第十三話 森人族の森 ~仇敵との戦闘~
多分、これからは隔週更新になると思います。
「そういえばさ、お前の名前は何て言うんだ?」
「私はアリシア・フォン・ハイアールヴ。お前じゃない」
「へぇ~」
「なんだ、その生返事は!?」
「いや別に」
今ハヤトたちは、集落を目指して歩を進めている。その過程で、淡い緑色の光が漂う道を歩いている。
「今更だが、エルフィンド。周りに淡い緑色の粒子のようなものがあるが、これが所謂"霊力"というやつか?」
「はい、集落に近付いているという証でもあります。集落はもうすぐですね」
「そうか、それはよかった」
「エルフィンド、あまり人間と馴れ馴れしくしない方がいいわよ?」
「はぁ、何時までもいがみ合うな、ハヤト」
「別に、いがみ合っている訳じゃない」
「そうよ、私だっていがみ合っている訳じゃないわ」
「はあ......」
先程から妙にいがみ合っている二人を、シュラが戒める。そんな時、エルフィンドが気づく。
「っ! 見えましたよ、集落が」
「本当か!?」
「はい!」
目の前には、洞窟で言う空洞のように開けた場所が在った。そこには木で出来た幾つもの住居が在り、それと同時に黒く染まった霊力と淡い緑色の霊力が漂っていた。そして、数人の森人族が慌ただしく往来していた。その人たちは、とても緊迫した空気に包まれている。その空気にハヤトたちも気付いたので、状況を探るために集落の奥に歩を進めていく。すると、アリシアが目の前を横切った一人の男性を呼び止め、何があったのかを聞き出す。
「ア、アリシア様! それにエルフィンド様と......に、人間!?」
「そんなこと、今はどうでもいいわ。慌ただしいけど、何かあったの?」
「あ......そ、それが! 族長が拐われてしまったのです!」
「え......」
「な......それは本当!?」
アリシアは、信じられないといった様子で、喋っていた男に掴みかかる。男は一瞬怯んだが、その後にまた言葉を紡ぎ出す。
「は、はい。突如、族長が休んでおられる部屋に黒いローブを着た人間たちが現れて、族長を拐っていったんです。抵抗しようとしたんですが、為す術無くやられてしまいました......」
「なあ、一つ聞きたい。黒いローブを着ていたと言っていたが、一人赤い仮面を付けたやつは居たか?」
「......皆、そこの黒いローブを着た人間みたいな服装に、白い仮面を付けていました。いや待ってください、赤い仮面......そういえば、口から下が出ている赤い仮面とマフラーを付けた奴なら居ました。名前も名乗ってたような......」
「そいつの名前を教えてくれ!」
「......確かだけど、"マグナス・リボルバー"って名乗ってた気がします」
「っ! ......そうか」
「どうした、シュラ?」
「いや、何でもない。それよりも、そいつらが何処に行ったか判るか?」
「いや、判らないです。ただ、行き先なら幾つか心当たりがあります」
「本当!?」
「はい。多分、大樹のところに行ったんだと思います。それか大広間。このどっちかだと思います」
「判った、両方当たってみるわ」
「アリシア様、二つ言わせてください」
「何?」
「あいつらは、二人組でした。後もう一つ、あいつらの使っていた武器のことです。仮面を付けていなかったフードの男は二振りの剣を使ってました。多分ショートソードの二刀流だと思います。赤い仮面の男は、フランベルジュを使っていました」
「......教えてくれて有り難う。行ってくるわ」
「行ってきます」
「お二人とも、お気を付けて」
森人族の男は、アリシアとエルフィンドを見送る。その二人にハヤトたちも付いていく。すると、ハヤトはその男に呼び止められる。
「人間、少し話を聞いてもらえないか?」
「いいけど......なるべく早く敵を倒した方がいいだろうから、手短に頼む」
「判った。まず、この森は多種族の出入りが限られている。貴方たちが入れる筈はないのだが、入っているということはエルフィンド様かアリシア様のどちらかが招き入れたのだろう」
「何が言いたい?」
「......エルフィンド様はまともに戦えないし、アリシア様も元々は精霊魔法の使い手故に近接戦闘が苦手だ」
(そうだろうか......?)
