第十四話 森人族の森 ~ハヤトの限界~
「エルフィンドたち......大丈夫かしら......?」
「シュラも付いているし、大丈夫だろ」
「そうだぞ、シュラはハヤトより強いからな」
「......これでも、一回シュラに勝ってるんだけど......」
「マジでか!?」
「マジだって......」
シュラたちと別れてから、五分ほど経っただろう。目の前には大きな木が見えている。だがまだ距離が在るらしく、相当な距離を走っているつもりだが一向に距離が縮まらない。
「それよりヴェル。"ミーティア"って今、何処に在るんだ?」
「ん? 森の中で擬態させてるけど」
「そんなことが出来るのか!?」
「ああ、精霊石に貯めたエネルギーを大分消費するが、ぶつからなければ誰も気づかないだろ」
「そんなことも出来たんだな......初めて知ったぞ」
「そりゃ言ってねぇしな。それに、貯蔵されていくエネルギーより、使っているエネルギーの方が若干多いからな。もっても三日ぐらいだろ」
「そうか、じゃあ三日以内に出ていった方がいいかもな」
「ああ、そうかもな」
ミーティアの以外な機能を知った。まさか擬態が出来たとは.....
そんなことを思いながら、ハヤトたちは大樹へと足を進める。歩くこと四十分。上を見上げれば、巨大な樹木がその存在感を多いに示している。前方には両腰に一振りずつ、計二振りの剣を携えた黒いローブを着用した男が佇んでおり、その後ろには、白髪が混じった翡翠の長髪を持つ、年老いた森人族が拘束されていた。
「大分速かったな......話には聞いていたぞ。黒いローブを着用した少年って言うのは、お前だろ? 確か名前は......」
「神崎隼人、だよ」
「ああ、そうそう。カンザキハヤト、だったな。《グランアーサー》見てたぞ。まあまあ強いじゃないか」
「......そりゃどうも」
「お前等の目的は判っている。このじいさんだろ?」
「ああ、返してくれないか?」
「それは無理だな。俺等はこの森の霊脈を、『反転』させろって命令されてるからな」
「......あの"狂った巨人"と同じ黒い力に、侵食させるってことか?」
「ああ、あれを作ってるのはマグナス・リボルバーって言ってな。随分なマッドサイエンティストのくせに、自分の思い通りに行かなかったら即キレる。精神面で言うなら、まだまだガキだな」
「どうでもいいんだけど......」
いつの間にか話が逸れていた。いや逸らされていた。
「ん、どうでもよかったか。すまないな」
「で、どうやったら返してくれるんだ?」
「......儀式が終わるまで無理だな」
「儀式ってなんだ?」
「......この大樹を『反転』させたら、俺等は退く。それでいいだろ?」
「どうしたら、『反転』するんだ?」
「森人族を一人、生け贄にすること」
「なっ!」
生け贄、つまりはアリシアのお祖父さんの命を使って、大樹を『反転』させる気なのだろう。そんなことをされれば、アリシアのお祖父さんは死ぬ。何としても防がなければ......
「そんなことは、させない!」
「ま、止めたいならせいぜい頑張りな。俺は、そう容易く乗り越えられる壁じゃねぇけどな......!」
ハヤトは相手目掛けて駆ける。突きを放ち、右袈裟から斬り下ろし、左から右へ薙ぐ。突きは躱され、右袈裟からの斬り下ろしは弾かれ、左から右への横薙ぎは相手の剣で逸らされた。決して、ハヤトが焦っている訳ではなく、太刀筋が鈍っている訳でもない。敢えて言うなら、相手が強い。それだけだ。
「どうした、俺を倒すんだろ? 俺に一撃も当てられて無いぞ」
「......剣技に関しては、大分腕に覚えがあったんだけど......」
「俺はまだまだ、本気を出してないぞ」
「斬り合えば、それぐらい判るって」
「なあカンザキハヤト、ちょっといいか?」
「なんだ?」
「お前、それが本気か?」
「......言ってる意味が判らない」
「お前は多分、戦闘の心得自体は嫌というほど判っている。加えて、何度か死にかけているのか戦いへの恐怖からくる、生存本能すら感じた。だからこそだ。お前は手を抜いているのか? それとも全力を出せないのか? それとも単に人殺しが怖いのか? 俺はそれが判らない。ただ、お前は決して手を抜くような奴じゃない筈だ。たかだか数回斬り合っただけだが、それぐらいは判る。もし、だ。もしお前が手を抜いているのなら、即斬り伏せる。ただ、それ以外なら教えてもらいたいな。お前が何故、本気を出さないのかを」
