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聖女はレティ成分でできている 〜世界より推しが優先です〜  作者: 浦賀やまみち
第三章 薔薇は気高く

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第20話 バトル・オブ・グンダー




「矢の雨を降らせ! 近づけさせるな!」


「あと少し! あと少し保たせろ! フィオナ、まだなのか!」



 バカンスからの急展開。

 夏の盛りだというのに、南の隣国『アレキサンドリア大王国』が攻めてきた。


 私たちはグンダー侯爵の指揮下に入り、国境要衝クーバ砦の防衛にあたっていた。


 奇襲という事実もあり、戦況はかなり悪い。

 嫡男のライオットはもちろん、侯爵が学生である私たちにまで戦力を求めるのも無理はなかった。


 ただ、戸惑うしかない。

 こんなイベント、乙女ゲームにはなかったはずだ。



「右に剣……。左に盾……。」



 それでも、私は舞う。

 シャリシャリーン、と錫杖の輪が澄んだ音を響かせ、ゆるやかに身を翻す。



「天を仰げば、日輪あり……。」



 正直、すごく怖い。


 モンスター相手とは、次元が違う。

 城壁の上にいるのに、敵兵の殺気が容赦なく肌を刺してくる。



「恐れを払えば、その勇気は千里の果てまで駆ける……。」



 ライオットとセシルが、私の前を守っている。

 矢や魔術の礫を弾き、受け流してくれている。



「遍く戦場に光を……。揺らぐ魂に加護を……。」



 ノエルと教皇様が、私の後ろを支えてくれている。

 枯れかける魔力を、絶えず注ぎ込んでくれている。



「聖女、フィオナ・ルーチェの名において、ここを聖域とする!」



 侯爵と味方たちは、私の合図を待っている。

 城門を開け放ち、逆撃に転じるその瞬間を。



「開け、天の聖櫃!

 ウォー・ベネディクション!」



 そして、時は満ちた。

 天へと掲げた錫杖の先から、光が溢れ出す。



「城門を開けろ! 全軍突撃いいいいいっ!」



 侯爵の号令と共に、味方たちの雄叫びが一気に爆ぜた。


 三つの城門が開かれ、騎馬隊は雪崩を打つように敵陣へと突撃する。

 その圧に抗うこともできず、敵陣は瞬く間に切り裂かれていく。



「うっ……。」



 それを見届けてから、私は片膝をついた。

 魔力の消耗で、立っているのも辛い。



「フィオナ!」



 すぐさまノエルが駆け寄る。

 私はその首に両手を回し、すがるように抱きついた。



「……れ」

「れ?」

「れ、レティ成分が足りない……。」



 ノエルは深くため息をついた。



「はいはい……。みんなにはバレないように、こっそりね」



 そう言って、私の右手にそっと何かを握らせた。


 確認しなくても分かる。

 レティの下着だ。


 それも、巡礼の旅へ出る前に私が鑑定し、最もレティ成分が濃いと判断したものに違いない。

 こんな時のために、ちゃんと魔術で丁寧に保護しておいたのだ。


 オレンジ色のソレを両手の中に包み込み、口元へとあてがう。



「すん、すんっ……。すん、すん、すんっ!」



 鼻を鳴らせば、レティ成分がガツンときた。

 魔力はたちどころに満ち、私の聖女な部分が溢れ出す。



「くーーっ! これ、これ! 生き返るーーーっ!」



 これなら、もう一発くらい儀式魔術を打てそうだ。




 ******




「はぁ……。疲れたなー」



 三日月が世界を照らす夜。


 この街は、まだ眠りについていない。

 遠くからは、戦勝の宴の賑わいが聞こえてくる。


 まだ昼間の興奮が残っているのだろうか。

 寝付けずに窓辺の椅子へ腰を下ろし、私は星空を見上げた。



「戦争かー……。

 ゲームとは違うんだよね」



 自分の存在が戦場を左右した。


 その結果、敵兵とはいえ、多くの命が散った。

 敵兵にも家族がいたのだろう。


 敗戦濃厚だったときは無我夢中だった。

 勝利が確定した途端、私はその場で胃の中のものを吐き出した。


 教皇様が慰めてくれなければ、あのまま心が折れていたかもしれない。



「ううっ……。お父様……。

 私は……。いや、僕は……。」



 セシルの苦しそうな声が聞こえた。

 ベッドへ目を向けると、苦悶の表情を浮かべ、布団を強く掴んでいる。


 私は椅子から立ち上がり、セシルの元へ歩み寄る。

 布団を握り締めた手を、そっとほどく。



「……大丈夫。大丈夫だよ」



 そして、セシルの両手を優しく包む。


 巡礼の旅を一緒にして分かったことがある。

 セシルは、自分の父親に対して強いトラウマを抱えている。


 こうして何度もうなされる姿を見てきた。

 乙女ゲームでは語られなかった部分だ。



「あなたは、あなたのままでいいんだよ」

「……ほんと?」

「うん、本当」



 やがて、セシルの表情が安らかになった。

 私は布団を整えると、自分のベッドの枕を持った。


 正直に言おう。

 ギャップ萌えだ。


 普段、男前のセシルが弱々しい姿を見せると、むらむらしちゃう。


 だが、衝動には負けない。

 私には、レティがいる。


 私は足音を忍ばせながら部屋を出ると、隣の部屋へ向かった。



「んんっ……。なぁ~に?」



 ノエルのベッドへ潜り込む。



「ほら、詰めて、詰めて」

「わわっ!? フィ、フィオナっ!?」

「おやすみー」

「お、お願いだから、くっつかないでぇ~!」

「うるさい。早く寝なさい」

「酷いやぁ~……。僕は眠れないよぉ~……。」



 私はノエルという最高の抱き枕を手に入れ、その夜はぐっすり眠った。




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