自重ができない私たち③
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勇者リスアと魔王ウリの来店から三週間が経った。
「うーん。今日の日替わりメニューのデザートは、プリンにしましょうか?」
「ミキサーの精霊さんがいると、卵を溶くのが楽だわ」
早朝、私とアリスは朝食を終えると、早速、食堂の開店準備をしていた。
新装オープンしてから四週間。
私たちは次々と新しいメニューを追加していった。
村の人たちは、初めて見る日本の料理に驚いていたけれど、案外すんなりと受け入れてくれた。
予想を上回る大好評だったの。
しかし、現実は厳しい。
これまで来たお客様は、ラトレ村の人たちと勇者リスアと魔王ウリ、そして魔王軍ご一行様。
それ以外の人たちは、この村に足を運ぼうとしないのだ。
理由は単純。
ラトレ村には、この愛され食堂とサフランくんの魔道具工房以外、これと言ったお店がないからだ。
村人たちは主に畑を耕したり、山で山菜採りなどをしたりして生活している。
つまり、旅人がわざわざ、この村に足を運ぶ理由が乏しいのだ。
極めつけは、ルージュ王国から妨害を受けているせいで、さらに人が寄りつかなくなっていることだった。
これもすべて、ジルハルト殿下のせいよね。
心の底から、そう思わずにはいられない。
これは一刻も早く、テレビ番組を放送する必要がある。
その願いが届いたのか、テレビの精霊さんがおずおずと進言してきた。
『恐れながら、星を司る大精霊、アウリス・クロエ様。『異世界版魔道テレビ受像機』と『テレビに必要な周辺魔道機器』を、魔道具として生み出すことに成功しました。試作機を確認していただいてから、量産に入る予定です。サフラン様が、時間が空いた時に、工房に来てほしいと』
「分かったわ!」
念願の魔道具完成に、私は熱くこぶしを上げる。
これで、ついに待ちに待ったテレビ番組を放送できるんだ……!
魔王ウリたちが、全面的にテレビ制作に協力してくれるから、できることの幅も広がっていった。
内容は既に、アリスたちと話し合って決めている。
それに勇者リスアたちの支援によって、各地にテレビを配置する準備は整っている。
後は、テレビがちゃんとつながるか、確認するだけだ。
今のうちに、異世界TVのアナウンサー兼レポーターとして、最終確認をしておいた方がいいかもしれない。
テレビ番組の受信場所は、当面の間はラトレ村とミモザ帝国と魔王城付近、あとは転生の間のみにするつもりだ。
ラトレ村は大国の一つ、ミモザ帝国と魔王軍の保護下に入っている。
テレビ番組を放送しても、悪い扱いは受けないだろう。
とにかく、当座の目的はテレビ番組を放送して、食堂に足を運んでくれる人たちを増やすことだ。
それぞれ食文化が違うけれど、『美味しい』はどこも共通。
きっと、気にかけてくれる人たちがいるはずだ。
そんな算段を立てていると。
「お忙しいところ、大変申し訳ございません。アウリ様、プリンが完成しました」
「あっ、気になりすぎて、プリンのこと、忘れていた」
アリスのお父さんの声に、私ははっと我に返る。
「テレビの精霊さん。工房には、午後の休憩の時に行くと伝えてちょうだい」
『かしこまりました』
私がそう言うと、テレビの精霊さんは恭しく一礼した後、サフランくんの工房へと戻っていく。
「もうすぐ、開店時間! 急いで、他の料理の下処理を進めなくちゃ!」
テレビの精霊さんとの会話でやる気に満ちた私は再び、開店へ向けて準備を進めていった。
*
新作メニューを気に入って、村の人たちや魔王軍の人たちが愛され食堂を愛用してくれるようになってくれた。
それに伴い、私たちも調理に配膳と忙しくなってきた。
だけど、将来的に食堂を維持していくための費用が必要になってくるし、もっと多くの人たちに、この食堂のことを知ってもらいたいと思った。
「うーん。忙しい時間は過ぎたかな……」
客足が途切れたタイミングで、ふぅと一息つく私。
その声に反応して、アリスはぱあっと弾かれたように言った。
「お父さん、お母さん。わたしたち、サフランに会ってくるね」
「分かった。ここは私たちに任せて」
「二人とも、気をつけてね」
アリスの両親に見送られて、私たちは食堂を出た。
雲一つない青空から降り注ぐ陽の光。
村の畑道を通って、サフランくんの工房に向かっていると。
「アリスちゃん、アウリ様、お出かけかい?」
「後で、食堂に食べに行くからね」
「ありがとうございます」
途中で会う村の人たちが、次々と声をかけてくる。
私たちが路頭に迷わずに済んでいるのは、足繁く通ってくれる温かな村の人たちのおかげだ。
私たちは早速、サフランくんの工房に顔を出す。
「サフランくん、こんにちは!」
「サフラン、遅くなってごめんなさい!」
張り上げた声は喧騒に消えた。
サフランくんは魔道具の最終調整に精を出している。
どうやら、こちらには気づいていないみたい。
それを見かねて、テレビの精霊さんが声をかけた。
『サフラン様。星を司る大精霊、アウリス・クロエ様と聖女アウリス・リネット様がお越しになりました』
「えっ?」
その声に反応して、サフランくんは慌てて、作業を止める。
サフランくんは立ち上がると、背筋を伸ばして謝罪した。




