第八話 打倒競売会
「此方は順調に進んでるよ、ハヤト君」
「わかった。そのまま合図があるまで、そこで待機だ」
「わかったよ」
今会話をしているのは、工藤蓮と神崎ハヤトだ。今この二人は、【ラジア帝国】にある、とあるホテルの別々の場所に居る。ハヤトは、コンサートホールのような場所に居り、工藤は自身の能力"気配遮断"を使用し、暗い大量の箱などが在る部屋に居る、と言うより潜んでいる。何故、二人がこんなところに居り、会話できているのかと言うと、ハヤトがある作戦を提案したところまで、時間は遡る。
「俺に考えが在る。聞いてくれ」
「何かいい案でも在るんですか、ハヤト君?」
「ああ、と言っても個々の力頼みだし、覚悟が要る」
「大丈夫だろ。此処に居ると言うことは、覚悟があるということだしな」
「じゃあ話す。先ずは、俺らを三つの班に分ける。一つ目は、会場に入り騒動を起こす、強襲係。これは俺とシュラ、篠崎の三人でいい。最も安定した戦力だからな」
「あれ~、でも僕達ってレベルしか言っていないのに、何で安定しているってわかるの?」
「? ああ、言っていなかったな。俺は他人のステータスを盗み見ることが出来るんだよ」
「「「「なっ!!」」」」
「そんなに驚くことか?」
皆の反応に驚くことも無く、逆に質問する。その質問にシュラが答える。
「それはそうだろう。ステータスは普通、自分以外は見れないんだぞ。それを見れるなんて、反則もいいところだ」
「やっぱり、そうだよな。まあ、そんなことはどうでもいいだろ、話を戻すぞ。次は潜入解放係だ」
「ハヤト君、潜入解放係って何をするんですか?」
「この係は誰にも気づかれずに潜入し、オークションに出品されるであろう人たちを解放する係だ。この係は、工藤と御門にやってもらう。なるべく戦闘は避けて、人たちを解放してくれ」
「わかりました」
「了解したわ」
「次は、外で待っている待機班兼脱出路確保班だ。まあこの班のメンバーは、残っているヴェルと加々美だ。一応この班は、騒ぎが起きるまで何もしなくていい。只、騒ぎが起きたら、逃げ道を作っておいてくれ」
「了解だ」
「わ、わかりました!」
「じゃあ作戦開始......でいいよな?」
「ああ」
「んじゃあ改めて、作戦開始!」
ハヤトの言葉と共に、皆が動き出す。
強襲係のハヤトとシュラと篠崎は、ハヤトの一閃で、裏オークションの参加者をおそ......参加者に協力してもらい、招待状を手に入れた。そしてオークション会場まで行き、何食わぬ顔で席に着いて始まりを待つ。
一方潜入解放係は、工藤の"気配遮断"で幾つかの部屋を回り、大量に箱が置かれている部屋を見つける。そこで、工藤が人間の気配を感知したので、予め貸してもらっていた『魔力念話石』で、ハヤトに連絡を取った。そこで待機するよう言われたので、そのまま二人は待機した。
待機班兼脱出路確保班は、何もすることが無いのでそのまま待機していた。
「な~にも、やることがないなぁ~」
「そうですね。何の連絡も、在りませんから」
「はあ、さてと......例の物を作るか」
「何を作るんですか?」
「はっ、まだ教えられないな」
ヴェルクロムは、ポケットから薄汚れた石を取り出すと共に、その石を磨く。数回磨くだけで、とても綺麗になった。石は白いろで、正八面体の形をしている。そこに、ヴェルクロムは魔力を注ぐ。すると、石が白いろに発光する。
「す、すごい......!」
「そうだろう。これは発光石と呼ばれる種類の石で、その中でも特に光る光量石と呼ばれる石だ。何も見えない洞窟とかだと、結構役立つぞ」
「へぇ~凄いですね」
「あ、ああ」
ヴェルクロムは、自分で自慢しておきながら自分で使い道が無いことに気づいていた。なので、加々美の純粋な視線が少し痛かった。
この頃のハヤトたちはまだ始まらないオークションについて、会場を出て適当な部屋に入り話し合っていた。
「さてと......どうしよう、一向に始まらないんだけど」
ハヤトが少し焦りながら言うと、シュラが冷静に応答する。