「だから、貴方たちにお二人の身を守っていただきたい。危険に陥った時だけでいいから、助けて上げてほしい。アリシア様もエルフィンド様も、一人で抱え込むところがある。だから......」
「判ってるよ、それぐらい。元々、エルフィンドに協力するためにここに立ち寄ったんだ。あの二人を守るぐらい、どうってことはない。だから、安心して待っててやれ。あいつらが帰ってきた時には、お前たちの族長も一緒だ」
「っ! ......お二人を、族長を、どうかよろしくお願いします......!」
「判ってるって言ったろ? じゃあ、俺らも行ってくる」
「どうか、ご無事で......!」
その後、ハヤトたちはアリシアとエルフィンドの許へと行った。森人族の男だけになった場所には、いつの間にか三つの影が増えていた。
「良いんすか? あの人間たちに任せて」
「大丈夫だろう。どの道、通らなければいけない道のりなのだ。早かれ遅かれ......ということだ」
「貴方もお人が悪い。本当のことを話せば、協力してくれたでしょうに」
「そうですとも、我々では乗り越えられないこともあります。協力した方がよかったのでは?」
「確かにそうだな。だが、彼らは次の世代だ。我々が不用意に干渉するのはよくない。それに、あの黒いローブを纏った少年。彼は、父上に聞いた伝説の剣士『剣聖』の特徴に似ている」
「『剣聖』って言ったら、かの初代族長もその旅に同行したほどの傑物じゃないっすか。そんなに出来る奴には、見えなかったっすけど......」
「ギーヴ、確かにお前の言う通りかもしれない。だが、伝承にもあるだろう。『剣聖』は皆、最初はさほど強くなかったと」
「まあ、確かにそうっすけど......」
ギーヴと呼ばれた少年は、男の答えにそうだと思い口ごもる。その男は、再び言葉を紡ぐ。
「......私が言えた義理では無いのかもしれないが、父上を頼んだぞ......アリシア、エルフィンド」
「フォード様!」
フォードと呼ばれた男は、言葉を紡ぎ終わるとその場に倒れ込んでしまう。フォードの体は、ハヤトたちと話していたときとは違い、少し老いていた。その上、身体中に黒い斑模様が浮かんでいる。
「お休みください、フォード様。少し調子が良かったからといって、無茶をし過ぎです」
「すまないな、そうさせてもらう」
フォードは、そのまま奥の民家に入っていった。
一方ハヤトたちは、とある十字路で停滞していた。
「このまま真っ直ぐ行けば、大広間に。左に曲がれば大樹に通ずる道へ。どっちに居るか判らないからな。二手に別れて、別々に行った方がいいんじゃないか?」
「ハヤトの言う通りだ。ここは二手に別れよう」
「でもどう分けるんですか?」
「......まず、俺とアリシアとヴェルは大樹に向かう。シュラとエルフィンドとラミアは、大広間に向かってくれ」
「俺は構わない」
「賛成だ」
「同じく賛成です!」
「私も構わない」
「大丈夫です」
「じゃあ行こう」
その言葉と共に、二手に別れる。ハヤトとアリシアとヴェルは大樹に向かい、シュラとエルフィンドとラミアは大広間に向かった。
「ハヤトさんたち、大丈夫でしょうか?」
「まだ、どちらに敵が居るか判らない。心配するのは、俺たちの安全を確保してからだ。行くぞ!」
「ハイ!」
その後数分走ると、とても大きな空間に出た。はっきり言って、大広間の一言で片付けていい大きななのか、不安になる。超大広間と言っても過言では無いだろう。そう思っていると、虚空から声が聞こえてきた。
「これはこれは、いつぞやの氷使いじゃあないですかぁ。お久しぶりですね。これで三度目ですか。何か、運命を感じますねぇ」
「っ! マグナス・リボルバァー!!」
「そんなに大声を出さないで下さい。煩いですよ」
「っ!」
声の主は、マグナス・リボルバー。《グランアーサー》で、シュラに一刀の下に斬られた人間。顔の下半分が露出した、赤い仮面を付けている化け物じみた人間だ。シュラにとっては、仇敵に値する。
マグナスは、シュラが大声で叫んだのと共に姿を現した。赤い仮面を付けており、黒いマフラーを首に巻き黒いローブを着込んで佇んでいる。不適な笑みを浮かべているため、何処か気味が悪い。
「フフッ、君を捕らえて"狂った巨人"にすれば、どれだけの戦力になることか......」
