第十話 旅立ちの準備
「ふわ~あ、眠いな......」
「朝から眠いなんて連呼すんなよな、ハヤト。こっちまで眠くなる」
「しょうがないだろ、ヴェル。眠いんだから」
「二人とも、準備は出来ているんですか? 今日出発なんですよ」
「判ってるって。大丈夫だから、ラミアちゃん」
「はあ、ちゃんとしてくださいよ、ヴェルクロムさん」
「ハハハ......」
ラミア誘拐もとい人身売買事件が終結してから丸二日、この事件は帝国軍が介入して一通り終結した。元から帝国軍が彼等を拘束しようとしてたので、今が好機と思ったのだろう。奴隷となっていた者たちは、一旦帝国軍が預かることとなった。その他、殆どの構成員たちも捕まり、組織は壊滅状態となった。プロミネンスという上級魔法が込められていた魔法道具の入手経路は不明のままで、他人に知られれば危険ということで闇に葬られたと、工藤たちに聞いた。その工藤たちは、昨日王国に向けて帝国を出発した。斯く言う俺たちも、明日帝国を出発するための準備をしていた。
「取り合えず、一通り準備も終わったし昼食にしよう」
「そうだな」
「そうですね」
今は陽刻の十二時、ちょうど昼食時だ。そこで、四人は次の目的地を相談する。
「なあ、シュラ」
「何だ?」
「この前言ってた、森人族ってどんな種族なんだ?」
「俺も詳しくは知らないが、亜人族の中でも特別魔力が高く、精霊との相性が良いらしい。加えて多種族との交流も絶っているせいで正確な容姿も判らない。それに森人族の森と呼ばれている森は、別名神秘の森と呼ばれており、原因は不明だが普通では手に入らない、良質の素材が手に入るらしい」
「へぇ~凄いな。でも何で良質の素材が手に入るんだ?」
「それなら、私知っていますよ」
「そうなのか、知りたいな」
「えーっとですね。森人族の森、というよりは亜人族が住んでいる場所には、膨大な魔力を内包した霊脈が在るんです。その霊脈から魔力、もとい魔力の根本的なエネルギーである霊力が溢れて、自然がそれを吸収するんです。すると、霊力を含んだ木々や鉱石は、良質な素材となるんです」
「なるほど......」
「あ、因みにですね。そういう場所では、魔力の回復が速いらしいですよ」
「そうなのか......よし、決めた。次の目的地は、森人族が住む、神秘の森だ!」
「「「............」」」
ハヤトの言葉に、三人は絶句する。
「ハヤト、この前言っただろう。森人族の森に足を踏み入れれば、即刻退去を強制されると。なのに行くのか?」
「ああ。それに獣人界はここから南東なんだろ?」
「あ、ああそうだが......何故知ってる?」
「王国に居たときに獣人界は南東、魔人界は南西だって聞いてたから。それに、獣人界へ行くには森人族の森を通らなければいけないんだろ。目的地が近いか遠いかの差しかないだろ」
「ハア~......判った。次の目的地は、森人族の森だ。それで良いな」
「おう、いいぜ」
「異論は在りません」
「じゃあ、そういうことで。この後は、明日出発するための準備を各自行う、ってことでいいんだよな?」
「ああ。取り合えず、自分に必要なもの揃える。例えばラミアなら、武器が必要になるんじゃないか?」
「確かにそうですね。私の職業は大戦斧使いなので、斧が欲しいですね」
「なら試作品の斧が在るから後で改良して、出来次第渡してやる」
「判りました。じゃあ後は、調理器具ですね」
「それ必要か?」
「当たり前ですよ、ハヤトさん。ちゃんと調理して、バランスよく頂くのです」
「はあ、まあいいか」
その後四人は昼食を食べ終え、ソファで休んだり、工房に籠ったりと自分の用を果たす。ハヤトとラミアは、縁側で休んでいた。
「う~ん......良い天気ですね、ハヤトさん」
「ああ......」
「どうしたんですか?」
「ちょっと......な」
「?」
考え事をしているとラミアから声を掛けられたが、素っ気ない返事となってしまう。そこで、ハヤトは考えることを止め、新しく覚えた技でも練習しようと思った。
「ま、判らないことを考えていても仕方がないか。剣の稽古でもしよう」
「稽古をするんですか?」
「ああ。判らないことが在るときは、体を動かす。って兄さんの受け売りなんだけど......」
「へぇ~、お兄さんが居るんですか」
「まあな。一歳上なんだけど、調子の良いやつだったな。......まあ、それは置いといて。ラミアも戦えるんだろ、なら模擬戦でもやるか?」
「いいですね、やりましょう!」
「......っ! ......」
意気揚々と応えるラミアに、背筋が凍る気がした。それから帝国の郊外、熱帯雨林の近くに行き模擬戦をする。