「始まるまで待て......と言いたいところだが、そんな時間は無い。だからこそ、もう打ってある手を使用した方が良い」
「つまりは、もう工藤たちに連絡を取って作戦を開始した方が良い。と言うことか?」
「ああ」
「......しょうがないか。オークションが始まる瞬間に、作戦を開始したかったが。工藤、聞こえるか?」
「はい、聞こえてますよ」
ハヤトが腕に付けているブレスレットに喋りかけると、虚空から声が聞こえてきた。その声の主は勿論工藤だ。
これは、魔力通信石をブレスレットに嵌めた物で、ヴェルクロムに魔力通信石を渡して作ってもらったのだ。そのままでも使えるが、手に持ったまま通信するのはいざというときに危険だと思ったので、ハヤトはヴェルクロムに作ってもらった。それを工藤とヴェルクロムに渡して、通信出来るようにした。
「これから会場を強襲するから、騒ぎが起こったら行動を開始してくれ」
「了解しました。気をつけてください、ハヤト君」
「奴隷たちの解放、宜しく頼むぞ」
「わかっています」
会話を終え、ハヤトとシュラと篠崎は戦闘の準備をする。工藤と御門は、スキルを解除して奴隷たちの入っている箱開ける。
「ひっ!」
「大丈夫ですよ、もう安心してください」
怯える子供たちを、工藤が微笑み宥める。その笑みは、子供たちの心を溶かしていっている。
その一方、ハヤトたちは会場を襲い黒服の男たちと戦っていた。
「くそっ、攻めきれないぞ! どうするんだ、ハヤト!」
「わかるか! 取り合えず、騒ぎさえ起こせればそれで良い!」
ハヤトは今、連接剣を振るい敵を近付けていない。近づいてきた敵は、掌打を打った瞬間に魔力を放出する、放出掌打で対応している。ついさっき思い付いた技だ。
掌打は打ったら内に響く技だ。その技を使用して、打った瞬間に掌から魔力を放出すれば威力倍増だ。
(ま、この技はジャンクから教えてもらったようなものだしな。あいつの"一拳五撃"に対抗するには、これしかないだろ。それに、"絶対破砕"なんて不気味過ぎる)
因みにシュラは敵を凍らせたり、床を熱して歩かせないようにしている。近接戦闘系は一点に集めて床の高熱化で動きを封じ、遠距離戦闘系は凍らせている。篠崎も、敵を薙ぎ倒していっている
「凄いな」
「余所見をしていていいのか?」
「! ジャンク......!」
「久しいな、少年。もう我々には関わるな、と言っておいた筈だが」
「そう言われて、すごすごと引き下がるかっての!」
「そうか、なら死ね!」
ジャンクは、その言葉と共に突進してくる。流石は拳闘士、動きがとても速い。しかもそれだけじゃない。一撃一撃がとても思いのだ。魔力を何重にも纏わせて、やっと防げるレベルだ。尋常じゃない。
「流石はレベル75、滅茶苦茶強いな」
「ならば、抵抗せず死ね。それが一番楽だぞ」
「そう言う訳にもいかない。父親の言葉に、『約束は破らないこと』と在るんでね。ラミアとの約束は守る。何が在っても。それに、今ここでお前たちのやってることを見過ごして死ねる訳無いだろ」
「ふっ、哀れな奴だな。そこまで約束を守りたいなら、先に逝ってろ。あとで、あの獣人もそちら側に送ってやる。だから今は死んでいろ」
「くそっ!」
青白い魔力を纏い輝く拳が、床に降り下ろされた瞬間に床が崩落する。これが"絶対破砕"なのだろう。これはヤバイ。ハヤトたちの居る階層とその上層全てが崩壊し、会場が倒壊する。ハヤトはその中で、突如何かが頭に降ってきてぶつかった感覚がしたあと、記憶が途切れた。
ハヤトが目を覚ますと、そこには自分たちの居た階層より上層が無くなり、綺麗な星空が広がっている外だった。一応、会場はまだ完全に倒壊している訳じゃない。だが少し暴れれば、直ぐ壊れそうな程に脆そうだ。そこで、周りを見渡してみると、周りには見知った顔ぶれがあった。
「シュ......ラ......ガハッ!」
そこで気づく、自分の置かれた現状に。一つの鉄骨が、腹に刺さっていたのだ。周りは血の海、誰の血かは言うまでもないだろう。血の暖かさに、身体が包まれている。何処か心地いい。もうなにも考えられなくなる。
このまま終わっていいのか?
