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無能と呼ばれ剣聖になった男  作者: 悠渡
第一章 大商帝国と神秘の森
15/22

第九話 決着

 少し、設定を変えました。

「ウオォォォォォ!」

「オオォォォォォ!」


 【ラジア帝国】東部。コロシアムやオークション会場などの施設が並ぶ場所に、大きな音と声が響いていた。そこは東部の片隅に在る、まあまあ大きいとある会場。そこでは、二人の男が拳と剣を交わし合っていた。拳を振るっている男の名はジャンク。剣を振るっている男の名はハヤト。


 実力はジャンクの方が上だが、中々攻めきれずにいる。理由は単純。ハヤトは動きまわり、ヒットアンドアウェイ戦法で戦っているからだ。ジャンクは時々攻撃を当てているが、決め手は一切当たってはいない。


「くっ、ちょこまかと......!」

「はあっ!」

「ぐっ! このぉ!」


 やはり攻撃が決まらない。ジャンクの体には、無数の傷がついている。そこでジャンクは、拳に纏わせている魔力を体の内に集中させる。すると、ジャンクの体をオレンジ色の魔力が包む。


「こ、これは......!?」

「通称"絶気纏"。絶気魔力というものを扱う能力。お前も知っているだろう?」

「まあ、一応使えるからな。というより今頃使うか?」

「フッ、使わなくても勝てると思っていたのだがな。ここからは、こちらも本気をだそう」


 絶気魔力操作、霊脈からエネルギーを受け取り、強化した魔力を操作する能力。この能力を使ってからは、ハヤト優勢がジャンク優勢になった。ハヤトもこの能力を使っているが、練度が違う。


「いい加減諦めろ、今のお前では俺には勝てん」

「......諦めるわけには......いかないんだよ」


 ジャンクの忠告に、ハヤトは息を切らしながら答える。ここで諦めてはいけない。だが、何処かに諦めている自分が居るのも事実だった。


(流石に、レベル差がありすぎだな。......無謀過ぎたのかもしれない)


 無謀だったと思った。

 

 自分は強い、誰にでも勝てると何処かで慢心していたのだろう。

 

 だがその結果がこれだ。


 俺は弱かった。


 だから誰にも勝てない。


 もう諦めよう。


 と、思ったときだった。ふと、ある言葉が頭をよぎった。


『ハヤト、幾ら負けても諦めないことが肝心なんだぞ』


 聞いたことのある声と言葉。まあ勿論、聞いたことがなければ頭をよぎらないのだが。もう一生聞こえない声と言葉。


(ハハッ。まさかここで、兄さん(・ ・ ・)の言葉を思い出すなんてな)


「これで終わりだ。死ね!」


 瞬間、ジャンクは拳を振るった。だがそれは、虚空を薙いだだけだった。ハヤトは、一閃を使用してジャンクの後方に移動していたのだ。


「何っ!」

「やっぱり......まだ負けられない! ......ここで負けて死んだりしたら、兄さんに会わせる顔が無い!」

「まだ抗うと?」

「ああ、そうだ」

「......愚問だったな」


 ジャンクは、自分の質問が愚問だと直ぐに気づいた。何故なら、ハヤトの目がさっきまでの光の無い目と違い、自信に満ち溢れていたからだ。


 「行くぞ!」


 その言葉を発すると共に、ジャンクはハヤトとの間合いを詰める。そして、視線だけはこちらに向けたまま突っ立っているハヤトに、絶気魔力を纏わせた拳を振るう。


 この一撃は、明らかに直撃コースだ。


 そう思った瞬間、ジャンクの拳は何かに弾かれた。いや、正確には拳を退いたのだ。部分的に拳の魔力が斬れている。いつ斬られたのかは判らない。だが拳を振るう瞬間、視線の端に煌めく剣を見た。もしかしたら、あれが原因なのかもしれない。


「何をした......!」

「......凄いな、これ......!」


 ハヤトは、自身が持っている剣を眺めていた。


 何をしたのかと聞かれると、剣に魔力を纏わせて振るっただけと答えるしかない。ジャンクの一撃を躱し、後方へ移動したときのことだ。何と無く頭に、新しい技の使用方法が浮かんできた。

 

 その後ジャンクが間合いを詰めてくるのと同時に、剣に魔力を纏わせて振るった。すると、剣の軌跡が残ったのだ。煌式剣術《残閃》、剣に魔力を纏わせて振るうと、刀身の軌跡を硬質化させる能力。


