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聖女はレティ成分でできている 〜世界より推しが優先です〜  作者: 浦賀やまみち
第二章 私の勇者様

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第09話 僕は皇太子なのに




「アルベルト」

「んっ!? 何?」



 静けさに満ちた生徒会室。

 ライオットに声をかけられ、僕は書類から視線を上げた。


 僕の名前は、アルベルト・デ・サーマル・レーベルマ・アルビオン。

 アルビオン帝国の皇太子である。


 その立場ゆえに、学園入学と同時に生徒副会長を務めることになった。



「落ち着けって」

「えっ!?」

「さっきから、ペンを回してばっかりだぞ」

「……そうかな?」



 政治的配慮で生徒会入りしたのは僕だけではない。

 婚約者のレティシアと、幼馴染のライオットも同じだ。


 僕たちが生徒会役員になった分、三人の先輩は生徒会役員を退くことになった。

 だからこそ、その先輩たちのためにも、しっかり務めなければならない。


 一歳上の生徒会長は、やや自由すぎるところがある。

 仕事を任せきりにするわけにもいかない。



「ヴァレンタイン、お前もだ」

「はい?」



 もっとも、つい一か月半前までは平和だった。

 二人の助けがあれば、うまくやっていけるという自信もあった。


 だが、その自信は今、揺らいでいる。



「落ち着けって」

「えっ!?」

「さっきから、ドアをチラチラと見すぎだ」

「……そうでしょうか?」



 理由は明白だ。


 聖女、フィオナ・ルーチェ。

 皇太子である僕に対し、彼女はアホだのボケだの死ねだのと平然と口にする。

 さらに、殴りかかられたことも一度や二度ではない。


 正直、本当に聖女なのかを疑った。

 念のため、光の教会にも問い合わせを行った。


 間違いなく、本物だった。



「お前らは、誰だ?」


「この国の皇太子と、公爵家の娘だろ?」


「もっと堂々としていろ」


「びくびく怯えているから、あの女に付け入る隙を与えるんだ」



 近寄りさえしなければ、フィオナはまさに聖女である。

 慈愛に満ちた微笑みで、悩める者に教えを説く姿に、心を奪われれたこともある。


 教師や生徒からの評判はいい。



「そうはいうけどさ……。」

「……そうですよ」



 どうしてフィオナは、僕にだけ当たりがきついのだろう。

 初対面のときからそうだった。


 僕に非があるのなら、直すこともできる。

 だが、その改善点すら見当がつかない。


 わけが分からない。



「あーー……。めんどくせえな!

 嫌なら嫌だって、本人にはっきり言ってやればいいだろ!」



 そして、僕とは真逆に苦労しているのが、レティシアだ。

 どうやらフィオナは、レティシアに好意以上の感情を抱いているらしい。


 待ち伏せ、付きまといは当たり前。

 隙を見せれば、抱きつかれるどころか、スカートの中に潜り込もうとする。


 最近では、レティシアの部屋に侵入し、下着を持ち出しているという話まである。

 思い悩んだレティシアから相談を受けた。



「……決して、悪い子ではないんだよ」

「はい……。私に被害がなければ……。」



 しかし、僕には何も出来ない。

 皇太子であろうと、女子寮は男子禁制で立ち入れない。


 一応、三年生の寮長に助力を申し込んでみた。



『ふふっ……。聖女様がそのようなことを? あり得ませんよ』



 だが、取り合ってもらえなかった。

 フィオナは、僕やレティシアに対してだけ異常なだけで、それ以外ではまともな聖女なのだ。


 それでも三年生の寮長は、女子寮付きのメイドたちの巡回を強化すると言ってくれた。


 だけど、効果は出ていない。

 昨夜も、下着を拝借されたらしい。


 毎朝、婚約者の下着事情を聞かされながら頭を悩ませている僕は、一体何をしているのだろう。



「お前ら、押しに弱かったんだな」


「まあ、仕方ないか。

 お前らを押そうとする奴なんて、今までいなかったしな」


「いや、押せるあの女がすげえのか?」



 ライオットはフィオナを、こう評する。


 僕に対しては、おもしれー女。

 レティシアに対しては、やべー女。


 ちっともおもしろくない。


 今日のお昼のサンドイッチには、マスタードがたっぷり入っていた。

 僕がコーヒーのお代わりをもらいに行った隙を突いて、仕込んだに違いない。

 少し離れた席で、フィオナはニヤニヤと笑っていた。


 僕は、皇太子なのに。



「はぁ……。」

「ふぅ……。」



 思わず漏れたため息がレティシアと重なった。

 顔を見合わせた、その瞬間。


 ドアがノックされた。


 ついに、来た。

 レティシアと揃って、身体がビクッと震える。



「どうぞ」



 慌てて背筋を正した。

 バンッ、と音を立ててドアが勢いよく開く。



「やあ、僕のお姫様! 今日のご機嫌はいかがかな?」



 現れたのは、フィオナはフィオナでも、ただのフィオナではなかった。


 男子制服。

 胸元には赤い薔薇。

 いつもとは違う、妙に芝居がかった言葉遣い。


 フィオナはくるりと回り、変なポーズを決めると、レティシアにウインクした。




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