第05話 レティ成分が足りない
生徒会室の前。
私はレティが出てくるのを今か今かと待ち構えていた。
「レティ!」
ドアが開く。
私は満面の笑顔で、両手を大きく広げた。
「い、いけない! あ、あの書類、急ぎだったわ!」
次の瞬間、レティは私を見る前に、視線を逸らし、扉を閉めた。
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中庭の渡り廊下。
私は柱の陰に隠れ、レティを待ち伏せしていた。
「レティ!」
あと三歩のところまで迫る。
私は満面の笑顔で、両手を大きく広げた。
「そ、そうだったわ! お、お父様に手紙を書かないと!」
次の瞬間、レティは踵を返し、来た道をそのまま足早に戻っていった。
******
お昼休みの学校の中庭。
私は藪に潜み、レティがお気に入りにしている目の前のベンチに座るのを待っていた。
「レティ!」
座る気配があった。
私は満面の笑顔で、両手を大きく広げた。
「あっ、ごめん。僕だよ」
アルベルトだった。
すぐさま私は勢いよく両手を突き出し、アルベルトを押した。
ベンチから立ち上がったアルベルトが、非難の声をあげる。
「わわっ!? 何をするんだ!」
「ここは、レティ専用のベンチなの!」
私は聞く耳を持たず、人差し指をビシッと突きつけた。
このレティ専用のベンチは、文化遺産である。
座ってもいいのは、私とレティの二人だけ。
周囲にも百合の球根を植えた。
夏の盛りに幾つもの白い花が咲き誇る中、二人でキャッキャッウフフする予定なのだ。
「いや、僕もよく使ってるんだけど?」
だが、アルベルトの一言に、私は表情を凍らせた。
乙女ゲームの一枚目のスチル絵。
木漏れ日の中、レティとアルベルトがこのベンチで談笑しているシーン。
それを遠くから眺める主人公が、二人の高貴さを気圧され、学園での生活に怖気づく名場面だ。
そして、レティが作中で唯一自然に微笑んでいるイラストでもある。
超可愛い。
超尊い。
超ギャップ萌え萌えきゅん。
しかし、その微笑みはアルベルトに向けられている。
レティは乙女ゲームの中で裏ボス化しても、アルベルトを一途に想い続けるのだ。
その事実が、私にぎりぎりと奥歯を噛ませた。
「ええっと……。よく分からないけど、ごめんね?」
「勝ったと思わないでよ! バーカ、バーカ!」
いや、未来は変えられる。
私はこぼれ落ちそうな涙を堪え、駆け出した。
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「あーー……。レティ成分が足りない」
神殿にいた頃ほどではないが、学園でもお勤めはある。
神殿への喜捨と引き換えに貰えるポーション作りだ。
私の手製のポーションは人気があるらしい。
しかし、やる気がちっとも出ない。
原因は、一つしかない。
学園に入学して、二週間が経った。
それなのに、レティとまともに会話ができていない。
お互い、何かと忙しい身であるのは分かっていても辛い。
一緒にご飯を食べたり。
一緒にお風呂に入ったり。
一緒にベッドで寝たり。
私の予定では、もうキスは済んでいるはずなのに。
「あっ!?」
ボフッ、という音が鳴った。
ポーション口から輪っか状の白い煙が上っていく。
赤になるはずだった液体は、紫色になっていた。
「それ、何本目? 集中しようよ」
見た目詐欺の男、ノエル・デ・ネプルズ・アルフォードが、深々とため息をついた。
何が詐欺かといえば、見た目が完全に可愛い女の子だからだ。
「ノエルの癖に、うるさい。私の制服を着ろ」
「どうして、僕が女子の制服を着なくちゃなんないのさ」
「私の潤いのために」
そして、もう一つ大事なことがある。
教皇様の孫でもあるのだ。
去年まで、聖女である私の側仕えとして務めていた。
教皇様は、同年代の友人を私に作って欲しかったらしい。
「潤いって……。
でも、本当にヴァレンタイン嬢が好きなんだね」
「レティは至高」
「じゃあさ、もうこの髪を切ってもいい?
神殿ならともかく、女の子に間違われるの、そろそろ面倒なんだけど」
私は大喜びした。
お風呂に誘い、嫌がるノエルの修道服を脱がそうとして、がっかりした。
その日から、こいつは私の舎弟である。
聖女の柔肌を見たという大罪を背負ったのだから、当然だ。
「駄目、許さない。髪は女の命なんだから」
「僕は、男だよ!」
唐突に、啓示を得た。
なぜかは分からないけど、私はレティに避けられている。
同じ女子寮に住んでいながら、部屋に入れてもらえない。
それどころか、メイドさんたちに阻まれ、同じフロアすら立ち入れない。
「なら、アレをちょん切って、女の子になったらいいと思うよ」
「発想が怖いよ!」
そこで、ノエルの出番だ。
私の制服を着てもらって、レティの部屋へ訪ねてもらおう。
そのとき、レティは留守にしているかもしれない。
もしかしたら、クローゼットにレティ成分が落ちているかもしれない。
それを私が預かり、レティ成分を堪能する。
完璧な計画だ。
「ほら、サボってないで手を動かしなさいよ」
「理不尽だ! サボってたのは、フィオナのほうじゃないか!」
そうと決まったら、つまらないお勤めは早く済まそう。
私のやる気は、マックスになった。