 何故、今更こんな能力を手に入れられたのかは、判らない。だが、ハヤトは純粋に凄いと思っていた。


「くっ、ならば!」

「チッ!」


 ハヤト目掛けて、ジャンクはまた間合いを詰めてくる。ハヤトもまた、剣に魔力を纏わせて残閃を使用する。


「二度も、同じ技を食らうか!」


 ジャンクは残閃を紙一重で躱す。そして、ジャンクは右拳を振るう。その一撃は、ハヤトの左腕に当たった。骨が折れた音がした。いや、折れたっていうレベルじゃない。骨が粉砕されたんだ。


「グアアアッ!!」

「これで、やっと決定打を与えたか」

「クソッ、"一閃"!」


 左腕の骨を粉砕され、苦しんでいるところに近付いてきたジャンクを、一閃で後退させる。だが、躱されて掠りもしない。ポーションを取り出し飲もうとしたとき、あることに気づく。ジャンクの右拳が血塗れになっていたのだ。


(もしかして、あの技は自分にも効果があるのか? なら、痛みを我慢して"あれ"を使うか)


 ハヤトがとある決断をしたのと同時に、ジャンクも次の一手を考えていた。


(これ以上"一撃破砕"を使うと、骨が粉砕される。だが使わなければ、勝てないだろう。腹を括るしかない)


 ジャンクも次の一手を決める。二人の体は、もうボロボロだ。これ以上は体の酷使だ。だが、どちらかが立っている以上、勝負は着かない。なので、次の一撃は全身全霊を込めた最強の一撃だ。


「「次の一撃で決める!!」」


 二人は駆け出す。ジャンクは右拳に魔力を集中させ、振りかぶる。ハヤトは剣を逆手に持ちかえて、魔力を纏わせる。


 ハヤトは、ジャンクとの間合いがあと一歩というところの手前で一旦止まり、その勢いを殺さない内に前方に跳躍する。そして、一回転して右手に持っている剣を勢い良く振りかぶる。ハヤトが習っていた剣術を少し改造した技、"皇一刀流剣術 弐ノ型改 大螺旋"。勢い良く回転し、その勢いと共に敵を斬りつける技。ハヤトが得意としていた技でもある。


 一方ジャンクは、右拳を勢い良く降り下ろす。その一撃はハヤトの体を捉えていたが、その間を何かが遮る。ハヤトの左腕だ。ハヤトは回転すると同時に、動かない左腕に攻撃を当てさせるつもりだったのだ。見事その作戦は的中し、ジャンクの一撃は左腕に直撃した。


「これで、終わりだぁー!!」


 ハヤトの雄叫びと共に、渾身の一撃はジャンクの腹部に直撃した。


「ガハッ!!」

「ハアハア......これで、俺の勝ちだ」

「ゴホッ! ......ああ、お前の勝ちだ。......だが、お前の目的は達成しない」

「何......?」


 ジャンクは、必至に言葉を紡いでいる。その言葉に、ハヤトは疑問を持つ。


「そういえば、ラミアを見ていない......!?」

「フッ、そういうことだ。あの獣人は飼い主と共に、今頃帝国を抜け出しているだろう」

「なっ! じゃあ今、ここには居ないっていうことか!?」

「ああ、そうだ」


 衝撃の事実に驚愕していた。つまり、ジャンクは囮だったのだ。自分を引き付けておき、他の奴等を逃がすための。ハヤトは焦りながらも、必至になって考える。そして、ヴェルクロムに念話を掛ける。


「クソッ! ヴェル、聞こえるか!?」

『おお、繋がった!』

「今は、そんなことどうでもいい!」

『どうしたんだ、そんなに慌てて?』

「ラミアが帝国から連れ出されたらしい」

『何っ! それは本当か!?』

「ああ、多分な。だから、一刻も早く出発したい」

『......了解だ。俺の家に来い、"ミーティア"を使用する時が来た』

「なっ、あれを使うのか!?」

『ああ、試運転は済ませてある。準備さえ出来れば、直ぐに出発出来るぞ』

「わかった。俺もなるべく早く行く」


 念話を終えその場を離れようとするが、足が思うように動かない。疲労の蓄積とも考えられるが、とあることが気掛かりで足がその場を離れようとしないのだ。


 とあることとは、ジャンクのことだ。傷が深い。このまま放っておけば、数十分で確実に死に至るだろう。

 

 敵だ。放っておけばいい。でも、元を辿れば同じ人間だ。だが、医者に届ける気もしない......