「......教える意味が、無いような気がするけど」
「教えたくないなら、それでいい。ただ、全力を出さないならお前と斬り合う必要も無い。去れ」
「......去る気はない」
「そうか。......まあいい、相手はしてやる。掛かってこい」
ハヤトは、相手との間合いを詰める。ハヤトは、左手を目の前に持っていき、右手に持っている剣を矢のように引く。次は、あの技だ。
「"皇一刀流剣術 肆ノ型改......」
「ん? ......っ!?」
「射突"!」
右手を引いてからの突進、それは不意を突く一撃だった。一瞬止まったので、油断してしまった。まさか、急加速をしてくるなんて。
"皇一刀流剣術 壱ノ型改 射突"、左足を前に出し、右足を後ろに引く。左手は顔の前に持っていき、右手は剣先を相手に向けたまま弓の矢のように、ギリギリまで引く。そして、左足に力を込め駆ける。そのまま相手目掛けて突く。射抜くように突くから、射突。
「いやぁ、驚いたな。まさか急停止からの急加速。一歩間違えば、自滅技じゃねぇか」
「元々は、カウンター技なんだけどな。構えて、相手の攻撃に合わせて突く。それに、少しアレンジを加えた技なんだけど。案外効いたらしくて、嬉しいな」
「お前、やろうと思えばやれるんじゃねぇか」
「そりゃどうも。ま、それでもかすり傷しか付けられなかったとは......少し残念だな」
見れば、相手には目立った傷は無く、左腕にかすり傷が在るのみだ。当たる直前、剣で防がれたらしい。隙を突いた筈だし、体重を乗せたのだからそうそう見切れる速さじゃない......筈だ。
(大分やばかったな。あの一瞬、本気で殺されかけた。俺も、本気を出したが......あいつ、まだまだ何かを隠してるな。カンザキハヤト、覚えとく必要が在るかもな......っ!)
今の一撃に対して考え事をしていたら、光の剣が降ってきた。
「私が居ること、忘れてない?」
「アリシア......!」
「光の剣......光属性の精霊魔法か」
「ええ、そうよ。もう一発!」
アリシアの詠唱と共に、光の剣が五つ生成される。その剣は、相手目掛けて飛んでいく。
「ちっ、面倒だな......」
光の剣たちは、相手に剣先を向けて飛んでいく。だが一発も当たらず、地面に突き刺さってしまう。そのまま、光の剣は霧散した。
「危ねぇな。っ!」
光の剣が霧散したと思ったら、次はハヤトの一撃を受ける。咄嗟に左側の腰に携えている剣を左手で抜き、防ぐ。だが、またしても光の剣が右側から迫ってくる。
「ちぃっ!」
相手は、右側の腰に携えている剣を右手で抜いて、薙ぎ払う。
「なっ!」
薙ぎ払って砕いた筈の剣が、いきなり粉々に砕けて光となって輝いた。咄嗟に目を閉じようとしたが、間に合わなかった。すぐ目を閉じたがもろに光を見てしまったので、視力が一時的に失われてしまった。直後、剣の気配を感じたので体を捻って躱した。だが完全に躱わせたわけでは無いらしく、所々にかすり傷が付いている。
「......面倒な......」
「凄いな、アリシア」
「そ、そんなこと無いわよ! 普通よ普通!」
「いや、そんなこと無いだろ。凄いって......!」
「そ、そう? それじゃあ凄い......のかな」
相手はまだ視力が戻ってないので動いていない。その隙にハヤトは攻撃の手を止めて、アリシアの許に行く。
「それより、何でお祖父さんを助けなかったんだ? せっかく引き付けていたのに」
「うっ! ......た、助けられなかったのよ!」
「......あっそ。そういえば、ヴェルはどこに行ったんだ?」
「戦闘が始まった瞬間、どこかに行ったわ」
「......人選ミスったかな......」
少し......人選をミスしてしまったかもしれない......そう思ったのも束の間、相手が、剣を投擲してきた。
「......大分視力も戻ってきたぞ。......悪いな、イチャイチャしてたところに水を差したようで」