聞いたことの在る声だ。この前、《グランアーサー》を襲撃した奴等に殺されかけたときに聞こえた声だ。まるで、俺を振るい立たせるが如く。これは、誰なんだろう。そんなことを考えていると、また声が聞こえてくる。
お前は何故、あのとき力を欲した?
強くなりたかったからじゃないのか?
強くなりたいさ。でももう無理だ。この状態じゃ、動くのは無理だ。
ふっ、言うと思ったさ。目が覚めたら、ポーションの準備をしとけ。
あとは、俺が何とかしてやる。自分の力で勝てよ。ハヤト。
「っ! ポー......ション......あった」
目が覚めたあと、ポーションを魔法道具鞄から取りだし、目の前に持ってくる。香水が入っているようなビンに入っている、緑色の液体。それは、お世辞にも美味しいとは言えないのだが、飲めばかすり傷から刺し傷、重度の焼け跡まで直ぐに治してしまう。
これはかつての『聖女』が作った物とされており、『聖女』が祈りを込めたら水色の液体となったと伝えられている。これがポーションの起源、ハイポーションとされている。まぁ、今はどうでもいいのだが。
よし、それでいい。
その言葉が聞こえたと思ったら、意識が途切れる。
「グハッ! これは......大分効くなぁ"一閃"!」
一閃とは、自身を中心とした半径10メートル以内への超高速移動、もしくは転移させる技だ。転移とは、別の場所に空間の隔たり無く移動させる技だ。故に、鉄骨だけを別の場所に移動させることも出来る。何かを別の場所に転移させる、これこそ一閃の真価だ。無論、生物だろうと非生物だろうと制約などが発生することは無い。
「ま、あの飄々とした野郎から教えてもらったことだが。ング......ング......はぁこれでいいだろう。あとは頑張れよ、俺」
ハヤト? は手に持っていたポーションを飲み干し、傷を癒す。
意識が回復すると、目の前に立っている男を睨む。
「ジャンク......!」
「少年。なんだそのアザは?」
「............」
「そうか、まあいい。......行くぞ!」
ジャンクは突進して来る、ものすごい速さでだ。ハヤトは、突進してくるジャンクを一瞥したあと、黒い魔力を発生させる。
「っ! 何だその魔力は!?」
「消えろ、ジャンク!」
「くっ!」
「黙れぇ!」
ジャンクとハヤトは、一進一退の攻防を繰り返していた。その攻防を、会場の片隅で傍観している者が居た。シュラだ。
会場が崩壊したとき宙に氷の道を作り、その道を走りながら篠崎や工藤、御門や奴隷だった少年たちを捕まえ一点に集め、少年たちを氷のドームで包み、ヴェルクロムたちの許へと届けていた。無事に届けたあと、自分も傷を負っていたので会場の片隅で休んでいたら、いつの間にか眠っていた。目を覚ますと、そこには黒服の大男と戦っているハヤトが居たので、傷を癒す名目も兼ねて傍観していたのだ。
「はあっ!」
「くそっ! 何なんだ、この黒い魔力の靄は!」
「死ね!」
黒い魔力から生み出される靄は、今や自分たちの居る会場の六割方を覆っている。ちょっと触れるだけで痺れるのだから、魔力で身体を覆わなければいけない。
だが、靄に触れれば覆っている魔力を吸収される。それに加えて、ハヤトの周りは大量の靄が濃い霧となって近づけない。
離れすぎれば、壁に追い込まれてしまう。だからと言って近づくのは無謀過ぎる。そんな戦いを見ていたシュラは、在ることを思い出す。
《グランアーサー》でハヤトの身に起きた異常は、アメ曰く『反転』。ステータスアップの代わりに、自我を失うというものらしい。前回は自我を失っていたが、今回は明らかに自我が在る。でも何処かおかしい。
"おい、しっかりしろハヤト! 闇に呑まれるな!"