「いきますよ、ハヤトさん!」
「おうっ!」
ラミアは、一直線に突っ込んで来る。ハヤトは、袈裟斬りで応対する。ラミアは、その一撃を一歩後退することで避ける。ラミアは攻撃を避けたあと、拳に魔力を集中させて右ストレートを繰り出す。風を切り、放たれるその一撃をハヤトは紙一重で躱し、逆袈裟斬りを放つ。服にかすったが、直撃はしなかった。
「まだまだ、行きますよ。ハヤトさん!」
「こっちも行くぞ!」
それから二時間。時間も忘れて戦闘をしていた二人は、少し休んでからヴェルクロムの屋敷に戻ることにした。そこで、ハヤトは一つ疑問を持ったので、ラミアに質問をしてみた。
「なあ、ラミア」
「なんでしょうか、ハヤトさん?」
「獣人って、みんなそんなに素早いのか?」
「えーっとですね。種族によっても違うのですが、私たち兎人族は特に、危険察知と瞬発力がステータス的に高いんです。なので、自分への攻撃や害意を察知できるんです。そして、高い瞬発力で躱す。それが私たち兎人族の、戦い方です」
「ふ~ん......じゃあ何で、ジャンクたちに捕まったんだ?」
「うっ! ......あのときはお腹が空いていたんです。そして、目の前に美味しそうな果物が所々に置いてあったので、取って食べていたら檻に居て......気付けばあの会場に居たんです......」
「............」
「そ、そんな目で見ないで下さい! 自分でも判っているんです、馬鹿だったって! ......でも仕方がないかじゃないですか、人は空腹には勝てません......」
捕まった原因を話すとジト目を向けられたので、必死に弁解していると何処か虚しくなっていったラミアだった。数分休憩してからヴェルクロムの屋敷に戻った。屋敷に向かっている最中、幾度か大型の魔物と戦った。前通ったときは、ここまで大型の魔物が多かった気がしない。それどころか、全体的な魔物の数だってここまで多くなかった気がする。そして屋敷の帰路の武器市場で......
「うわっ!」
「おっと......大丈夫か? ......!?」
......事件に巻き込まれてしまった。
二時間前、ハヤトとラミアがヴェルクロムの屋敷を出て数分。この頃のヴェルクロムは、ラミア用の大戦斧を作っており、工房に籠っている。シュラはというとミーティアに皆の荷物を入れ終わり、一休憩していた。
「......つまらないな、話相手が居ないと。お前もそう思うだろ......」
「ニャア~」
話相手が居ず、猫に同意を求めていた。そんな自分はどうかしているとも思っていた、シュラだった。そして小一時間程の休憩を終え、買い出しに行こうと思い屋敷を出た。
「さてと。当分の食糧を買わなければな。金は有り余っているし、大丈夫だろう」
それから一時間、買い物をして屋敷に戻った。帰りの道中、武器市場で事件に遭遇した。
「工房に籠っていると、気が滅入るな。完成間近だし、少し息抜きするか」
ヴェルクロムはほぼ完成した斧を置いといて、息抜きのために外に出掛けることにした。
「なんか、面白いものでも売ってないかな~」
武器市場で興味のそそるものを探していると、面白い武器を見つけた。斧だ。ただ普通の斧と違い、刃がついている場所の反対側に、鎌に酷似した刃がついていたのだ。
「へぇ~、こんなのも在るのか。面白いな」
一通り武器市場を見て回った後、北のドムノ鉱山に行った。ドムノ鉱山は他の鉱山とは違って少し異常で、魔物が巣食ってはいないが、その分坑道が迷路のように入り組んでいる。そして最も異常なのは、入る旅に鉱石の種類が変わることだ。理由は判らないが、そう言う構造になっている。また、たまに不思議な階段が現れるらしい。
「さてと。鉱石でも見てくか......」
ドムノ鉱山には鉱石を販売している場所が在り、そこで鉱石を買うこともできる。たまに、希少な鉱石も売っているときがあるため、時々訪れている。そこでヴェルクロムは、不思議な鉱石を見つけた。
「なあ、おっさん。この光ってる鉱石はなんだ?」
「光ってる? ああ、これか。この鉱石はな、拾ったんだ」
「拾った?」
「ああ、坑道に落ちてんだよ。綺麗だし、商品になるだろうと思ってな。まあ苦労してないし、俺とお前の仲だ。千シリンで売ってやるよ」
「そうか。じゃあ、甘えさせてもらう」
「毎度あり」
不思議な鉱石を買い、ヴェルクロムは何処と無く満足気だった。そして、事件の遭遇した。
あの黒い服の人たちに見付かったら、また何処かへ連れていかれてしまう。もう嫌だ。パパとママ別れるのは......