「屑が......!」
「フフッ、それは私にとって、誉め言葉ですよ」
「ハアアァッ!」
シュラは、一直線に相手へ突進する。
「また突進ですか? 芸が無い上に、二年前と変わらず愚かですねぇ」
「貴様ァー!!」
シュラは、マグナスの言葉に呼応するかのように剣を振るう。薙ぎ払い、右袈裟斬り、逆袈裟斬り、また右袈裟斬り、と連続で斬撃を繰り出す。だがその斬撃は当たるどころか、掠りもしない。マグナスは紙一重で避けているように見えて、大分余裕も残している。シュラが冷静で無いことも考えると、この後何回斬撃を繰り出しても当たらないだろう。それは、シュラも判っていた。憤激せず、冷静になろうとしても不可能だった。胸の奥から込み上げてくる殺意は、抑えきれなかった。ただ、シュラは激情だけに任せて攻撃はしなかった。故に、能力の使用を考えていた。
「"召喚 絶対零度"!」
「これは!?」
「ハアッ!」
絶対零度、魔力を這わせておいた場所全体に氷原を作る技。温度は殺傷性の高いものから相手の動きを封じるものまで、細かく調整ができる。
だが、今のシュラはそこまで細かく調整ができるほどに冷静では無いので、周りのことを考えずに最大火力で放つ。その威力は、結構離れていたラミアやエルフィンドを巻き込んでもまだ飽きたらず、森の一部を完全に凍結させてしまった。ラミアは危険を逸速く察知していたため、エルフィンドを抱き抱えて木の上まで上って、凍結を回避していた。
マグナスは、まるで何事も無かったかのように佇んでいた。
「......めんどくせぇなぁ、おい......!」
「っ!?」
「おっと、口調が戻っていましたね。失礼失礼」
「何故だ......何故傷一つ付いていない......?」
「フフッ、それは秘密ですよ。それよりも、私ともっと遊んで下さい。正確には私の僕たちと、ですが......!」
マグナスのその言葉と共に影が伸び、黒い霧のようなものに体を覆われた人間が出てきた。その数は十二。
「フフフ、"狂った巨人"の完成体、"不死なる戦士"。絶対的な不死であり、忠実なる僕。本当によく出来た僕ですよ。クククッ......!」
「不死の人形が十二だと......」
「か、勝てる気がしないですよ~」
「ここは、退いた方がいいのでは?」
「......駄目だ。あいつはここで倒す」
「そこまで、あいつに拘らなくてもいいじゃないですか~」
「そうですよ、シュラさん。このままじゃ全滅です」
ラミアとエルフィンドの言っていることは正論だ。だが、シュラにも譲れない意思というものがある。
「......我が儘を言っていることも、判ってはいる。ただどの道、この相手にこの数だ。勝つことも不可能だが、逃げることも不可能だろう」
「どっ、どうするんですか~!?」
「......俺がやる。下がっていろ、ラミア、エルフィンド」
「シュラさん、無茶ですよ!」
「そうですよ、シュラさん!」
「いいから、下がっていろ。......試したい技も在るしな。そう簡単には死なん」
「シュラさん......ラミアさん、下がってましょう。どの道僕たちでは戦力にならないでしょうし」
「判りました。死なないで下さいよ、シュラさん。ハヤトさんに面目が立たなくなりますから」
「お前もお前で、少し酷くないか......まあいい。行くぞ、マグナス・リボルバー。お前を葬る!」
「......面白く無いですねぇ......! もっと憤怒に身を任せてかかってきてくださいよ! でなければ面白くもなんとも無い!」
「貴様の都合など知ったことか。俺は貴様許さん。それに嘘偽りは無い。故に葬る。普通のやり方では死なないようだが、見たところ決して不死身では無いのだろう?」
「......はあ、お前はこの"不死なる戦士"たちを掻い潜って、俺に一撃を加えるだと? 笑わせんなよ、雑魚が! お前らは俺の下で、這いつくばっていればいいんだよ!」
「本性を表したか、マグナス・リボルバー。いや、マグナスキア・リボルバー! ......行くぞ!」
「ちっ! 口だけは達者だなぁ! シュラ・マクスウェル!」
シュラは再度冷静になり、戦況を確認する。すると、大樹の方向から巨大な魔力波が襲ってきた。よく判らないが、多分余波だろう。だが、今はそんなことに意識を割いている暇は無い。
