精霊が招く逃避行③
『なるほど。聖女アウリス・リネット様がいなくなった理由は、彼らのせいだったのですか……』
『卑劣な……』
急に消えた聖女に驚き、混乱していたルージュ王国の精霊さんたちも、テレビを見て驚愕に震えた。
聖女は、精霊さんたちと心を通わせることができる。
いわば、聖女は、精霊さんたちにとって、『かけがえのない大切な友人』に当たるのだ。
それなのに、偽物呼ばわりした上に、さらに彼女を貶めようとしている。
なんてひどい仕打ちをするのか、と精霊さんたちは激怒した。
『ルージュ王国在中の精霊さんと妖精さんたち。いっそのこと、ルージュ王国の王都から出ませんか?』
そのタイミングで、アリスがうずうずした様子で口を開いた。
『王都に残っても、いいことはありませんよ。聖女と同じように、搾取されるだけです!』
その言葉が、精霊さんたちにもたらした影響は大きかった。
『搾取……。確かに、最近のルージュ王国の宮廷魔道具師たちの動向は目に余るものがある……』
『我々精霊を、道具としてしか見ていない……』
精霊さんたちの思考はおおよそ、ここに着地するようだった。
星を司る大精霊の私もそう思うよ。
少なくとも、ジルハルト殿下たちはろくでもない。
心の底から、そう思わずにはいられない。
ドキドキ。
手を握りしめて、精霊さんたちの動向を食い入るように見つめていると。
『今なら、わたしたちが、精霊さんたちの移住先を斡旋できます。これを逃す手はないですよ!』
アリスがここぞとばかりに告げる。
『それに、星を司る大精霊様がお怒りだから、この国がまるごと消し飛ぶかもしれないわ!』
アリス……。
肯定の根拠が予想した方向と違うんだけど。
『星を司る大精霊様がお怒り……!? こうしてはいられない!』
『その言葉に甘えよう。我々は即急に、この国から脱出する!』
アリスの誘いに触発されたのだろう。
精霊さんと妖精さんたちは、次々とルージュ王国の王都から飛び去っていく。
精霊さんたちに見限られた、国の末路は考えるまでもない。
っていうか、この国がまるごと消し飛ぶって……。
アリス、話を盛り過ぎだよ!
精霊さんたち、真に受けているし。
大精霊のネームバリュー、すごすぎる!
でも、ルージュ王国の王都から去った精霊さんたちはどこに行くんだろう?
もしかして、このまま、ラトレ村に来たりとかはないわよね?
嫌な予感しかしない。
そこで画面が切り替わり、アナウンサーの私が再び、映し出される。
『レポーターさん、ありがとうございました。ルージュ王国の王都から飛び去った精霊さんたちの行方、気になりますね。……えっと、あれは何でしょうか?』
見上げれば、無数の精霊さんたちが空を背景に漂っている。
どうやら、ラトレ村を目指して、転移魔法顔負けの超特急スピードで飛んできたらしい。
『もしかして、あの精霊さんたちは、移住先を求めて、ラトレ村に来たのでしょうか?』
私は内心、焦りつつも、現状を視聴者たちに伝えていく。
『移住先を斡旋できる場所はどこだ?』
『あのお方は、もしかして異世界TVの……?』
『なら、受付場所はあそこだな!』
案の定、私の予想はばっちり当たったわけで。
移住先を求めて、精霊さんたちがラトレ村入口に詰めかける。
『異世界TVのアナウンサー様、お助けください! 星を司る大精霊様がお怒りなのです!』
『我々をお救いください! ぜひ、移住先の提供を!』
アナウンサー席の前を埋め尽くしたのは精霊さんたち。
ゴリゴリと押し寄せ、話を進めてくる。
『えっと……皆様、落ち着いてください!』
話が突飛すぎて、突っ込むに突っ込めない。
とりあえず、星を司る大精霊は、異世界TVのアナウンサー兼レポーターの私のことです。
……とは、さすがに言えない。
「素晴らしい! 私が提案した企画が、ここまでの成果を上げるとは!」
「これが、噂の壁ドンというやつか! アウリに先を越されるとは思わなかったな!」
その様子を見守っていた勇者リスアと魔王ウリが、能天気な解説をしている。
壁ドン?
少なくとも、こんなの、私が知っている壁ドンじゃないんだけど!
「何が起きたんだ?」
「よく分からないが、この村に精霊様たちがお越しくださったようだ」
様子を窺っていた村の人たちはみんな、口をぽかんとして立ち尽くしている。
そこにサフランくんがやってきて、こっそり耳打ちした。
「アウリ様。ここまで派手にやらかすと、精霊様たちに隠すのは無理だと思います。先に正体を明かしておいて、今後の隠蔽に協力してもらった方がいいのでは?」
「……私もそう思う」
もっともな意見に、私は全力で同意する。
身を焼かれるような焦燥。
頭がくらくらした。
自ら墓穴を掘っていく前に、この場を何とかしないと。
『えー。精霊様たちの移住への斡旋が始まることになり、ラトレ村は精霊の加護のある村、お出かけスポットとしても注目を集めることになりそうです』
マイクを手にした私は気を取り直して、ナレーションを続行した。




