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歌留多 翔は、戸惑っていた。

『なぜ…?』と。


優れぬ体調を加齢と不摂生のせいと思考の片隅に追いやった挙句が、手の施しようのない余命宣告であった。


色々な思いが頭の中に現れては消えていったが、最終的には「こんなもんか…」である。

幼少期に母を事故で亡くした。記憶はほぼない。高校生の頃に事故で父を亡くした。関係が希薄だったこともあり、思いのほか悲しみを感じない自分に嫌気がさした。


それでも父が自分名義の保険に入ってくれていたこと、母の事故の慰謝料や父の資産など、全て自分が相続できるようにしてあったことを知ると、いまさらながら愛されていたのだなと、涙がこぼれた。


結婚はおろか恋愛もせず、ただ1人、日々を無為に生きてきた。

趣味と言えば休みの日に料理をするくらいのもの。休日に誘われることもなく、同窓会の便りも受け取った記憶はない。仕事終わりに声を掛けられることもないし、進んで人と関わろうとするタイプでもない。

いったい自分はなにをしてきたのだろうか。

母は事故にあいながら懸命に自分を庇って死んだ。父とは分かり合えないままだったが、それでも死後の整理の中で、いくつもの自分を思う形跡を見つけた。

自分は確かに愛されて、望まれてこの世に生まれ、生きたはずだったのに。


最後は末期患者を受け入れる施設のベッドの上で痩せこけて死んでいくのだ。

母と父がみたらどう思うだろうか。

悔しくはない。そう思えるほどに努力をしたわけでもないから。ただ、ただ、情けないと、そして両親に申し訳ないと思う。

痛み止めと衰弱した身体で朦朧とする意識の中、もし来世があるのなら、生まれ変わることができるのなら、今度こそはがんばろうと願った。

なにをどうがんばるかはわからない。ただ、こんな思いをしながら死ぬのは嫌だと思った。


意識は徐々に薄れていく。ただ漠然と、死ぬのだろうということだけがわかった。


そうして32年という生涯を終えたはずだった。そう、はずだったのだ。


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