第23話 魔王(仮)、現る
「あのメイドは、魔王よ」
カーテンを閉めた薄暗い生徒会室。
私は机に肘をつき、組んだ両手で口元を隠す。
「……間違いないわ」
「いや、ただのメイドでしょ?」
ノエルが深いため息をつく。
私も負けじと、ため息で応戦した。
なぜ、世界の危機が迫っているというのに、そんな呑気でいられるのか。
私は席を立ち、黒板の前に立つ。
カッカッカッ、と音を鳴らし、チョークを走らせた。
「えーっと……。
1、突然現れた。
2、身体検査をする。
3、パンツを取った。
4、無表情。
5、メガネ。
6、強い。
……なに、それ?」
黒板を一読したノエルが、困惑したように目をぱちぱちさせた。
私はビシッとチョークを突きつける。
「魔王の証拠よ!」
「いや……。悪いのは、フィオナだよね?」
ノエルは顔を引きつらせ、小さく首を横に振った。
「敗北主義者め!」
「ええっ……。」
もしや、すでにノエルは魔王の手に落ちたのか。
私は最後の希望を託し、セシルを見た。
「セシルは信じてくれるよね!」
「もちろんさ! 許せないな!
下着を取るなんて、ハレンチだよ!」
セシルは勢いよく立ち上がる。
ふんす、と胸を張った。
力強く握られた右拳が実に頼もしい。
「ほらほらっ!」
私は勝ち誇ったように、満面の笑みを浮かべてノエルへ向き直る。
「まあ、百歩譲って、魔王だとしてさ。
レティシアさんは、フィオナが認めた勇者でしょ?
なら、魔王を従えているわけで……。問題なくない?」
「ぐっ!?」
痛いところを突かれた。
反論できない。
ノエルのくせに生意気だ。
せっかく買ってあげた女子制服も着てくれないし、何が不満なのか。
「これより、魔王討伐の作戦会議を始めるわ!」
勢いよく掌で黒板を叩く。
私は強引に議題を切り替えた。
「頼むから、他でやってくれ。
……あと暗い。カーテン、開けて?」
生徒会長席で書類仕事をしていたセドリックが、うんざりしたようにため息をついた。
居たのか。
******
「むむっ!? 寮長、発見!」
レティはセシルに任せた。
メイドもノエルがおびき出してくれている。
もはや、私を阻むものはない。
そう思った矢先、レティの部屋があるフロアで、廊下を掃除する寮長の姿を見つけた。
「さあ、出番ですよ。会長」
「……なんで俺が?」
「どうせ、暇でしょ?」
しかし、心配はいらない。
こんなこともあろうかと、セドリックを連れてきた。
戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ。
なにしろ、生徒会長のセドリックは最強のワイルドカード。
学園長だろうと寮長だろうと、誰が相手でも通用する。
寮長を誘い出す口実くらい、セドリックが上手くやってくれるだろう。
生徒会長なのだから。
「いやいや、忙しいからね?
池にひょうたんを浮かべる予定が詰まってるし」
「なに、それ? やっぱり暇人じゃない」
「……というかさ。パンツ、盗むのやめたら?
何がお前をそう駆り立てるんだよ……。」
ただ、この男は生徒会室を出発したときから文句ばかりだ。
もっとやる気を出せ。
仕方ない。
士気高揚も、聖女の務めである。
「咲かぬなら、咲かせてみよう、百合の花」
「……へっ?」
「転ぶことは恥ずかしくありません。
転んだままでいることが、恥ずかしいのです」
私がいい感じの説法を披露すると、セドリックは目を見開いた。
口をぽかんと開けたまま固まっている。
飴玉を投げ込みたい。
昨日、教皇様から貰った飴玉、美味しかったな。
ノエルはまだ残しているかな。
「……一瞬、感心しちゃったけどさ。
やろうとしていることは、下着泥棒じゃねーか」
セドリックは首をぶんぶんと振った。
見開いていた目が、いつものやる気のない死んだ目に戻る。
だけど、セドリックは本気を出せばできる男だ。
それを私は、乙女ゲームで知っている。
「さあ、行きますよ!」
「ちょっ!?」
私はセドリックの手を掴み、そのまま歩き出した。
******
「分かりました。じゃあ、行きましょう」
「いやー、申し訳ない。聖女様のお願いだからさー」
セドリックは上手くやった。
寮長と一緒に、どこかへ行ってくれた。
いざ、我が神殿へ。
私は、意気揚々とドアノブに手をかけた。
「ニャ?」
ドアを開けた先に、見知らぬちびっこメイドが立っていた。
猫耳がある。
頬にも針金のようなヒゲが伸びてるし、猫族だ。
「……あれ?」
私はそっとドアを閉めた。
首を傾げる。
少し考えてから、左右を見回す。
やっぱり、レティの部屋で間違いない。
改めて、ドアを勢いよく開けた。
「誰っ!?」
「ニャーは、レティシアお嬢様のメイドだニャ。
もしかして、お前が聖女かニャ?」
「魔王の手先!」
先手必勝。
私はそう判断し、ぺこりとお辞儀をするちびっこメイドが顔を上げるより先に殴りかかった。
「ニャは! マリア姉の言った通りニャ!」
「ニャーニャー、うるさい!
いかにもなキャラ付けしてるんじゃないわよ!」
あっさりと避けられ、あっさりと制圧された。
獣人とか、ずるい。
身体能力で勝てるはずがない。