「貴様、何のつもりだ?」

 

 悩んだ末、ハヤトはジャンクの目の前に、HPポーションを置いたのだ。


「お前は憎い。あんたのせいで、面倒ごとに巻き込まれた。でも、もう目の前で人が死ぬのは見たくない。......だから、それを飲んで自首でもしてくれ。じゃあな」

「......フッ、フハハハハハッ! 甘いな少年。その甘さは、確実にお前の足元を掬うぞ。......だが、そんなお前だからこそ道を間違わず、人が集まってきたのだろう......友を大切にしろ。お前はまだ若いのだから」

「そんなの、当然だろ」


 ハヤトは会場を後にする。


「......俺も、あのときあの場所で、選択を間違っていなければ、お前のようになれたのかもしれないな」


 ジャンクの周りには、いつの間にか大量の血が流れている。最早、ポーションでどうにかなる問題ではない。


「フフ、フハハハハハ!」


 その笑い声が途絶えたのと同時に、ジャンクの生涯は幕を閉じた。




 一方ヴェルクロムやシュラたちは、屋敷に到着していた。そして工房部分に行き、大きな布が掛かっているものから布を取る。


「これが......"魔動列車 ミーティア"の完成品か。......圧巻だな」

「す、凄いですね。......これは」

「スッゴいわね......」

「で、デカイですね......」

「スピ~」


 魔動列車ミーティア、紅の車体に黄金の装甲。配色や大きさ、どれをとっても、圧巻としか言い様が無い。これには、出来掛けていたミーティアを見たことがあるシュラも、勇者四人組も、圧巻の一言だ。因みに、勇者四人組は屋敷に向かう最中で目を覚ました。篠崎だけは、ずっと眠っている。


「よし、準備出来た。お前らも乗れ。出発だ」


 工房のシャッターを開け、ミーティアのエンジンを掛ける。すると床に魔法陣が浮かび上がり、ミーティアの車体が魔法陣と共に浮遊する。そして、ミーティアは発進した。


 

 一方、ハヤトは会場を後にして、ヴェルクロムの屋敷に向かっていた。


「ハアハア......遠い! 走っても走っても、道が縮まらない......!」


 そうハヤトが愚痴っていると、目の前から紅くてデカイ物体が、物凄い速さで近付いてきた。


「ウアアッ!」

「フゥ、無事ブレーキが効いたな」

「ヴェルか......これが、完成品の"ミーティア"なのか......」

「凄いだろ。まあ、取り合えず乗れ。」

「あ、ああ......」


 ハヤトはミーティアに搭乗した。多分だが、ミーティアは帝国郊外の北に向かっていっている。


「ラミアが何処に居るか、判ってるのか?」

「まさか。シュラが、帝国の北に居る可能性が高いって言ってたからな。それを信じて、北に向かってるんだ」

「何で北なんだ?」

「奴等は、人身売買をしていたんだ。西に行けば、間違いなく王国軍に捕まる。かと言って、南には獣人界が在るし、東には"森人族エルフ"の森が在る。足を踏み入れれば、即刻退去を強制される。なら、残った選択肢は北、ということだ」

「なるほどな......」

「そろそろ、心当たりの場所に着くぞ」

「心当たり?」

「ああ。ここら辺に、使われなくなった古城が在った筈だ。隠れるには好都合だろ。お、着いたぞ」


 風情ある古城......と言えば聞こえは良いが、ただのおんぼろの城だ。所々植物に侵食されており、崩れている場所も在る。馬車が停めてあるので、多分ここに隠れているのだろう。


