自重ができない私たち①
愛され食堂、新装オープンを掲げてから、一週間が経った。
食堂で販売するメニューをいろいろと考えているものの、なかなか決められずにいる。
精霊の力で出せるため、材料費はかからないけれど、ある程度、稼がなければ、今後が不安だ。
生活費や、将来的に食堂を維持していくための費用も必要になってくる。
テレビ番組の内容も問題だ。
番組を放送して、食堂を宣言することになるんだけど、各国それぞれ食文化が違う。
遠くても食べにいきたい、もしくはお持ち帰りができる料理とかがいいかもしれない。
それなら、日持ちする料理を考案する必要性がある。
魔王の私のこともあるし、これからどうなるんだろう。
あれこれ考えているうちに、だんだんと頭が重くなってきた。
「とにかく、最初が肝心よね。食堂のお手伝い、頑張らなくちゃ!」
私はそう意気込んで部屋を出ると、食堂の開店準備に向かう。
「おはようございます」
「おはよう、アウリ」
既にアリスたちはみんなで手分けして、スープや付け合わせの野菜などの下処理にかかっていた。
「テーブルを拭いてもらえる?」
「分かったわ」
私はまず、食堂内を綺麗に片付けた。
とは言うものの、精霊の力を使えば、すぐに終わるんだけどね。
それが終わった後は、厨房を手伝う。
「卵と肉が足りないみたいだから、至急、出してほしいの」
『かしこまりました』
冷蔵庫の精霊さんを呼べば、材料はすぐに調達できる。
材料がそろったら、次はミキサーの精霊さんの出番だ。
泡立てるのは大変だけど、ミキサーの精霊さんがいればあっという間だ。
「アウリ様は、次から次へととんでもない精霊様を呼び出すな」
アリスのお父さんは圧巻させられたように、それしか感想が出てこなかったらしい。
とはいえ、精霊さんたちに頼りすぎるのもよくないので、ほどほどに。
みんなで手分けすれば、開店準備は手際よく終わる。
そうこうしているうちに、開店時間が迫る。
「食堂も厨房もピカピカ。料理の仕込みも完璧。さあ、愛され食堂の開店よ!」
私は店の外に出て、看板を立てた。
ちなみに食堂の入り口には、『立体映像のメニュー表』を設置している。
『本日の日替わり』を、アリスのお父さんが実演販売する映像を流し、食堂を通る人たちの足を強制的に止める狙いだ。
「サフランくん、いらっしゃいませ!」
「アウリ様、おはようございます」
サフランくんはテレビの精霊さんとの打ち合わせのため、毎朝、必ず来てくれる。
朝食はいつも、この食堂だ。
サフランくんは席につくと、メニューを眺める。
「今日は『焼きうどん』を頼むな」
「分かったわ。あと、私とアリスで考案した新作のメニュー、『たこ焼き』があるんだけど、こちらも試食してみない?」
私は水が入ったコップをテーブルに置くと、メニューの中にある新作のたこ焼きを示す。
「たこ焼き? タコを焼くのか?」
「小麦粉の生地にタコや薬味を入れて、球状に焼き上げた料理よ」
「じゃあ、それも頼むな」
未知の料理に、サフランくんは興味津々だ。
「……その、アウリ様。俺にチャンスをくれてありがとうな」
「私たちこそ、協力してくれて本当にありがとう」
目標ができて満足そうなサフランくんに、私はくすりと笑う。
魔道テレビとその際に必要な周辺機器に似せた魔道具の開発。
時間はかかりそうだけど、必要なものは精霊の力で出すことができる。
それにサフランくんは優秀な魔道具師だ。
テレビの精霊さんもいるし、何とかなるだろう。
「それで経過についてなんだけど、魔道具の開発の方は順調だ。ただ……」
途中で言葉を濁したサフランくんの様子が気になり、私は首をかしげる。
「どうかしたの?」
「いや、アウリ様たちもやっぱり、テレビに出るんだよな」
「……うん。危険かもしれないけれど、私たちも出てみたいの」
サフランくんの言葉に、ジルハルト殿下のことを思い出す。
ジルハルト殿下から妨害を受けているせいで、この食堂は潰れかけようとしている。
だが、テレビ番組が放送されれば、手のひらを返して、私たちを取り込もうとするかもしれない。
そのことを思って、言葉を切り上げたのだろう。
「ふぅ……」
天井を見上げた私が思うのはこれからのこと。
食堂に入るお客さんは、今は村の人たち限定だ。
でも、テレビ番組を放送したら、食堂に足を運んでみたいという人たちが出てくるかもしれない。
『ラトレ村の愛され食堂の料理は美味しくない』なんて噂は、きっと塗り潰せるだろう。
そう思っていると。
ガチャ。
新たな来客を告げる音が、食堂に鳴り響いた。
それと同時に、私たちは来店者たちの方へと振り返ると満面の笑みを浮かべて挨拶をする。
「「いらっしゃいませ!」」
挨拶を告げた後、私は来店者たちの顔を見つめた。
その美貌は、男女問わずに振り返ってしまうほど。
一人は、褐色の肌をしたエルフの女の子。
まるで夜を溶かしたような美しい黒髪が宙を舞い、その瞳は極上のルビーを連想させるほど赤い。
着ている服も、高級そうな光沢のある生地だ。
彼女は、二人の白い甲冑の騎士たちに守られていた。
もう一人は、人間の女の子。
吸い込まれそうな薄く青い瞳に、金髪の三つ編み付きのツインテール。
服はワンピースにロープを着こんでいる。
簡素な胸当てに、足にはブーツを履いていた。
手には、柄に蒼色の宝石がついた剣を持っている。
まるで、どこかの商家の娘か、貴族の娘が冒険者になったような風貌だった。
来店者たちが誰なのか。
私は、その人物たちのことをよく知っていた。




