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精霊が招く逃避行①

その特別版は、テレビ番組が始まって以来の大反響を巻き起こした。

テレビ番組の受信場所は、ラトレ村とミモザ帝国と魔王城付近、転生の間。

そして、ルージュ王国の精霊や妖精たちに向けたものだ。


『こんにちは。皆様、いかがお過ごしでしょうか』


画面中央にはマイクを持った、異世界TVのアナウンサーの私が映し出された。

今回の番組の進行場所は、ラトレ村の入口付近にしている。


『お昼の合間に、とっておきな情報をお届けする、異世界TVのお時間です。今回は、前回とは趣向が違う、特別版をお送りします。では、皆様、最後までごゆっくりとお楽しみください!』

「特別版……?」

「どんな内容なんだ?」


その響き渡った声に、各地の人たちが手を止め、テレビ画面に目を釘付けにする。


『放送第二回目の特集は、『妖精さんの裏話』。妖精さんたちの情報をギュッと凝縮!  妖精さんたちのお困りごとに、レポーターさんが駆けつけますよ! 悩める相談事を聞きつつ、異世界TVに新たな風を吹き込みます!』


私がそう言うと、画面がラトレ村の近くの森に切り替わる。

画面端には、『妖精さんたちのお悩み相談。さて、その真相は?』というテロップが表示された。


『はい。こちら、ラトレ村の近くにある森の中です。今回は、ラトレ村周辺エリアを現地調査! ラトレ村やその周辺にお住まいの妖精さんたちを突撃インタビューします! 今まで分からなかった妖精さんたちの隠れた秘話が、続々と明らかになりますよ!』


マイクを手にしたアリスは、森の奥へと視線を向けた。

今回も聖女だとバレないように、顔をフードで隠して変装をしている。

正体を隠し通して、このままレポーターをするつもりらしい。


「妖精の隠れた秘話?」

「そもそも、妖精が悩み相談をするというのは本当なのか?」


視聴者さんたちは今回の特集を、にわかには信じられず、ざわめく。

本来、低位の精霊さんや妖精さんの姿は、普通の人たちには見えない。

その声も、常人には届かない。

だからこそ、今回のテーマである『妖精さんたちの悩み相談』という内容は波紋を生んだ。

みんな、半信半疑だ。

だが、視聴者さんたちに、妖精さんたちの存在を信じてもらわなくては、すべてが始まらない。

視聴者さんたちを驚愕させたのは、この後からだ。


『まずは、ラトレ村在中の風の妖精シルフさんのお悩みごと』


つむじ風とともに突如、アリスの足元に、小さな男の子が現れたのだ。

突然の出来事に、視聴者さんたちは唖然とする。


『ご紹介に預かりました、風の妖精シルフです。実は最近、森に武装した怪しげな人たちが入ってきて困っています……。動物たちや木々を蹴散らすなど、度重なる暴挙に出たんです。そのため、大事になる前に、星を司る大精霊様と妖精たち全員の力を合わせて、「森の牢獄」へと閉じ込めたのですが……』


マイクに向かって心情を話しているのは、薄緑の服を着た二枚翅(にまいばね)の風の妖精。

彼は魔力で編まれたような翅をはためかせて、パタパタと宙に浮いている。


「あれは魔力の翅。まさか、本当に妖精なのか?」

「風の妖精……。こうして実物を間近で見ることができるなんて……」


テレビ画面を見て、泡を食ったのはミモザ帝国の宮廷魔道具師さんたちだ。

魔力の流れが見える彼らは、シルフさんが『風の妖精』だということを識別できた。

恐れ多くも、妖精を間近に見ることができて感激している。

サフランくんが造った魔道テレビは、たとえ、『本来、姿が見えない存在』だとしても、映像として記録することができた。

つまり、テレビ越しなら、誰でも妖精さんたちの存在を間近で堪能することができるのだ。


『どうやら、森に不審な人たちがいるようですね。早速、行ってみましょう』


シルフさんの話を聞いていたアリスが、マイクを手に神妙な面持ちで語りかける。

妖精がテレビに映っていて、しかも、不審者のもとまで道案内している。

まるで夢の出来事みたいで、全然、実感が湧かない。

今の視聴者さんたちの想いを代弁するとこうだろう。

だが、これは序の口だ。

今回の特集は、『妖精さんの裏話』なのだから。

場面が切り替わり、ところ変わって、森の中。

画面端には、『森に潜んでいた不審者さんたちの怒涛のサバイバル!?』というテロップが表示された。


温暖な気候のもと、多種様々な農作物で繁栄してきた小国、ルージュ王国。


ルージュ王国の温暖な気候は、精霊の恵みとされている。

この地が、多種様々な農作物に恵まれているのは精霊や妖精たちの恩恵のおかげだ。

そんな精霊たちと心を通わせることができる存在ーーそれが聖女だった。

だからこそ、聖女は大切にされ、王族との婚約でもって、国で保護されるのだ。

もし、聖女がいなくなった事実を知り、悲観した精霊たちが根こそぎいなくなれば、ルージュ王国はたちまち衰退し、崩壊するだろう。


ルージュ王国に危機が迫れば、ジルハルト殿下たちは、ラトレ村に手出しするどころじゃなくなる。

そんな思惑で始まった、特別版の放送。


ラトレ村に続く森に入ってからというものの、ルージュ王国から派遣された騎士爵の調査官さんたちは心底、困惑していた。

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