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聖女はレティ成分でできている 〜世界より推しが優先です〜  作者: 浦賀やまみち
第二章 私の勇者様

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第08話 レティ成分は不足する




「ねえ、ノエル。放課後、暇?」

「うん、特に予定ないよ」



 ここ数日、レティの姿が見えない。

 その尊さはひしひしと確かに感じるのに、不思議だ。


 でも、尊顔を一日一度見ないと、レティ成分が不足してしまう。


 危ないところだった。

 もしレティの下着を着用していなかったら、今頃どうなっていたことか。



「じゃあ、あなたのブラを買いに行きましょ」

「必要ないよ!」



 だが、悲しいかな。

 私が着用した瞬間から、レティ成分は少しずつ失われていく。


 どれほど大切に扱っても、時間というものは残酷だ。


 新たなレティ成分は、常に必要だった。

 今夜も、ノエルには尊き使命を果たしてもらわなければならない。



「えっ!? 自分の欲しくない? いつも、私のを借りてばっかりでしょ?」

「そもそも、借りなくていいんだってば!」



 だから、そのための投資は惜しまない。


 突き詰めると、私の生活費は信徒たちからの喜捨だ。

 でも、きっとみんなも分かってくれると信じている。


 なぜなら私は聖女なのだから。

 聖女が必要だと思ったものは、すなわち世界に必要なものだ。


 これは欲望ではない。

 神の大いなる息吹である。



「ふぅん……。貧乳は希少価値だ、派?」

「意味が分からないよ!」



 今日も、また悟りを開いてしまった。

 ノエルと廊下を歩きながら、私はまた一つ、この世界の真理に触れてしまった。


 その時だった。



「あーーっはっはっはっはっはっ!

 オーガスタ学園よ! 僕は帰ってきたよ!」

「んっ!?」



 高笑いが聞こえた。


 何事かと窓の外を見ると、馬車からイケメンが下りてきた。

 その途端、女の子たちがわらわらとイケメンに駆け寄ってくる。



「キャーっ! ローゼンさまぁ~!」

「おかえりなさまいませ! ローゼンさまぁ~!」

「お美しいです! ローゼンさまぁ~!」



 イケメンは髪を掻き上げ、爽やかに笑った。

 白い歯がキラリーンと輝く。



「あーーっはっはっはっはっはっ!

 困ったな! 僕は一人しかいないのに、困った子猫ちゃんたちだ!」



 その眩い輝きが私の目を焼いた瞬間、思い出した。


 イケメンの名は、セシル・デ・リリアン・ローゼン。


 百合なのか、薔薇なのか。

 そんな紛らわしい名前を持つイケメンの正体は、男装の麗人である。


 そして、乙女ゲームの攻略対象の一人。

 その中で唯一、百合ルートを持つ存在だ。



「……彼女、帰ってきたんだね」

「ふーーーん……。」



 実を言えば、セシルに一時ハマっていた時期があった。

 私の百合道を開眼したのは、彼女だ。


 薄い本も集めていた。



「あれ? 興味ないの?」

「うん、全然」



 でも、セシルは過去の女だ。

 私はレティのDLCで真実の愛を知った。


 ああ、レティ成分が足りない。

 今すぐ抱きしめて、くんかくんかしたい。


 私の聖女成分が漏れてきちゃった。



「あれ? あれ? 女の子だよ? 格好いいよ?」

「だから?」

「あれ? あれ? あれ?」



 ノエルがなにやら戸惑っている。

 おろおろとしている様子が可愛い。


 この世界にレティがいなかったら、アレをちょん切っているところだった。


 レティに感謝し、レティを崇めよ。

 世界は、レティで出来ているのだ。



「あっ!? 聖女様」

「はい、何でしょうか?」



 ふと背後から女生徒に話しかけられ、私は微笑みと共に振り返った。



「切り替え早っ……」



 ノエルが呆れたようにぼそりと呟いた。



「……って、痛いよ! フィオナ!」



 私は微笑みのまま、ノエルのお尻を抓る。

 聖女として、当然の指導だった。



「ええっと……。」

「どうしましたか?」

「あっ、はい。皇太子様が生徒会室でお待ちになっているとのことです」

「アルベルト様が……。」

「では、お伝えしましたので、私はこれで」



 そう言って、女生徒は頭を下げて去っていった。



「何の用だろうね?」

「生徒会室に入るチャンス、来た!」



 ノエルが小首を傾げる。

 だが、そんなことは些細な問題だった。


 皇太子であるアルベルトは、一年生でありながら生徒副会長を務める。

 公爵令嬢であるレティもまた、生徒会の庶務を担当していた。


 そして、生徒会役員でない私は、生徒会室の立ち入りを禁止されている。


 しかし、大義名分が向こうからやってきた。

 これは、レティの『私に会いたい』という遠回しな意思表示に違いない。


 さすがレティ。

 直接言えないところも可愛い。


 またしても、私の聖女成分が漏れてきちゃった。



「あーーっはっはっはっはっはっ!

 子猫ちゃんたち、喧嘩はしないでおくれ! 僕は、みんなの僕さ!」



 聞こえてきた過去の女の声に、私は啓示を得た。



「トイレ」



 うまい具合に、すぐ近くにトイレがあった。



「ああ、うん……。いってらっしゃい」

「あなたも来るのよ!」

「どうして! 僕は男だよ! 女子トイレはまずいよ!」



 私はノエルの手を引っ張った。


 聖女に迷いはない。

 啓示には従うものだ。




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