その思いを胸に秘め、小さな少年が狭い裏道を全力で走る。追い付かれないために。
「待て、ガキぃ!」
「うわあっ!」
「やっと捕まえたぞ、くそガキぃ。大人を困らせるんじゃねぇよ......!」
「嫌......だ......助けてぇ!」
「助けを呼んでも無駄だ。ここは、表通りまで声が通りにくくてな。観念しろ、くそガキ。......イテッ!」
少年は、自分の首根っこを掴んでいた大人の腕に対し、放電したのだ。そして、たまたま見つけた表通りに繋がる道から裏道を出た。そこで、黒いローブを来た少年とウサ耳を持った少女と出会った。だが、勢いが付きすぎてぶつかってしまった。
「うわっ!」
「おっと......大丈夫か? ......!?」
「あ、あの......助けて下さい!」
「い、いいけど、まさかお前......森人族か......!?」
細長い耳に、綺麗な翡翠の髪と翡翠の瞳。まさかここで、森人族と会うなんて思ってもいなかった。ただ、助けてとはどういう意味なのだろうか?
「待て......くそガキぃ。......! てめぇは!?」
「! お前は、ジャンクの部下だった奴じゃないか」
「な、何でてめぇがここに居る!?」
「お前、まだこんなことをやってたのか。今すぐ、目の前から消えろ......!」
「ヒィッ!」
森人族の少年を追ってきたジャンクの部下だった者は、ハヤトの睨みで逃げていった。そこに......
「ハヤト」
「ん、シュラとヴェルか。なんだ、お前らも居たのか」
「あ、ああ。それより、あいつは確かジャンクという奴の、部下だっただろう。何故今頃......?」
「それよりハヤト、そのガキは......?」
「ああ、忘れてた。というか、ここだと目立つ。場所を変えよう」
そう言い、場所をヴェルクロムの屋敷に移す。
「俺の家は、便利な宿扱いか......!」
「はは、悪い悪い。なあ、取り合えず自己紹介してくれるか?」
「は、はい。僕の名前は、エルフィンド・フォン・ハイアールヴ。森人族の族長、アールヴェント・フォン・ハイアールヴの孫に当たります」
「「「「!?」」」」
森人族の少年の自己紹介で四人は固まった。そして、すぐさま四人で集まり話し合いをする。
「な、なあシュラ。亜人族って国を持たないから、実質的に族長がトップなんだろ。ならエルフィンドってまさか......」
「ああ。多分、というか結構偉いんじゃないか」
「さてと......どうするかな。俺たちの目的地が森人族の森だから、そこまで送っていくのは苦じゃ無いと思うけど......」
「追われていたのを見ると、送っていく方が安全じゃないか?」
「賛成だ。"ミーティア"も、まだまだ定員に空きが在るしな」
「私も賛成です!」
四人で話し合った結果、エルフィンドを送っていくということになった。それを、エルフィンドに伝える。
「エルフィンド、もしよかったら俺らが送っていってやるよ」
「い、いいんですか!? 僕なんかが送っていってもらって......」
「ああ、構わないよ。俺らも森人族の森を、目指していたからな。何の苦でも無い」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらってもいいですか......?」
「おうっ! 取り合えず、明日出発だから今日はここで休んでいってくれ」
「ハイッ!」
エルフィンドは嬉しさを全面に出し、ハヤトの言葉に返事をする。月刻の二時、日本だと草木も眠る丑三つ時などと言われている。その頃、ハヤトは屋敷の屋根に座りながら、ジャンクとの戦闘中に頭に過った言葉を思い出していた。
(ジャンクと戦っていたとき、頭に過った兄さんの言葉。思い出したくないからと、忘れようとしていた言葉。兄さん......!?)
その時、屋根に誰かが登ってきた。正体はエルフィンドだった。
「......どうした、エルフィンド?」
「い、いえ、精霊たちが屋根の上に人が居ると言っていたので、見に来たんです」
「以外と活発なんだな」
「そ、そうですか?」
エルフィンドと他愛も無い会話を終えた後、エルフィンドはハヤトの真似をして屋根の上に座った。
「綺麗ですね~」
「ああ、今日は空に陰りも無いから星もよく見える」
「確かにそうですね。雲が無いから、とてもよく見えます」
「ああ。......そういえばさ、何であんな奴等に捕まってたんだ?」
「え~っとですね、僕の故郷である森人族の森が、正体不明の毒に犯されているんです」
「なっ、そんなこと在るのか!?」
「はい、今までこんなことはなかったらしいんですけど、最近になって突如現れたんです」
森人族の森は、決して異常気象に見舞われない。理由は精霊が発生させる結界が原因らしく、半径一キロ近くもある森を守っている。また、結界は森人族以外の種族の魔法を制限するらしく、結界内だとまともに魔法を使うことは出来ない。その森が毒に犯されるなど、歴史上一度もないだろう。
「その毒が、種族の皆を苦しめているんです。だから、薬草を採ろうと集落を出たら、森自体から出ちゃってたみたいで」
「なるほどな。じゃあ、一刻も早く戻らないとな」
「はい......!」
そのあと、少し談笑してから部屋に戻り眠った。