「い、イチャイチャなんてしてない!」
「そうだぞ! ......痛っ!」
イチャイチャしていると言われたから、否定したら足を蹴られた。ちょっと酷い。
「ハハ......ま、話は変わるが、大分やられたからな。少し本気を出させてもらう......!」
「「っ!」」
相手の雰囲気がガラリと変わった。空気から、とてつもない程の殺気を感じる。そして、相手が間合いを詰めてきた。ハヤトは"真眼"を使い、アリシアも短剣を構える。
「その程度で、防げると思うなよ......!」
「っ!」
異常な程の殺気を感じた。瞬間、ハヤトはアリシアの前に立ち"残閃"を使用する。
「その程度か?」
「なっ、嘘だろ......!?」
相手は右手に持っている剣を降るって、"残閃"を突破する。その剣には、黒い魔力が宿っていた。そして、相手は剣を振るう。
「やべっ......!」
「ちょっと!」
「虚無の咆哮......!」
ハヤトは相手が剣を振るうのと同時に、アリシアを担いで"一閃"を使用する。
轟音、爆発音、ぶつかった時に出る音、どれとも説明出来ないような音。ただ一つだけ判る。当たれば死ぬ。それだけだ。そして、それだけ判れば逃げる理由としては十分。
ハヤトは相手の攻撃が放たれる瞬間、"一閃"で攻撃が届かない木へと転移していた。間一髪、"一閃"がなければアリシア共々死んでいただろう。"真眼"を使用していなければ、それこそもっと前に死んでいた。そしてハヤトは、"真眼"で相手を確認する。
「ちょっと、離して!」
「少し黙っててくれ......!」
「っ! ......判った」
アリシアは、ハヤトに気圧された。それもそうだ。相手に殺されかけ、必死に逃げたのだ。そして今は、相手の行動を集中して確認しているのだ。アリシアとの会話に意識を割いている程、暇ではない。
「......逃げたか。瞬間移動、転移だな。だが、あの一撃を見てから転移じゃ間に合わねぇよな。......予知でも使えるのか? まあいい、探すか」
「っ!」
"真眼"は、決して五感を強化するものでもないし、脳を活性化するものでもない。視覚野、つまり視覚を司る脳の領域一部を強化する技だ。
だがハヤトはその能力を使うと、何となく相手の口の動きで言葉が判ってしまった。読唇術、限りなくこれに近いもの。だからこそ、相手の言葉が判った。予知と言っていたのが。同時に、この場所に居たらすぐ見つかる。そう思ったので、"一閃"で場所を移動した。
「アリシア、行くぞ」
「えっ、次はどこに!?」
そして、移動したのが間違いだった。
「っ!?」
「ん? そうか、やっぱり転移か......」
「ちっ!」
「おっと、危ねぇなっと......!」
焦りすぎた。攻撃は普通に躱され、逆に蹴りを入れられた。
「焦りすぎたな。どうした? もう少し落ち着けよ」
「ちぃっ......!」
「"神の加護を受けし光よ、大いなる本流より出でて、全てを焼き尽くせ ディバイン・レイ"!」
「これは......!?」
アリシアの魔法が、相手にクリーンヒットした。極光のように輝き、極光のように巨大な光。
「一人で突っ走っても、意味無いでしょ?」
「アリシア......」
「ほら立って、来るよ!」
「おう! ......!?」
突如、天気が変わった。微弱だが魔力の反応を感じる。シュラの魔力だ。シュラたちも頑張っているのだと思い、再度気を引き締める。
相手が間合いを詰めてくる。それに対応して、ハヤトも相手との間合いを詰める。そして、鍔迫り合いをする。
「ハッ、冷静になったか! 本気で掛かってこい!」
「ハアッ!」
鍔迫り合いは引き分けに終わった。相手は、剣に魔力を纏わせて斬る気だろう。はっきり言って、今のハヤトに武器に纏わせる魔力は無い。"真眼"や"一閃"、"瞬閃"に魔力を使用しなければいけないために、魔力が足りない。決して、ハヤトの魔力が少ないわけでは無い。そこで、一つあることを思い出す。
(アメ、聞こえるか?)
"何だよ、久々に。話してくれなかったから、寂しかったぞ。マスター"
(悪いな。ところで、リヴルムと戦った時に使った光の剣。あれ、アメの魔力で使えないか?)
"出来なくはない。ただ、半端無いほどの大きさになるぞ?"
