精霊が招く逃避行②
『何だ、この森は!?』
『この森、こんなに長かったか? 一向に抜けられないぞ!?』
その慌てぶりに溜飲が下がる。
お決まりのセリフを叫んでいる調査官さんたちに、『残念でした!』という言葉を贈りたい。
『ラトレ村はどこだ?』
『くそっ! 視覚がはっきりしない……!』
この森には今、方向間隔を狂わせる、知覚阻害の魔法が働いている。
そのため、悪意がある者たちが一度、迷い込むと抜け出すのが不可能だ。
当然、地図なども役に立たない。
小さな村の調査という名目で訪れた調査官さんたちは、さしたる事前準備をしていなかった。
それが、こうして裏目に出る結果になるとは思わなかっただろう。
調査官さんたちは、一向に出られない森の中を彷徨う羽目になったのだ。
『何だ? 地面が突然、割れたぞ!』
『助けてくれ!』
ときは行ったり来たり。
一日、一晩、一瞬の出来事で、世界は一変する。
勇者リスアが、聖剣で大地を切り裂いた時には、調査官さんたちは予想外の出来事に立ち往生した。
さらに時には、こんなことも。
『どうして、こんな森に、ドラゴンの大群がいるんだーー!!』
『こんなの、勝てるわけがないーー!!』
魔王ウリが派遣したドラゴン部隊も出動したため、調査官さんたちは大混乱に陥った。
度重なる魔物との遭遇と森から出られないストレスは、確実に彼らの心身ともに蝕んでいった。
『今日は何日目か?』
『ついに、食料も底を尽いてしまった……』
疲弊していく体力。
日を追うごとに、持ってきた蓄えも底に尽きていく。
恐らく、すぐに王都に戻れると、たかをくくっていたのだろう。
もう少し事前準備をしておけば良かったのにと思うものの、もはや後の祭りである。
やつれ果てた調査官さんたちは、過酷な大自然を舞台に、森の出口を求めて彷徨い続けていた。
『ここはどこだ?』
『誰か、助けてくれーー!!』
いつの間にか、極限サバイバル番組と化とした異世界TVであった。
彼らは大々的にテレビに放送されて、騎士冥利に尽きるだろう。
多分……。
「なんだ、これ!」
「これは……すごいな……! いくらなんでも、叫びすぎだろう!」
視聴者さんたちは内心、おかしかった。
もう笑っていないとやっていられない馬鹿らしさだ。
そこにシルフさんを連れ立ったアリスが現れた。
『ついに発見しました! 彼らがシルフさんの告げた不審者のようです!』
調査官さんたちは信じられないものを見るような目で、アリスたちを見つめる。
誰だ、と言いたいのに、お腹がすいて、なかなか言葉が出てこない。
そんな心境なのだろう。
『どうやら、お腹をすかしているようですね』
アリスが調査官さんたちの現状を赤裸々に伝えると、視聴者さんたちは声を出して笑い始めた。
これ以上はこらえ切れなかったみたいだ。
『あなた方は、ルージュ王国の方々ですか。どうして、ここに?』
『それは……』
アリスからマイクを向けられて、調査官さんたちは明らかに戸惑いをみせる。
『もしかして、ここに来たのはラトレ村を調査して、聖女アウリス・リネットを貶めるためですか?』
『何故、それを……!』
ズバッと言い当てられて、調査官さんたちはサッーと顔を青ざめた。
分かりやすい反応に、アリスはため息をつきたくなる気持ちを追い出すように尋ねる。
『あなた方はどうして、聖女を追い詰めるようなことをするのですか?』
『そんなの決まっている。ジルハルト殿下の命令だからだ!』
『それに、彼女は平民ではないか。しかも、聖女を騙る偽物だ。現に聖女であると偽って、ルージュ王国を魔物の脅威にさらした!』
散々な言われようだが、アリスは前々から調査官さんたちが自分を嫌っていることを知っていたみたい。
もはや、他人事のように、悪意の塊のような侮蔑と侮辱を聞き流していた。
恐らく彼らが、アリスを聖女として敬うことなど、一切なかったのだろう。
『……シルフさん。この方々はどうやら、どうしようもない人たちみたいですね。どうしましょうか?』
アリスは溜飲を下げるために一呼吸置くと、落ち着いた口調で尋ねる。
『そうですね。このまま、拘束しようと思います。一生、この「森の牢獄」から出られないように、厳重に閉じ込めておきますね』
『なっ……!』
『やめろ! それだけはやめてくれ!』
容赦ないシルフさんの即断に、調査官さんたちは深い絶望に塗れる。
だが、シルフさんの決定は揺るがない。
聖女と妖精さんの不興を買うなど、魔族にケンカを売る以上に分が悪すぎる。
『うわあっ!! 助けてくれーー!!』
ラトレ村の調査に向かっていた調査官さんたちは、森の牢獄に閉じ込められ、悪い意味で顔が広く知られることになった。
もはや、自業自得としか言いようがない。
「聖女を貶める? なんと、愚かなことを……」
「ジルハルト殿下のご意志。つまり、ルージュ王国の王家が、今回の件に加担していたのか……」
当然、視聴者さんたちからの反応もすこぶる悪い。
ジルハルト殿下たちへの批判が殺到する。
特に、聖女を重んじる、教会関係者さんたちには見限られていた。




