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聖女はレティ成分でできている 〜世界より推しが優先です〜  作者: 浦賀やまみち
第一章 聖女、目覚める

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第06話 クローゼットの中で




「なぜ、私がこんなことを……。」



 私の名は、レティシア・デ・シールド・ヴァレンタイン。

 アルビオン帝国の名門、公爵家の一人娘だ。


 その私が今、クローゼットの中に身を潜めていた。

 理由は大体、フィオナ・ルーチェのせいだ。



「……私は間違っていなかったはず」



 彼女と出会う一か月前の私は、アルベルト様の婚約者に相応しい女だった。

 いついかなる時もエレガントさを忘れず、道の真ん中を歩き、皆からかしずかれていた。


 学園入学前、期待していた親友はできそうになかった。

 だけど、それでもいいと思っていた。


 公爵家の矜持を捨てるくらいなら、孤独なまま進むことこそが、私の道だと思っていた。



「それが……。どうして、どうしてなの?」



 だが、学園生活が始まって、二か月後。

 フィオナ・ルーチェが入学したその日から、私は変わることを強いられた。


 神に認められ、半世紀ぶりに現れた聖女。

 その名前は当然知っていた。


 そして、彼女が孤児院出身であるのも。

 有名な話だった。



「そうよ。私は間違っていない。

 私は公爵家の令嬢として、相応しい振る舞いをしただけよ」



 私は、フィオナの身を案じた。


 このオーガスタ帝立学院は、我が国の貴族子弟が通う学校である。

 高い才能を見出された平民も在籍しているが、その数は圧倒的に少ない。


 そこへ孤児院出身の者が加わったら、どうなるか。

 いかに聖女という肩書きを持とうと、軋轢が生じるのは目に見えていた。


 だから、私が防波堤になろうと思った。

 あえて私が彼女にきつく当たることで、他の者が彼女を傷つける隙を作らないようにした。



『聖女と呼ばれているようだけど、ここでは通用しないわ』


『ふんっ、しょせんは田舎娘ね。

 私は、レティシア・デ・シールド・ヴァレンタイン。覚えておきなさい』



 初対面で口にする言葉は、前日に考えた。

 鏡の前で何度も冷たい目を作る練習もした。


 私は完璧だった。



『か、神いいいいいぃぃぃぃぃっ!』



 しかし、フィオナの反応は予想外すぎた。

 今まで会ったことのない人種だった。


 いきなり抱きついてきたと思ったら、アルベルト様に殴りかかる。

 皇太子であるアルベルト様にだ。


 そのあり得なさに茫然としていたら、今度はスカートの中に潜り込まれた。

 下着を守るため、必死に押さえた。



「ううん……。女性が女性を愛する趣味があるのは知ってるわ」



 その結果の果てが、今の私だ。


 廊下の端を歩くようになった。

 常に怯える毎日になった。


 気づけば、フィオナの姿を探している。


 柱の影に。

 曲がり角の先に。

 扉の向こう側に。


 あの娘、何なの。

 ぐいぐいと来すぎ。


 私は、公爵家令嬢なのに。



「でも、私が好きなのは、アルベルト様なの!

 生まれる前から、婚約が決まっていたんだから!」



 そんな私が自室の異変に気づいたのは、一週間前だ。


 最初は気のせいだと思った。

 机の上の物が少し動いている程度だった。


 だが、三日連続でクローゼットから下着が消えれば、気のせいでは誤魔化しきれない。



「……というか、私、何かした? してないわよね?

 どこに私を気に入る理由があったの? 教えて? ねえ、教えて?」



 世の中には、色々な性癖があるのは知っている。


 しかし、フィオナは聖女だ。

 聖女である彼女を疑うのは、心苦しい。


 それでも、確かめなければならなかった。


 異変は、夕食後に大浴場へ行っている隙に必ず起きていた。

 なら、今ここで待っていれば、犯人は来るはずだ。



(来たっ!?)



 コンコンコン、とノックをする音。

 胸がどきりと跳ねた。



(本当に来たっ!?)



 少し間を置き、ドアがゆっくりと開いた。

 教育方針なのかは定かではないが、この寮はなぜ部屋に鍵がないのだろうか。



(だ、誰……。だ、誰なの?)



 気配が近づいてくる。

 クローゼットの扉が開き、下着をしまってある棚の引き出しが開けられたのが分かった。


 怖かった。

 でも、勇気を振り絞る。



「ふ、不埒者!」



 自分を隠している吊られた服たちを左右に勢いよくかき分けた。



「ひゃあっ!?」

「あ、あなたは……。」



 侵入者は、フィオナではなかった。

 だが、フィオナの関与を認めるしかなかった。



「ち、違う! ち、違うんだ!」

「違うも何も……。アルフォード様ですよね?」



 なぜなら、私の下着を持ったまま腰を抜かしている侵入者の正体。

 それは、フィオナと行動を共にすることが多い、女子制服を着たアルフォード様だった。




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