自重ができない私たち⑤
『お待たせしました。ナポリタンです』
アリスが席に腰掛けると、アリスのお父さんがナポリタンをテーブルに置いた。
出てきた料理は初めて見るものだったと思うけれど、見た目の美味しさは伝わってきたはずだ。
何しろ、異世界TVのアナウンサーのスキルを活かして、『料理の匂い』まで届けるような魔法を用いているのだから。
テレビの精霊さんの情報では、テレビを見ていただけで、食欲をそそられた人たちもいたようだ。
『いただきます!』
フォークで麺をすくって、口に入れたその途端。
アリスは思わず、動きを止めた。
『んーーっ、おいしーーっ! 程よい酸味と甘み。親しみやすい甘酸っぱさと香ばしさが特徴の料理です! もちもちの食感で、旨味のハーモニーがたまりません! これは、癖になりそうな美味しさですよ!』
「なんて、美味しそうなんだ!?」
「やみつきになりそうな料理だな!」
アリスの絶賛に、ミモザ帝国の人たちがのけ反り、魔王軍の人たちが驚いたように息を呑む。
ナポリタンは、この村で豊かに実るトマトを存分に使った麺料理だ。
甘みと酸味のバランスがいいトマトのソース。
繊細に切り分けられているピーマン。
たまねぎは柔らかすぎず、硬すぎない。
そして、小麦の美味しさと弾力のある、歯ごたえがありそうな麺。
魔法の影響でただ、テレビに映し出されているだけなのに、見ている人たちには、ナポリタンの香ばしい香りが漂っているように感じたのだろう。
「ナポリタンか……!」
「実際に、食べてみたいな……!」
テレビを見ていた人たちの食欲が俄然、顔を出す。
それに追い打ちをかけるように、新たなメニューが紹介される。
『次にご紹介するのは、愛され食堂の限定メニュー、カツサンド。こちらはなんと、遠征食としても食べられる一品です! 何でも、この料理を食べただけで、傷が癒えたり、病気予防にもなるって噂が飛び交っているんですよ!』
アリスの言葉に、まるで雷に打たれたように、テレビを見ていた人たちがはっと天を仰いだ。
「傷が……。まさか、回復効果があるというのか……?」
「あの料理が、遠征の時に食べられたら、大助かりだろうな……」
「喉から手が出るほど、欲しい料理だ!」
騎士さんたちや魔王軍の人たちは、興奮と恍惚が入り混じった表情で、テレビにかじりつく。
今回の放送に先駆けて、サフランくんに造ってもらったのは、『中身が時間が止まったように鮮度を保つ、魔法の小箱』。
日本でいうと、真空パックや缶詰などの長期保存ができるものだ。
これがあれば、遠征用の保存食としても食べられる。
さらに、アリスの聖女の力が込められているため、その料理を食べただけで傷が癒えたり、病気予防にもなる。
長期間保存できて、なおかつ回復効果もある。
まさに、至れり尽くせりな保存食だった。
そこで画面が切り替わり、アナウンサーの私がいる森の中が再び、映し出される。
『レポーターさん、ありがとうございました。ラトレ村の愛され食堂、気になりますね。ラトレ村に行くには、ネファーの町から森に向かって歩いていくと近いですよ!』
私がそう発した瞬間、画面端には『ラトレ村までの移動手段』というテロップが表示された。
そこには、馬車の乗車時間や船の乗船時間など、様々な行き方について、詳しく説明されている。
これなら、どこからでもラトレ村に行くことができるはずだ。
『愛され食堂の近くにある魔道具工房では、魔道具セールが本日からスタート。お得情報をお見逃しなく! さらに、本日より発注開始の魔道具もご紹介! 今までなかった新しいタイプの魔道具が登場します。セールに新商品に、盛りだくさんな内容をお楽しみに!』
「どんな魔道具なんだ?」
「すげえ、気になる!!」
その声に反応し、視聴者さんたちは一丸となって盛り上がる。
私はさらに、サフランくんの魔道具を紹介していく。
ラトレ村の名産品。
そして、前代未聞のテレビ番組と美味しい料理、そして画期的な魔道具の評判は、こうして瞬く間に広がっていった。