「消えろ、滅びろ、死ねぇ!」
"ハヤト、戻ってこい!"
アメがハヤトに語りかけるが、聞く耳持たずだ。遂に、ハヤトの魔力が会場全体に行き渡る。それを見たシュラは、まだ地上に届けていない工藤たちと共に、地上に降りる。
ジャンクも逸早く危険を察知したので、会場から逃げていた。
その頃の加々美とヴェルクロムはというと......
「ったく、何なんだよ! いきなり会場が崩れたと思ったら、上から氷の球体が降ってくるし。本当にもう......嫌だ!」
「ヴェ、ヴェルクロムさん......! また、空から氷が......!」
「またかよ!」
「またで悪かったな」
空からから降ってきた氷のドームは地面に着いた瞬間に砕け散り、中からシュラや工藤たちが出てくる。
「なあ、シュラ」
「無視か」
「どうでも良いだろ。それより何が起きたんだ? 外で隠れてたらいきなり会場が崩壊するし、お前は氷の球体を飛ばしてくるし。本当に何が起きた?」
「敵が会場を壊して、ハヤトが暴走しただけだ」
「十分凄いことを、何故平然と言っている。まあ取り合えず、目標は達成......あれ、そう言えばラミアは?」
最も重要な目的を忘れていたことに、シュラは気づく。
「完全に忘れてた、と言うより見つからなかったぞ。オークション会場では見てないし、加えて倒壊時には気配すら感じなかった。ここには居ないんじゃないか」
「それはありえない筈だ。だってここに居ないなら、何処に行ったって言うんだよ?」
「俺が分かるわけ無いだろ」
「それもそうだな」
「それよりもハヤトだ。さっきから何も音がしない。中がどうなっているのか気になるが、あの黒い靄のせいで中に入れない。どうしたものか......」
シュラは、未だに会場の中に居るハヤトを心配する。一方そのハヤトはというと、何かに苦しんでいた。
"大丈夫か、ハヤト?"
「アメ......か、俺は......」
"『反転』していたんだ"
「『反転』?」
"ああ。今は詳しい説明は省くが、暴走していたのは確かだ。多分、お前の中の"何か"が原因だろう"
「そうか......」
"動けるか?"
「ああ」
"なら剣を持て。奴が来るぞ"
アメが言った通り、目の前にはジャンクが立っていた。アメが宿っている剣を取り眼前に構える。
正直、勝てないだろう。ポーションで回復したとは言え、完全では無い。多少痛みも在るし、傷も完全に閉じたわけではないから、動けばまた傷が開くかもしれない。でも、今しかない。此処で諦めれば、全てが水の泡だ。だから戦う。アメの力を借りることになるが、今は仕方ないだろう。
そう思っていると、ジャンクが言葉を発した。
「......普通に戻っている......!?」
「ジャンク......!」
「まあいい。......掛かってこい、少年。決着をつけよう」
「ああ。行くぞ!」
そう言いハヤトは駆け出した。ジャンクを倒すために。
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