「"召喚 氷結柱群"......!」
シュラは、相手の行く道全てに大きな氷柱を作っていった。無論、この一撃が当たるとも思っていない。全ては、最後の一撃のための布石だ。
「ハッ! そんなのが利くとでも思ったか!」
「当たらないのは、重々承知している。だから、道を絞るために使ったのだ」
「? どういう意味だ?」
「つまりは、お前の逃げ道を潰したのだ。"召喚 絶対零度"」
「何度も言ってるだろうがよ! そんなのは利かねえって!」
「......"召喚 炎熱世界"」
「っ!?」
シュラの思惑に、まだ誰も気づいていない。第一、本人も成功するかは判っていない。なにせ、成功例がまだ一回のみという信憑性に欠ける技だからだ。ただ、成功すれば大分自分の技を強化できる。成功するかどうかは、運次第だ。
「クソッ......無駄に暑いな......」
「そのまま暑さで倒れてくれれば、大分楽なんだが」
「ハッ、ほざけよ......第一、お前は愚を犯した。せっかくの氷柱や氷原が勿体無ぇだろうが......」
「俺が、そんなことも判らない愚図だと思ったか? そろそろだ......」
「はあ? どういう意味だ? ......んなっ!? あれは......」
シュラの言葉の意味が判らなかったマグナスは、シュラが見ていた空を見上げる。そして、マグナスは驚愕した。
唐突だが、積乱雲を知っているだろうか? それは、地上の熱と空の熱が全く逆の位置にあるときに発生する、特殊な現象。地上と空の熱を同じ温度にしようとすることで、発生する。此処、アーカルディアの土地では、天候は神頼みとなっている。正確には、予報出来ないのが現状だからだ。そんなアーカルディアにも、積乱雲は存在する。その発生の原理は、地球と同じだ。そして、熱を操ることが十八番のシュラにとっては、努力で積乱雲すらも生み出せる。まあ勿論、成功する確率は相当低い。だが発動させれば、その積乱雲から生み出される雨などにはシュラの魔力が宿る。すなわち、積乱雲が拡がっているフィールドはシュラの独壇場と言っても過言ではない。
「"召喚 大積乱雲"」
「なっ、有り得ない!? 天候を操るなど......出来る筈がない!」
「確かにそうだな。俺も、何故出来るのかは判っていない」
「は......?」
そう。シュラは、積乱雲が何故発生するのか判っていないのだ。なのに発生させた。それだけでも、天才に近い才能があるのだと判る。
「まあいい、それよりもだ。この状況下で、お前はもう勝ち目が無いことぐらい判っているだろう。大人しく死ね」
「......クソガアァッ! 何で勝てない!? そうだ、"不死なる戦士"! 俺の代わりに戦え......っ!?」
マグナスの視線の先には、氷で出来た槍に貫かれ、一部凍結した"不死なる戦士"たちが居た。
「あ、有り得ない......クソガアアァァァ!!」
『少し黙れ、マグナスキア』
「っ!? 何で、てめぇがここに居る!? てめぇはあの老いぼれジジィと一緒に、大樹に向かったんじゃねぇのかよ!?」
「負けたよ」
「は? どういうことだよ?」
「......カンザキハヤトとか言う人間に、俺の"咆哮"を防がれた。だから退いてきた」
「てめぇ! 勝手に何やってやがる!」
「お前がそれを言うか? 重要な"不死なる戦士"を、行動不能にしやがって。罰を受けるのはお前だけじゃないんだ。それは承知しているだろう? なら、お前はせいぜい俺の命令に従って、退却することだけを考えろ。いいな?」
「ぐ......判った」
「おい、待て!」
「お前、カンザキハヤトとか言う奴の仲間なんだろう? あいつは大樹の近くに居る。気絶してるから、迎えに行ってやれ。じゃあな、あいつによろしく言っといてくれ」
「待て!」
突如、虚空から黒いローブを着用した男が現れたと思ったら、マグナスを連れて虚空へと消えてしまった。シュラが追おうとするが、相手が消える方が速かった。せっかく、マグナスの死なない原因を解明出来たというのに、まんまと逃げられた。不覚、この一言に尽きる。だが、過ぎたことを後悔し続けても無駄だということは、判っている。
虚空から現れた男によると、大樹の近くでハヤトが気絶しているらしいので、シュラたちはエルフィンドの案内で大樹を目指すことにした。




