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聖女はレティ成分でできている 〜世界より推しが優先です〜  作者: 浦賀やまみち
第一章 聖女、目覚める

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第07話 もう一人の被害者




「はぁ……。」



 短くため息をつくと、正座するアルフォード様がビクッと震えた。


 ちなみに、私が正座を強いたわけではない。


 話し合いをするなら、クローゼットの中では格好がつかない。

 そう思って外に出ると、彼自身が部屋の真ん中で勝手に正座したのだ。



「ええっと……。可愛いですね」



 とりあえず、率直な感想を口にした。



「違います! 僕は男です!」



 アルフォード様は必死に否定した。

 涙目の上目遣いで。


 愛らしいし、説得力がない。


 自分を男性と言い張る人が、女装をするだろうか。

 女子制服を着て、ハーフアップに編んだ長い髪にリボンをつけ、うっすらと化粧までするなんて。


 彼は、我が国の国教である光の教会の教皇様の孫だ。


 その権威ある方の孫が、女装癖を持っている。

 私はとんでもない秘密を知ってしまったのではなかろうか。


 目の前の現実を持て余す。



「その制服は……。」

「フィオナです!」

「髪を結ったのは……。」

「フィオナです!」

「化粧をしているのは……。」

「全部、フィオナです!」



 だが、一応の確認を重ね、全てを理解してしまった。

 アルフォード様もまた、フィオナの被害者だったのだ。


 思わず大きく息を吐いた。

 椅子に座りたくなり、ドレッサーの椅子をアルフォード様の前に置いて腰を下ろす。


 彼が学園に入学するまで、フィオナの側仕えだったのは知っている。

 フィオナが学園に入学してからは、二人がよく行動をともにしていることも。


 しかし、ここは神殿ではない。学園だ。

 聖女だからといって、何をしてもいいわけではない。



「ええっと……。何か脅されているのなら、相談に乗りますが?」

「……ち、違います」

「では、どうして?」

「い、いや、何ていうか……。さ、逆らえないというか……。」



 アルフォード様は、はにかんで少し俯いた。

 胸の前で、人差し指同士をこすり合わせる。


 実際の性別がどうあれ、完全に恋する乙女の仕草だ。

 もっと言うなら、駄目な男に惚れた女そのものだった。


 五歳年上の親戚が、よくこんな雰囲気を漂わせていた。

 去年、その彼女は冒険者との結婚を反対されて、『真実の愛に生きる』と言い残して駆け落ちした。


 つまり、私が何を言ったところで、アルフォード様を止めることはできない。



「では……。どうして、下着を?」



 私は改めて問いかけた。

 ここまで聞けば、もう怒るより先に理由を知りたかった。



「……レティ成分が足りないそうです」

「私の成分? ……どういうこと?」



 思わず聞き返した。


 言葉の意味は分かる。

 でも、意味が分からない。



「聞かないほうがいいかなっ、と」



 アルフォード様は気まずそうに目を逸らした。



「聞かせてください。私には、その権利があるはずです」



 ここまで来たら、もう逃げることはできない。


 私の知らないところで、何かが起きている。

 それを知らないままにはできない。


 知れば、対応策もあるはずだ。



「えっと……。昨日、頂いた下着を今日着ていました」

「……えっ!?」



 一瞬、思考が止まった。


 主語はない。

 だけど、フィオナのことを指しているのは分かった。


 なぜ、フィオナが身につけている下着を、アルフォード様が知っているのか。


 もしかして、フィオナの着替えを手伝っているのか。

 フィオナは、男性に肌を見られても平気なのか。


 でも、アルフォード様は可愛い女の子にしか見えない。

 私は、混乱した。



「ほら、ヴァレンタイン嬢はフィオナを避けてますよね?

 だから、寂しいんだと思います」



 アルフォード様は、申し訳なさそうに言った。

 少し恨めしそうな目まで向けられ、困惑する。



「寂しいからって……。」

「本当は、洗濯前のものを持ってこいって言われてるんです」

「や、止めてください!」



 思わず叫び、椅子から立ち上がっていた。



「僕もさすがにそれはどうかと思って、新品っぽいのを選んでます」

「……ハンカチとか、タオルでは駄目なの?」



 必死に代替案を探す。

 もう下着以外なら何でもいい気がしてきた。



「レティ成分が薄いそうです」

「そ、そう……。」



 アルフォード様の答えを聞いて悟った。

 これは、すでに試した結果に違いない。


 タオルだろうか。

 確かに、タオルは気にも留めていなかった。


 所持品は、白で統一している。

 一枚や二枚減っても、気づかない。



「あと、そろそろ戻らないとまずいです」


「ヴァレンタイン嬢が大浴場にいないことが、フィオナにバレるだろうし……。」


「そうなったら、僕がここでヴァレンタイン嬢と話しているかもしれないって嫉妬して、突撃してきます」



 その光景が、容易に想像できてしまった。


 私の行く先々で、いきなり現れるフィオナ。

 そして、満面の笑顔で私の名前を呼ぶ姿。


 この一か月、何度も見てきた光景だ。



「こ、これを持っていきなさい! し、新品です!」



 気づけば、私はクローゼットへ駆け寄っていた。

 下着棚から予備を取り出して差し出す。



「ありがとうございます!」



 アルフォード様は嬉しそうに受け取った。

 スカートを翻し、部屋から駆け出て行く。


 ちらりと下着が覗いた。

 薄いピンクの女物だった。


 あれも、フィオナに強いられているのだろうか。



「はぁーーーー……。もうアルベルト様に相談しようかしら」



 私は、一人残った部屋で深々とため息をついた。

 とても疲れた。




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