君と心のアルメリア
暫く雨に打たれていると雷鳴が轟いた。それまで気づかなかったが身体がかなり冷えていたので家に帰ろうと来た道を引き返した。
帰宅して、濡れた身体もそのままで家に上がる。
何処からか白猫がつけていた鈴がちりんと鳴るのが聞こえた。
その音に後押しされ、あいつが使っていた部屋に足を踏み入れる。
あの日からどうも入れなかったあいつの部屋は、人に使われて居ないことで少し埃っぽかった。
あいつの机の上にはあの白猫がつけていた鈴が置かれている。
鈴が置いてある手前の引き出しを開けて見ると、思いがけないものが入っていた。
すでに枯れた花の冠と指輪であっただろうもの。そして古びた小さな紙。
みた瞬間に忘れていたことが蘇り、モノクロな記憶が鮮やかになっていく。
『ジーグ…あ、あのね……その…』
そうだ、この時俺は初めてあいつと一つ目の約束をした。
前は聴こえなかった箇所が今ではクリアにしっかりと聴こえる。
『わたしジーグのお嫁さんになってもいい…?』
そうやって恥ずかしそうに言うあいつと、約束と言って木に名前を彫ってこの花の冠と指輪を作った。
本当に他愛もない約束だった。
幼い頃なら誰もが通りそうなほど、小さな約束だった。
それでも…あいつはあの約束を大切にしていたと言うことがこの花が示している。
『…ねぇ、ジェイク?いつになったらおまえじゃなくて名前で呼んでくれるの?』
『ん?…そうだな、もしお前が妹卒業出来たらその時な』
『絶対ね?…約束よ』
少しの悪戯心だった。
妹としてしかみて居なかった、からかうと面白いやつだと思っていた。妹とは言えないくらい成長したら、対等に話す時が来るんだろうと思って居たからこそ最近のあいつの成長ぶりに焦っていた。妹として話せなくなったら、もう関係がなくなるんじゃないかと思っていた。兄としての立場にしがみついていたのかもしれない。
だから俺はずっとあいつの名前を呼ぶことはなかった。
呼べば、全てが終わってしまう気がして。
こんな気持ちが渦巻いて、止まらなくて、苛立つ。
それを一心不乱にぶつけるように仕事にのめり込み、結婚する前よりもしてからの方が危ない仕事も率先して出ていた。
でも今、どうして俺がこんなに苦しかったのかが分かる。
なんだ、簡単な事だったんだ。
俺はあいつが好きだ。
あいつを愛してる。
おはようと言えば
おはようと微笑むあいつ
おやすみと言えば
おやすみと寝ぼけるあいつ
いってきますと言えば
いってらっしゃいと不安気なあいつ
ただいまと言えば
おかえりと嬉しそうなあいつ
俺が挨拶を蔑ろにした時に怒ったあいつすらも。その全ての仕草、言葉が愛しい。
それを認めてぶつけたらあいつを壊してしまいそうで、怖かったんだ。
可笑しいよな、生死にかかわる仕事を怖いと一度も思った事は無かった俺が、あいつに拒絶される事を怖がっていただなんて。
頬を伝う一雫は、手にしていた小さな紙に小さな染みを作る。
ゆっくり破かないよう慎重に開くとそこにはあいつの筆跡があった。
「…俺も愛してる、リンファ」
それは初めて呼んだ、リンファの名前。その和音は優しく響いた。
リンファが居なくなって感じたこの違和感の理由が分かった。リンファが挨拶を大切にした理由もわかった。
返ってこない挨拶ほど寂しいものはなくて、返ってくる挨拶ほど幸せなものはないんだと言うことを知った。
リンファにさせてしまった寂しい微笑みを笑顔に変えてやることはもう出来ない。
リンファはもう居ないのだから。
だから次会う時までには、これでもかというくらいの幸せでリンファを笑顔にさせられるように。
元には戻らない過去を置いて、今を生きるよ。
リンファと過ごした時間を理由に逃げたりなどしない。
今を生きよう、沢山の土産話を持ってリンファに会う時の為に。
そう決めた俺をリンファは泣くのだろうか?それともバカだな、と笑うのだろうか、怒るだろうか…それでもいい。
リンファの全てが愛しいのだから。
一応これで完結のつもりです(;´・ω・)
いやもうグダグダしててすいません本当…