「ウワッ、不気味だな」

「気を付けろよ。ここら辺は、魔獣が巣くってるらしいからな」

「マジか。今の俺じゃ、戦力どころか足手まといだぞ......」

「そこら辺は、皆で協力するしかないだろう。......! 止まれ」

「? 何だよ、いきなり」


 大分進んだところで、シュラが歩みを止めた。ちょうど、三階に上がったときだ。そして、ハヤトもシュラが歩みを止めた理由を理解した。


「なるほどな。この階に」

「ああ、気配を感じる。この階に居るな」

「凄いな、俺には全く判らねぇぞ」

「俺の場合は、修業で身に付けた第六感みたいなものだがな」

「そういや、俺は何で感じれるのか判んないな」

「それよりも今は、ラミアをどう助け出すかだろう」

「俺は戦えないぞ。左腕が粉々なんだから」

「俺も、戦力には数えないでくれ」

「僕たちも、出来れば戦力に数えないでもらえた方が......」

「いや、取り合えず戦闘にはならないだろう。そこまで強そうとは思えない」

「なら、安心だな」


 取り合えず、戦闘にはならないと言われ一安心。そこで、ハヤトは一つあることを提案する。


「脅せばいいんじゃないか?」

「脅す......か。いいかもしれないな、無駄な作戦を省ける。よし、それで行こう」


 ハヤトの作戦に乗り、シュラは作戦の細部を考えていく。


「取り合えず、乗り込むのは俺とハヤトとヴェルクロム。お前たち三人は、"ミーティア"を見ていてもらいたい。いいな?」

「判りました。僕たちに出来ることなら、なんなりと」

「じゃあ、行きますか」


 シュラが説明を終えた後、ハヤトの合図で作戦が開始された。工藤たちはミーティアの元に戻り、ハヤトたちはラミアが居るであろう部屋の扉の前に居る。ちょうど扉の前に着くと、中から男の声が聞こえてきた。


「クソッ! 何故だ、何故こうなる! ジャンクめ、拾ってやった恩も忘れ勝手に死ぬだと! ふざけるな! いったいどこで、間違ったと言うのだ! この前までは、全て順調だったというのに......!」

(なっ、ジャンクが死んだ......! そんな、じゃあ渡したポーションは飲んでないのか!?)


 ジャンクが死んだと聞いて、何故ポーションを飲まなかったのかと考える。だが、直ぐに考えをやめる。ここに来て判ったが、気配が七つも在る。一つはラミアのもの、もう一つはさっき話していた声の主のものだとして、残りの五つが何なのか判らない。そう考えていると、さっきの声の主がまた口を開いた。


「クソッ! 全ては、貴様が来てから狂ったんだ! どう責任を取ってくれる! この獣人め!」

「キャアッ!」

(ラミア!)

「どうするハヤト、もう突入するか?」

「ああ、突入だ!」


 そう言い、ハヤトたちは突入した。そこで、ヴェルクロムは驚愕していた。何故なら、部屋に居たのはラミアとさっきの声の主、それと五匹の魔獣だったのだ。ハヤトとシュラは、薄々何か居るとは判っていたのでそこまで驚かなかったが、ヴェルクロムはとても驚愕していた。


「やっぱ居たな......」

「ああ。あれは、ドーヴェンフという魔獣だ。素早く、噛む力が強い。加えて群れで行動するが故に、一匹に捕まると他の数匹に集中攻撃されるから気を付けろ」

「............」

「どうした?」

「いやぁ、悪いんだけどさ......この腕で、どう戦えっていうんだよ!」


 ハヤトは、包帯をグルグルに巻かれた左腕を指差し、シュラに戦えないことを示す。


「はあ、しょうがないか」

「な、何だ貴様らは!?」

「ラミアを助けに来たんだ。ラミアは俺たちの仲間だからな」

「皆さん......」


 ハヤトの言葉にラミアが涙で目を濡らしていると、男が口を開く。


「そうか、貴様たちが我々の邪魔をしている者たちか。やれ、ドーヴェンフたちよ! 奴等を食い殺せぇ!」


 その合図で、魔獣たちは一斉にシュラたちを襲う......筈だったのだろう。ドーヴェンフたちは、その場から一向に動こうとしない。いや、動けないのだ。見れば、ドーヴェンフたちの足元が凍っている。


「悪いな。お前が喋っている間に、そいつらの足元を凍らせてもらった。無理に引き剥がそうとすると、皮膚が剥がれるから気を付けろ」

「なっ、バカな! ドーヴェンフが、敵の攻撃に気が付かない筈が無い!」

「確かに、ドーヴェンフは感知能力が高い。だが、それは鼻によるものだ。鼻は、暑さや寒さなどの気温によって鈍るんだよ。この部屋、少し寒いとは思わないか?」

「な......!」


 シュラに問われ、男は気付く。部屋一体の温度が、下がっているのだ。


「少し肌寒い程度だが、これなら足元を凍らせていても気付けないだろう。」

「クソッ、こうなったら......!」


 男はそう言い、服から一つの紅の宝石を取り出す。


「あれはまさか......!」

「フフフ......フハハハハハ! これを使えば、お前たちは消し炭になるぞ! 今引き返せば、これは使わないでやる。さあ、どうする!?」


 男は宝石を見せびらかし、ハヤトたちに退けと言う。だが、ハヤトたちは退く気などなかった。ハヤトたちは、宝石を解析していた。


「シュラ、あれは魔法道具か?」

「ああ多分、というより魔法道具で間違いないだろう」


 魔法道具、魔法や特殊な力が封じられた道具で、魔力を注いだり、魔法の名を叫ぶことにより発動出来る。


 基本前者は魔法というより、魔力を注ぐことで利用出来る、便利な道具という印象が強い。ハヤトが持っている、魔法水筒マジックボトル魔法道具鞄マジックバッグも魔法道具だ。


