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聖女はレティ成分でできている 〜世界より推しが優先です〜  作者: 浦賀やまみち
第四章 嵐を呼ぶ聖女

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第21話 レティ成分欠乏症




「ああっ……。てぇてぇ……。」



 二学期が始まり、二週間が経った。


 だけど、レティは公務からまだ帰ってこない。

 アルベルトのボケは、どこで道草を食っているのか。


 おかげで、私は色々と限界だった。

 だから、私は悪くない。



「これを、こうして……。

 くふっ!? ……き、キくっ!?」



 午後の授業をサボり、女子寮へ裏口から戻った。

 メイドたちの巡回タイミングを見極め、レティの部屋へ。


 まずは、部屋に残るほのかなレティ成分で、息をついた。

 次に、持参した水筒からレティのカップにお茶を注ぎ、喉を潤した。



「ふんっ、ふんっ……。ふんっ、ふんっ……。」



 その次は、ベッドだ。

 枕に顔を埋めると、レティ成分が私の身体の隅々まで行き渡るのを感じた。


 しばらく動けなかった。

 呼吸が、ゆっくりと整っていく。


 そのまま陶酔感に身を委ね、うとうとし始めた。


 だが、私は耐えた。

 もう一歩深く沈みそうになる自分を、必死で引き戻した。



「はぁ……。はぁ……。はぁ……。はぁ……。」



 そして、クローゼットの中に飛び込んだ。


 吊り下げられた色とりどりの服。

 下部の引き出しを開ければ、やっぱり色とりどりの下着。


 レティの痕跡だけが濃く残る荘厳たる聖域。

 扉を閉じれば、外界と遮断され、レティ成分は100%だ。



「ああっ……。レティ~……。」



 ああ、もう我慢できない。


 レティが悪いんだぞ。

 こんなにも私の聖女心を刺激してくるなんて。


 内なる神の声に従い、手を伸ばす。

 その瞬間、私の聖女の部分がビッグバンした。



「ぉほっ……。」



 思わず、変な声が漏れる。

 さらなる余韻に身を任せようとする。


 だが、部屋のドアが開く音。

 身体をビクリと震わせて固まる。



「もしかして、幽霊とか怖いタイプ?」

「違います! 私は寮長として心配なだけです!」

「はいはい、分かりましたよー」



 男子禁制の女子寮に男の声がした。

 もう一人は、三年生の寮長だ。


 つまり、男性は寮長が例外を許した人物になる。



「あれ? ベッドが乱れてるね」



 男の声が近づいてくる。

 聞き覚えはあるが、誰なのか分からない。



「やっぱり、何かいるのよ!」

「何かって?」



 寮長は部屋には入ってきていないらしい。


 叫んだのに、男の声より遠い。

 どうやら出入口付近にいる。



「きっと夏休みの間に、動物が巣を作ったんだわ!」

「窓は閉まっているのに?」



 いや、悠長に推理している場合ではない。


 この部屋はそう広くない。

 広さは、ワンルーム程度しかない。


 入寮者が公爵令嬢であろうと、例外はない。


 バス・トイレは出入口に近い。

 当然、すでに確認しただろうから、残るはこのクローゼットしかない。



「だって、物音を聞いた子が何人もいるのよ?」

「ふーーーん……。」



 しかし、逃げ場はない。


 ならば、奇声をあげながら躍り出て、二人が混乱している隙をつくか。

 だが、決断を迷っているうちに、クローゼットの扉が開いた。



「……あっ」

「何っ!? 何だったのっ!?」



 男の正体は、生徒会長だった。

 クローゼットの扉が静かに閉められる。



「タヌキだ」

「ええっ!? どうしたらいいの?」

「まあ、ドアを閉めて、外で待っていてくんない?

 うまいこと、俺が窓から逃がしてやるよ」



 私は、クローゼットの暗闇の中で、目をぱちぱちと瞬きする。

 もしかすると、生徒会長は『見逃してやる』と言っているのかもしれない。



「分かったわ! お願いね!」



 間違いない。

 ドアが閉まり、寮長の気配が消えた。


 強制退寮の危機は去った。

 生徒会長、一生ついていきます。




 ******




「私は下着ドロじゃありません。聖女です」



 私は、正座させられていた。


 決定的な現場を見られたから仕方がない。

 でも、手は戻していたから、致命的な現場は見られていない。


 私の聖女としての威厳は守られた。



「いやーー、きついでしょ……。

 パンツ、被ってるし……。とりあえず、取ったら?」



 生徒会長は、肩を震わせながら苦笑した。


 私はマスク代わりにしていた水色のパンツを外す。

 呼吸はしやすくなったが、レティ成分は遠のいてしまう。



「いやいや、ポケットに入れちゃ駄目だって」

「これは、私のものです!」

「あっそ……。」



 彼の名前は、セドリック・デ・クロスフォード・ノエルグ。


 アルベルト、ライオット、ノエル、セシル。

 そして、セドリック。


 彼は、乙女ゲームの攻略対象となる五人のうちの一人だ。


 成績優秀、容姿端麗。

 法務大臣の四男で、侯爵家。


 将来を嘱望され、本人も努力の道をひた走っていた。


 ただし、一年前までは。

 ある事件がきっかけで、無気力系になっている。



「アルベルトには聞いてたけど、ヴァレンタインがマジで好きなんだね」

「レティは至高にして、究極!」



 私は胸を張って応えた。

 我が信仰に、一片の曇りなし。


 セドリックはめんどくさそうに頭をぼりぼりとかく。



「でもさ……。他人の部屋へ勝手に入り、下着を盗むのはどうなんだ?」

「神の声に従ったまでです!」

「いやいや、光の神はきっと嘆いてるよ? 濡れ衣だーーって」



 そう言うと、諦めたようにため息を漏らした。



「もしかして、聖女だから、何でも許されると思ってる?」



 私は、反論できなかった。

 唇を尖らせ、むすっと視線を伏せた。



「まっ、いいや……。

 ヴァレンタインから苦情が出ないようにしとけよー」



 セドリックは部屋を出ていく。

 背中を向けたまま、手をひらひらと振って。



「……はい」



 私は渋々頷いた。

 三日くらいは、レティ成分の採取を我慢しようと思った。


 だから、ノエルに頼もう。

 ノエルならノーカンだ。




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