二つ目の真実
身体を拭いて家の中に上がる前にあの言葉
「…ただいま」
小さく呟いただけのはずなのに静かな家には十分すぎるほど大きく聞こえた。
虚しく響いた言葉、返ってくる声はもう…居ない。
濡れた服を着替えてリビングに向かうと、白猫がソファの上で座って寝ているのが目に入った。
その姿が一瞬あいつとダブる。
あいつは時々あのソファに座って窓の方を向いて寝ていた。
そして時にはただひたすら眺めていた。
何気なく白猫の隣に座って見ると見えるのは窓の外の木だ。
…なにもないじゃないか、あいつはずっと木を眺めていたのか?
そう考えているとソファの軋みで起きた白猫は、小さく欠伸してしなやかにソファから降りた。
白猫が座っていたソファの左側に移動して見ると、視界が変わる。
右側からは木しか見えないが、左側に座って見ると道が見えるのだ。何と無く見たことがある風景な気がしてよく見て見る。
…やはり見覚えがある、この風景はなんだっただろうか。記憶を呼び起こそうとするが思い出しそうなのに思い出せない…
悶々とする頭を抱えて、暫くしてからハッとする。
次の瞬間、俺は無我夢中で走り出していた。
雨が降っているだとか、さっき着替えたばかりだとか、そんな事も忘れて…
窓から見えていた場所に着くと自分の思った通りの真実がそこにあった。
窓から見えた景色に見覚えがある。…それもそうだろう、この道は俺が仕事から家に帰るときに使う…帰り道なのだから。
あいつは、いつも俺の身を案じていた。いつも通り、この場所を通って帰る俺を待っていたんだと…今更ながら、気づいたんだ。
また…今更だ。
今更お前がに心配ばかりかけていた事に気づいたのも。その不安を安心に変えてやることも出来なかったと気づくのも、何もかも遅すぎた。
おまえはもう、居ないのに。




