自重ができない私たち②
「何で、勇者の私と魔王の私がここにーー」
思わず、声が裏返る。
予想外の大物の登場に、私が驚愕の声をもらす前にーー。
エルフに姿を変えた女の子が、人差し指を立てて悪戯っぽく笑った。
「しっ。……我らの本来の名前は『アウリス』。だが、今の我は、『ウリ』と呼ばれている。アウリ」
「何で、私の名前を……!?」
「何でって、君たちは気づいていたじゃないか。我の配下が昨日、この食堂を眺めていたことを」
そういうエルフの女の子もとい、魔王ウリの瞳は輝いていたし、半ば私の答えを期待してもいた。
「いや、気づいていたけれど、さすがに魔王が直々に来るなんて思わないでしょう」
来訪の仕方がズレている魔王ウリに、アリスが呆れたように正論をぶつける。
「我の配下の魔物が、ルージュ王国の国境付近に姿を現したせいで、我と同じ前世を持つ者が苦しんでいる。ならば、我もその力を貸さねば思い、はるばるここまで来たのだ!」
魔王ウリは腕を組むと、当然とばかりにうなずいた。
「そ、そうなんだね……じゃなくて、そうなんですね。お気遣い、痛み入ります」
「かしこまるな。調子が崩れる」
魔王ウリの気遣いに、私は何と答えればいいのか分からない。
ありがたいような、はた迷惑なような。
村の人たち以外の初のお客さんが、『勇者の私』と『魔王の私』とその配下たちというのはいかがなものなんだろうか。
「安心していい。我が魔王軍も、全面的にテレビ制作に協力しよう。ラトレ村に危害を加える者はすべて、この村には入れさせないからな!」
魔王ウリは席につくと、私が置いたコップを口に運ぶ。
食堂を一望にしながら、いただく水は格別な味わいだと言わんばかりにだ。
これは間違いなく、お客として来たというのは建前で、実際はテレビ番組に関わりたくて来たんだろう。
その魂胆が見え見えな魔王ウリに、私とアリスは困惑気味になる。
私は仕方なく、もう一人の女の子に目を向けた。
女神様のために、異世界TVのアナウンサーの仕事をしていた時に聞いたことがある。
伝説の聖剣に選ばれた人物がいると。
新しい勇者様が誕生したと。
「勇者のあなたはどうして?」
「私の本来の名前はアウリス。だが、今は勇者リスアと呼ばれている」
そう前置きして、勇者リスアは話し始めた。
「私も、魔王ウリと同様だ。テレビ番組を放送するに当たって、いろいろと問題が出てくるだろうと思ってな。世界各地に番組を放送したとしたら、下手をすれば、君たちが王家や領主から連行される可能性がある」
「うっ、確かに……」
根本的な問題を突きつけられて、私は押し黙る。
突然、『テレビ』という未知のものが現れたら、その出演者やラトレ村に疑惑の目が行きかねない。
「だが、安心してほしい。ミモザ帝国の双子姫ーー第一王女マリン殿下と第ニ王女リラ殿下も、私たちと同じ前世を持つ『アウリス』だ。ミモザ帝国でのテレビ番組の放送の許可は、私たちが責任を持って遂行しよう!」
勇者リスアの頼もしい言葉に、ほっと胸をなで下ろす。
ミモザ帝国の双子姫ーー第一王女マリン殿下と第ニ王女リラ殿下も、私たちと同じ前世を持つアウリス。
意外な事実に驚きつつも、ふとある懸念が浮かび上がり、私は率直な疑問をぶつけた。
「そういえば、どうして勇者と魔王が一緒にいるの?」
「どうしてって、もとは同じ私。一致団結したからに決まっているではないか!」
当たり前のように言われた言葉に、私とアリスは面食らう。
勇者と魔王が一致団結。
それって、世間的にはどうなんだろう。
「もしかして、アリスたちの知り合いなのか?」
サフランくんはおっかなびっくりだが、目が離せないようだ。
正直、どう説明したらいいのか分からない。
二人とも姿を変えているため、勇者と魔王だとは気づかれていないけれど。
さすがに、『同じ前世を持つ、もう一人の私』とは言えないし。
少しばかり複雑な表情を浮かべていると、サフランくんは何かを察したようにつぶやいた。
「あ、言えないことならいいからな。アリスたちなら、すごい知り合いがいそうだし」
もしかして、二人のこと、どこかの商家の娘か、貴族の娘かと思っている。
うーん。
これは後で、誤解を解いておかないといけない。
でも、同じ前世を持つ私たちが、この食堂のことを気にかけている。
心配して駆けつけてくれた。
そう思うと、今後の不安が一気に消え失せていくような気がした。
「ちなみに、愛され食堂のアピールは魔王城で目一杯してきたからな。客足は伸びるだろう。安心していいぞ!」
「魔王城って……」
「魔族や魔物が、食堂に訪れるのはちょっと……」
型破りな発想の魔王ウリに、私とアリスはげんなりとする。
「なに、遠慮する必要はないぞ」
「いや、そういうことじゃなくて……」
私が言葉を尽くしても、どんどん核心から離れていく。
村に魔族や魔物が来た時の、その混乱具合を察してほしい。
「心配するな。我らと同じく、姿を変えていくように念押ししている。同じ前世を持つ我らは言ってみれば、『運命共同体』。一緒に困難を乗り越えようではないか!」
魔王ウリからただならぬ威圧感を覚え、結局、私たちはそのまま押し黙るしかなかった。
魔王の私……もはや、やりたい放題だな。
客が来ないという心配はなさそうだけど、逆方向に想定外の事態になってきた。




