー!!」
投げやりなナレーションだったのに何故か、視聴者さんたちから大反響が巻き起こる。
しかも、今回の放送が、ルージュ王国の一線を画す企画が満載だったからなのかもしれない。
その予想外で自由な内容が、多くの視聴者たちを虜にしたのだった。
*
それから二週間後。
精霊さんたちのストライキが発生した、特別版の放送を経て、ラトレ村は『数多の精霊の加護を持つ村』として一躍有名になった。
えっ?
それって、どういうこと?
ふふ……。
よくぞ、聞いてくれました。
どうしてこうなったのかは、順を追って説明しますね。
あの後、私たちがこれまでの事情を話すと、精霊さんたちは大きく驚いた。
『異世界TVのアナウンサーをされていたアウリ様が、星を司る大精霊様なのですか!』
『レポーターをされていた方が、聖女アウリス・リネット様!』
明かされた事実に、精霊さんたちは驚愕し、次いで深々と頭を下げた。
『お初にお目にかかります。星を司る大精霊、アウリス・クロエ様。そして、聖女アウリス・リネット様、お久しぶりです。突然の来訪にも関わらず、こうして面会のお時間をいただけましたこと、光栄至極に存じます』
火の精霊さんが淀みなく言ってのける。
『先程は失礼いたしました。数々のご無礼をお許しください!』
『こうしてお会いできたこと、大変嬉しく思います!』
「あ……その……いえ、滅相もございません」
次々とひれ伏していく精霊さんたちに、私は戸惑いを隠せない。
私は呆気にとられて立ち尽くしていたけれど。
「いい傾向だ」
「うむ、そうだな」
一方、勇者リスアと魔王ウリはドヤ顔である。
『万事、うまくいって良かった』と、表情だけで雄弁に主張していた。
どうやら、確信犯らしい。
「アウリ、大変なことになってしまってごめんなさい……」
気が動転してうまく話せない私に、アリスは平身低頭で謝る。
私は慌てて、首を横に振った。
「ううん。精霊さんたちが、ルージュ王国の王家の縛りから解放されたのはアリスのおかげよ」
「アウリ……」
「だから、気にしないで」
私の言葉に、アリスははっとしたように顔を上げた。
「アウリ、いつもわたしを助けてくれてありがとう。これからもよろしくね」
「こちらこそ、ありがとう。これからもよろしくね」
アリスと交わした言葉が、私の心を温める。
春の光の中で、蕾だった心の花がはらりと開いた。
大精霊の私と聖女のアリス。
勇者リスアと魔王ウリ。
同じ前世を持つ私たちだけど、環境が変わったことで、それぞれ個性が違う。
これからアリスたちとどんな関係になれるのか、大切に育てていきたいものが、もうひとつ増えた気分だった。
気を取り直した私は引き続き、この不思議な会談に臨んだ。
「それで、肝心の精霊さんたちの移住先についてなのだけど……希望はある?」
『アウリ様。ご覧のとおり、今の私たちはただの精霊と妖精です。行く当てもなく、住む場所もなく、途方に暮れています。図々しいお願いだとは百も承知ですが、こちらに置いていただけないでしょうか』
居住まいを正した火の精霊さんが代表して、そう申し出る。
精霊さんたちが全員、ラトレ村に滞在したいと願ったことに驚愕しつつ、私は勇者リスアと魔王ウリの顔色を窺った。
「さすがに、この人数だと、ラトレ村にはおさまり切れないな」
「ふむ。なら、精霊たちのための新たな国を造るのも有りだな」
「新たな国?」
とても含みのある提案だったから、私は思わず、首をかしげる。
勇者リスアは満を持って切り出した。
「ラトレ村は精霊と妖精を敬う村だ。精霊たちとは縁のある場所。ならば、その次元の狭間に、精霊たちの国を造ればいい」
「精霊さんたちの国?」
私は予期せぬ提案に驚いてしまった。
どういうこと?
私の現在の気分を簡単に表現するとこうなる。
だって、現実感なんてなかったから。
ラトレ村の次元の狭間に、精霊さんたちの国を造るなんてあり得ない話だ。
とても信じられないことなのに、その話はまだ続いた。
「ミモザ帝国の双子姫ーー第一王女殿下と第ニ王女殿下は空間魔法のスペシャリストだ。ラトレ村を別次元につなげることも可能だろう」
勇者リスアはしきりにうなずいた。
「精霊たちのための国。これはあらゆる国家にとっての最重要課題だぞ。国のために、精霊たちを酷使する者たちがいる」
「うむ。精霊たちを欲する者たち。彼らから守るには、精霊たちの国を造ってしまうのが一番、手っ取り早い。精霊たちを守れる上に、住む場所も決まって一石二鳥だ!」
勇者リスアと魔王ウリの言い分に、私は口をぽかんとして立ち尽くす。
思いもよらない提案だったからだ。
だが、新たな移住先を斡旋してもらった精霊さんたちはご満悦状態だった。