 後者は即席魔法インスタントマジックと呼ばれ、魔法名を叫べばその名の魔法を発動出来る。魔力も詠唱も必要とせず、直ぐに発動出来ることがメリットだが、その分デメリットも大きく、使用後は道具が崩壊するし、魔法を込める道具の質により込められる魔法の質も上下する。またどんなに上質な道具でも、中級魔法までしか込められない。上級魔法以上は、幻の素材を使用した道具でないと込められず、道具自体が崩壊してしまう。


「消し炭......か。即席魔法インスタントマジックに、そこまで強力な魔法が込められている筈はないが。......ともかく、あれを奪うぞ。ヴェルクロムなら解析出来るだろう?」

「ああ。無機物なら、基本何でも鑑定出来るぞ」

「出来れば奪いたいが、そうもいかないか......」

「どうした! 速く退け!」

「ったく、煩いな」


 ハヤトたちの会話を遮り、男は退くことを促してくる。ハヤトたちはそれを無視し、男目掛けて走る。


「行くぞっ!」

「く、クソッ! プロミネンス!!」

「!?」


 男が紅の宝石をハヤトたちに目掛けて投げ、魔法名を叫ぶ。それは、ハヤトたちの目の前で爆発......しなかった。宝石は爆発する前に、ハヤトによって斬られていたのだ。ハヤトは男が宝石を投げる前に真眼を使用し、魔法名を叫ぶ瞬間一閃で斬ったのだ。


「なっ!」

「ふう、危なかった......のか?」

「何故だ、何故発動しない!」

「なるほど、即席魔法インスタントマジックの弱点を突いたのか」

「え......そんなの在るのか?」

「知らなかったのか。......即席魔法インスタントマジックは、道具を基点として魔法を発動する。魔法を発動するまで、一瞬のタイムラグが在る。その間に道具を破壊されれば、魔法は発動せず消える。つまりは、発動するまでの間に道具を破壊されれば、魔法は発動しない」

「あぁ~なるほどな。すげぇな、ハヤト」

「いや、弱点あるの初めて知ったんだけど」

「まあ、ともかく。これで、万策尽きたんじゃないか?」

「クッ......この獣人がどうなってもいいのか!?」


 男は追い詰められ、懐からナイフを取りだし、ラミアの首もとに突き付ける。


「ハアハア、そこを退け! 退かないと本当にこの獣人を殺すぞ!」

「屑が......!」

「人質を捕るなんて、最低な野郎だな」

「......おい、お前」

「な、何だ......!?」

「ラミアに......俺の仲間に手を出してみろ。絶対に許さないぞ......!」

「ヒイッ......!」


 ハヤトの怒気。それは殺気と何ら遜色なく、その怒気を孕んだ眼差しは、一直線に男へと向けられていた。その怒気を放っているハヤトは、とても手負いとは思えなかった。


「ラミアから、手を離せ」

「ひ......ヒイィッ!」


 男は、徐々に近付いてくるハヤトの怒気に気圧され、一目散に逃げていく。その後、ラミアの手を縛っていた"魔封じの手錠"なるものを破壊し、工藤たちが守っているミーティアに戻った。


「やっと、助けられたんですね」

「ああ。それより、ここに男が来なかったか?」

「ああ、来ましたよ。何か慌てて、馬車を出して行きましたけど......」

「そうか......そろそろ戻ろう。もう陽も出てきたしな」

「今は、陽刻の七時。半日も戦っていたということになるな......」

「そうなのか、結構疲れたな。今日は戻って、もう寝よう」

「そうだな」

「工藤たちはどうするんだ?」

「帝城に部屋を借りているので、そちらで休みます。一日休んだら、【アレキウス王国】に戻ろうと思います。アイリさんに、ハヤト君のことを伝えないといけませんし」

「......出来れば、伝えないでもらえるか?」

「! 何故ですか?」

「もし俺が生きていると知って、アイリが何もしない筈はないと思う。もしそれで無理をされたりしたら、俺も困る。必ず王国に戻ると約束する。何時かは断言出来ないけど、必ず戻って自分の口から言う。だから、俺が王国に戻るまで、俺のことは秘密にしといてくれ」

「......判りました。ただ、アイリさんのためにも早く戻って来てください」

「判ってる。工藤は物分かりが良くて助かる。それじゃ、ミーティアで帝都に戻ろう」


 そう言い皆ミーティアに乗り込み、ミーティアは帝都に向けて、出発した。

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