王国への意趣返し②
「うーん。勇者リスアと魔王ウリに、相談してみようかな」
やがて、私はそう結論づける。
考えても答えが出せないことを、延々と考えても仕方ない。
だからこそ、同じ前世を持つ自分たちの力を借りようと心に決めた。
彼女たちの意見を聞いたら、村の防衛の強化につながるかもしれない。
私は沈んだ気持ちをぐっと奮い立たせる。
「よし、そうと決まったら、明日、アリスたちに相談しましょう……! ラトレ村の新たな発展! そして、異世界TVの新たな歴史は、ここから再び、始まるのだから!」
張り切って、村の治安改善に励む私だった。
だが、この決断がきっかけで、他のアウリスたちが次々と力添えし、新たな国づくりへと発展していくことになるなんて、この時は予想もしていなかった。
*
翌日、私は早速、自分の部屋で、アリスたちとともに、村の防衛計画を練ることにした。
名付けて、『アウリス会議』。
その名のとおり、同じ前世を持つ私たちだけが集まって行う会議のことだ。
もっとも、勇者リスアと魔王ウリは各地を回って忙しいため、テレビの精霊さんによる『オンライン通話』で参加してもらっている。
ミモザ帝国の双子姫ーー第一王女マリン殿下と第ニ王女リラ殿下は忙しいため、今回は欠席していた。
「村の治安の改善?」
「うん。最近、村で悪事を働く人たちが出没しているみたいなの」
予想外の難題に、アリスは顎に手を添えて唸る。
「確かに人出が多くなった分、問題も多発してきたわね」
「何か、いい方法はないかな?」
勢いそのままに、私は身を乗り出した。
藁にもすがる思いというのは、まさにこの時の私の気持ちを表しているのだろう。
「そうね。まずは、傭兵を雇うことが必須よね。欲を言えば、王都にあったような、衛兵詰所があれば、大助かりなんだけれど……」
アリスが王都の暮らしを思い出したように手をたたいた。
「衛兵詰所……! いいわね、それ!」
アリスの提案に、私は弾かれたように声を上げる。
「ただ、ジルハルト殿下のことが気がかりなのよね。食堂が大盛況だと知ったら、何か仕向けてくるかもしれない」
アリスの実家の食堂は、ジルハルト殿下に目をつけられている。
テレビ番組のことを知ったら、何かしらの動きがあるかもしれない。
重たい沈黙が部屋を包む。
アリスは決意を固めたように、静かに口を開いた。
「……それでも、わたしは自分の意思を貫くだけよ! 村には、手出しさせないわ!」
アリスの言葉に迷いはなかった。
既に、腹をくくっているだろう。
考え得る最悪の事態を覚悟して、その上で自分を貫こうとしている。
ラトレ村を全力で守っていきたいと願う、強い意思の表れだった。
すると、それまで沈黙を守っていた勇者リスアが口を開いた。
『私と魔王ウリの方針は明確だ。星の大精霊アウリと聖女アリス、及びラトレ村の者たちの手を煩わせそうな貴族や王族の介入をひたすら遠ざけることだ』
『うむ。我々は、おまえたちの味方となり、城壁となるつもりだぞ』
勇者リスアと魔王ウリは意気投合して、意見を出し合う。
さすが、勇者リスアと魔王ウリ。
ルージュ王国の動向に、動じている様子はなかった。
『星を司る大精霊、アウリス・クロエ様。聖女アウリス・リネット様。ルージュ王国に不審な動きがありました』
その時、テレビの精霊さんが慌ただしく会話に入ってくる。
「不審な動き?」
『こちらをご覧ください』
私は言われるままに、テレビ画面を眺める。
映し出された場所は、ルージュ王国の王立学園の講堂。
そこは王立学園の卒業パーティーが行われた会場だった。
すると、そこに豪奢な馬車が一台停まった。
馬や馬車の飾りはもちろん、御者の服までも美しい。
その周りを、騎士や兵士が囲んでいる。
「すごい……立派な馬車……!」
思わず、見とれてため息をつく。
すると、馬車の中から美しい男性が降りてきた。
陽光のごとき金髪に、強い意思を宿して輝く瞳。
すらりとした長身。
文句なしの美男子だ。
周りの空気までもが、華やかに煌めくようだった。
でも、私たちにとっては、できればもう見たくない人だった。
「ジルハルト殿下……」
アリスは眉をひそめて、ぽつりとつぶやく。
「相変わらず、すごい人ね……」
私もうんざりした顔で、小さくため息をついた。
何やら、きな臭い流れ。
テレビ画面に映っている、ジルハルト殿下を守る護衛の数は半端じゃなかった。
まあ、王家なんだし、当然かもしれない。
恐らく、権威を示す意味合いもあるのだろう。
『はあっ……。何故、私が平民出身の聖女と婚約しなくてはならなかったんだ……』
その侮蔑を含んだ眼差しに、この光景を見ていた私たちは全員、一瞬でジルハルト殿下が嫌いになった。
『そもそも、王太子たる私が、平民の女と婚姻を結ぶなどありえない。あの女は、聖女を騙る偽物だ』
ジルハルト殿下は、しれととんでもないことを告げる。
『私、悲しいです。あのような女が、今までこの国の聖女だったなんて……』
するとそこに、かわいらしく媚びるような女性の声が響いた。
ジルハルト殿下の悪事の片棒を担いだ、公爵令嬢リリア・フェラーリだ。




