バーチャル《ユグドラシル》
2011年02月08日の作品です。
「待ちやがれ!」
俺は逃げ惑うコボルト共を追いかけ回し、一匹ずつ殺していった。
「くそっ! 時間かけさせやがって! レベルアップまで、後720も必要じゃねぇか! コボルト一匹が5だろ。この辺りじゃ、後150回位殺らねぇといけねぇか。ふう!! 嫌になってきたぜ!」
俺は気が遠くなりそうになりながら、辺りを見回しモンスターの姿を確認すると、駆け込んで行った。
こんな事になったのも全てあのオッサンが悪い。二週間前、俺は下校途中に見慣れない店を発見した。店の中に入ってみると、人気のないゲーセンだった。そこで一際デカいゲーム機を見つけた。何のゲームだろうと眺めていると、あのオッサンが現れた。 オッサンは俺が聞いてもいないのに、ゲーム機の説明を始めた。そのオッサンが言うにはこうだ。
「コレは、今じゃ珍しくもないバーチャルリアリティの体感ゲームマシーンだ。コイツの中に入り、名前を入力するだけで異世界へトリップする。ただ気を付けないと……」
ここまで聞いて、俺は『胡散臭ぇ!』と思いながらゲームをプレイしてみる事にした。その時、オッサンが何か喚いていたみたいだが、覚えていない。
俺はマシーンに入ると、名前入力画面に本名『芹澤 一馬』と入力した。その途端、辺りが真っ白い光に包まれたと思うと、俺はこの世界に飛ばされていた。
初めは楽しかった。近くの町に行き、手元にあった《ユグドラシル》の通貨を元手に武器屋や防具屋を回り、装備した後、ギルドって所で剣士として登録して、レベルアップカウンターという昔懐かしいポケベルみたいな装置を受け取り、町の外でモンスター狩りに明け暮れた。
暫くして、レベルも結構上がりサークもそれなりに溜まったので、セーブでもして家に帰ろうとした時だった。ホテルに行っても、ギルドに行っても、どこを探してもセーブポイントが無い事に気が付いた。俺はどうしていいか分からず、町の中をぶらぶらしていた。そんな時に出会った男がいた。そいつも冒険者風の身なりだった為、セーブポイントについて聞いてみた。そしたら、
「お前。説明も聞かずに来たのか?」
と言われ、聞いた事を伝えると
「そりゃあ、お前が悪い。お前、ここが何処だか知っているのか?」
と言われた。続けて
「セーブポイントなんてある訳ないだろう。ここは《ユグドラシル》という独立した世界だ。ここには、ここの時間が流れている。お前は、マシーンの能力を使って《ユグドラシル》に異世界召還されたんだ。もし、元の世界に帰りたいならば、《ユグドラシル》の魔王を倒す事だな。お前が聞いていなかった説明。その中に、今俺が言った説明が入っていた筈だ。あ、後付け加えだ。もし、モンスターに殺されたら、元の世界に戻れないどころか、《ユグドラシル》の土に変わっちまうぜ!! まあ、死なないようにせいぜい頑張んな! じゃあな!」
と去って行った。俺は、途方に暮れた。俺が真面目に説明を聞かなかったから……。そう思ったが、俺は悪くないと思う事にした。《ユグドラシル》に異世界召還されると分かっていて、マシーンに入る俺を止めなかったあのオッサンが、悪いと思う事に決めたんだ。
そして俺は、今レベル6。町周辺のモンスターでは、既に相手にならないが、もし少し離れた所に行って死亡でもしようものなら、もう俺は日本に帰れない。だから、今雑魚相手にレベルアップをしているのだ。
『待ってろよ! 《ナイアルラトホテップ》! そして、オッサン! すぐにぶっ飛ばしに行ってやるからな!!』
「おらおらぁ〜!! 待ぁちやがれぇ! 俺の経験値の糧となりやがれ!!」
俺の冒険は、まだ始まったばかり……。




