願いをつかめ、想いを解き放せ④
「聖女が……アリスがいるだけで規格外なのに、アウリ様までもがこの村にいる。この事実を目の当たりにしたら、ジルハルト殿下も手のひらを返しそうだ。聖女と大精霊様がいると知れば、それで十分、引く手数多だろう」
改めて、私たちが直面したのは厳しい現実だった。
あちこち引っ張りだこなのは避けたい。
そう感じているのは私だけではなかった。
アリスも想像したのか、嫌そうな顔をしている。
「テレビ番組放送による宣言の件はともあれ、聖女と大精霊様が、この村にいることはできる限り、公言しない方がいいかもな」
「そうね。村のみんなにも、そう伝えておくわ」
サフランくんの言葉に、アリスは深刻な表情でうなずいた。
公にできない。
じゃあ、私はテレビ番組に出演できないのかな。
世知辛い……世知辛いよ、世の中……!
心が軋む音。
アナウンサー兼レポーターとして頑張ろうと思った、私の高揚した心がしぼみそうになってくる。
だけど、そんな浮かない顔をした私に気づいたアリスが優しく語りかけた。
「アウリ、心配しないで。大精霊だとバレなかったらいいのよ。あなたは、わたしの遠い親戚ってことにするわ」
「アリス、ありがとう」
アリスの励ましに、私はほっと胸をなで下ろした。
良かった。
テレビに出演することはできるみたい。
「でも、さすがに、わたしの存在はバレそうよね。変装でもしようかしら」
「……もし気づいたらと思うと、肝が冷えるな。ルージュ王国が、何も仕掛けてこないことを祈るばかりだ」
テレビに出る気満々のアリス。
その様子を見て、サフランくんは頬に手を当てて、思案げな顔をする。
「大丈夫よ! バレなかったらいいんだから!」
「相変わらず、楽観的だな。先が思いやられる」
アリスの言い分に、サフランくんは呆れたようにため息を吐いた。
私は改めて真剣な眼差しで、サフランくんを見つめる。
「サフランくん、どうかな? 私たちの作戦に協力してもらえない? この放送技術は、サフランくんと私たちの『共同開発』。王宮が独占しようとしても、私たちにしか動かせないプロテクト……『精霊の契約』をかけるわ!」
「分かった……じゃなくて、状況は分かりました。今の段階でできるとはお約束できませんが、やってみます」
サフランくんはぶっきらぼうだけど、根は優しいみたい。
「ただ、テレビ番組を放送するために、必要な魔道具の製作方法が曖昧な部分が多く、かなり試行錯誤が必要かと思います」
「そうね。実物がないと、イメージが湧きにくいわね。まずは、テレビの精霊さんを見てもらおうかな。テレビの精霊さん、出てきて!」
私は思案すると、両手を広げて、精霊を呼び寄せる。
『お呼びですか? 星の大精霊、アウリス・クロエ様』
日本の家電の一つ、テレビに似た精霊さんが目の前に姿を現した。
「なんだ、この精霊! すごいな! この……『画素』にあたる部分は、極小の光の精霊を並べているのか!?」
『どうも』
サフランくんは衝撃が走ったように、筐体の質感や、画面の構造を食い入るように観察する。
サフランくんが驚いたのも無理はない。
テレビのような精密機器は、この世界にはないからだ。
テレビの精霊さんもほめられて、悪い気はしないみたい。
だが、肝心なことを思い出したのか、本題に入る。
『あの、星の大精霊、アウリス・クロエ様。女神様が、勝手に聖女と契約するなとわめいておりますが……』
「うっ……」
私は痛いところを突かれて押し黙る。
それを踏まえて、テレビの精霊さんは丁重に一礼すると進言した。
『そろそろ、転生の間にお戻りになられた方がいいかと』
「もう、転生の間には戻らないわよ! 私の将来の願いは、既に決まっています! 聖女の祈りに応えるのは、精霊の仕事ですから! これからは、自分の意思で生きていきます!」
私は鉛のような感情を吐き出す。
今まで我慢していたことを、ぜんぶまくし立てた。
『……はぁ、左様ですか……。では「有給休暇の長期取得」ということで、女神様には報告しておきますね』
テレビの精霊さんは転生の間で、苦難をともにした、長年の相棒だ。
私の苦労を、誰よりも理解しているだろう。
『では、言伝てを。テレビ番組を放送したら、絶対に女神様にも見せるように、と念押しされてきました』
そんな楽観的な私の考えに、テレビの精霊さんは水を差す。
テレビ番組を放送。
その言葉で、私は直感する。
……うん。
女神様は間違いなく、私の答えを見透かしていたわね。
「……分かったわよ」
『ありがとうございます。では、わたくしも全力で、テレビ制作に取り組んでいきます。何なりとお申し付けを』
憮然とする私の姿を認めてから、テレビの精霊さんは恭しく礼をした。
「ありがとう。早速、お願いしたいことがあるんだけど、しばらくサフランくんの助手になってほしいの。テレビ制作に必要な魔道具を、一緒に造り出してほしくて」
『かしこまりました』
テレビの精霊さんは一礼すると、サフランくんのもとへ向かう。
『初めまして、サフラン様。お役に立てるように頑張りますので、よろしくお願いいたします』
「ああ。こちらこそ、よろしくな」
サフランくんは躊躇いながらも、テレビの精霊さんに近づいていく。