(大丈夫。案はある)
ハヤトは、自分の理想をアメに伝える。
"了解した。だが時間が欲しい。合図をするまで凌いでくれ"
(判った。なるべく速く頼むぞ)
"おうよ、マスター。任せろ"
アメと作戦を立て、時間を稼ぐ。なるべく魔力を消費しないように、なるべく相手から離れないように時間を稼ぐ。そして、アメから合図が来た。
"準備が出来たぞ、マスター"
「よし!」
「ん? ......ハッ、なるほどな」
アメの合図と共に、剣に魔力が集中する。魔力が光となり、形をなす。刀身が、二周りぐらい大きくなった。
「刀身が大きくなった......だけじゃねぇよな」
「光は集束すると熱を持つ。極限まで集束したからな。大抵の物なら、焼き斬れるぞ」
「どこに、そんな魔力があるんだよ」
「行くぞ!」
「ハッ、笑わせんなよ。ガキが」
その後、再び相手と鍔迫り合いをした。今度は、引き分けに終わらず打ち勝った。だがそれも束の間、魔力を纏わせた左手で殴ってきた。ハヤトは、"真眼"で殴られるであろう場所を予測し、魔力を纏わせる。直撃したが、大したダメージにはならなかった。
「やるな! だが、もうそろそろ魔力が尽きるんじゃねぇか?」
「......」
「ハッ、まあいい」
相手の言うことは、的を射ていた。ハヤトの魔力は、残り700ちょっと。7000近くあった魔力も大分減った。はっきり言って、あと五分ほどしか戦えないだろう。そこで、"瞬閃"を使用した。
「"瞬閃"......」
「......何だ?」
「ハアッ!」
斬りかかる。だが、目立った傷はあたえられない。"真眼"で先読みしているが、すぐに対応されてしまう。
「まだまだ、だな。どうした? 疲労で考えがまとまらないか? それとも、単に疲れただけか?」
「......っ!」
数分前から、ずっと何も考えずに攻撃している。無我夢中、この言葉がぴったりはまるほどだ。それでもまだ届かない。
ハヤトは"瞬閃"を使用している。もうじき五分。猶予は残り少ない。"真眼"も併用しているため、脳にかかる負担がとても大きい。次の一撃で、自分は使い物にならなくなるぐらいに疲労するだろう。だからこそ、全力を出す。
「行くぞ!」
「......来い......!」
「消滅の咆哮!」
さっきより、明らかに濃密な魔力が宿った一撃。その一撃に対して、ハヤトは剣に全力の、魔力を宿らせる。天羽刃斬の刀身が、さらに二周りほど大きくなった。
「閃の一撃......!」
「......っ!」
ハヤトは、アメの魔力に自分の魔力を纏わせ、膨大な魔力が剣を纏っていた。その一撃が相手の一撃を切り裂いていく。森を、膨大な魔力の渦が支配する。大きさも威力も、段違いに相手の方が上だが、決して諦めはしない。
だが、諦めない気持ちで戦力差が埋まるほど、世界は、現実は甘くない。
「......っ!!」
亀裂が入ったような音。この状況で何に亀裂が入るか? 答えはシンプルだ。天羽刃斬が、相手の一撃に耐えられなかったのだ。もう耐えられないだろう。
これで終わるのか? 武器が壊れたから死ぬ? 駄目だ。そんな死に方は、嫌だ。諦めない! 諦めてたまるか!
その時だった。ハヤトが諦めないと誓ったのと同時に、ハヤトを黄金の魔力が包む。その魔力はとても美しく。黄金の魔力は一部剣に集束し、刀身を伸ばした。刀身に纏わせてある魔力も、白色から黄金色になった。
「ハアァァァァッ!!」
「ハハッ......マジかよ......!」
黄金の魔力がハヤトを包んだのと同時に、ハヤトに余裕が出来たのだ。そして相手の一撃は、ハヤトに完全に防がれた。だが代償として、天羽刃斬は砕けてしまった。
「これで倒せなかった奴なんて、居なかったんだがな......!」
「......」
ハヤトは、疲労でまともに話せなかった。そして、倒れてしまった。
「ハハッ! すげぇな、おい! これが防がれるなんて、初めてだぞ!」
「......」
「疲労でまともに喋れない、か。......カンザキハヤト、お前は今後、絶対に強くなる。俺も、強い奴と戦うのは嫌いじゃない。故に今回は見逃す。次会ったときは、もっと強くなってろよ......!」
「クッ......!」
完全に、情けを掛けられた。いや、今はそんなことどうでもいい。相手は退いた。多目に見れば、こちらの勝ちだろう。シュラたちは無事だろうか? アリシアたちは大丈夫か? などと、色々なことが頭を駆け巡る。だが、"瞬閃"の効果も切れているし、"真眼"のせいで脳、正確には視覚野に大分負担がかかっている。故にもう、意識が朦朧として最後まで聞こえていなかった。そしてすぐに、気を失った。
「ハヤト!」
「おう、森人族の嬢ちゃん。そいつを安全な場所まで送ってやれ。それじゃあな」
そう言って、相手は闇の中へと消えていった。
その後、相手はシュラの許へと寄り、マグナスたちを回収して、この森から去っていった。
こうして、森人族の森で起きた事件は完全とは行かないが、終息した。"邪霊樹"の件も、マグナスたちが撤退してから、徐々に元の霊脈へと戻っていった。森人族の人々も、霊脈と同じく徐々に回復していった。ハヤトは気を失い、その三日後に目を覚ました。




