第02話 説明をお願いします
「フィオナ、本当にいいのね?」
「はい、シスター」
なんか転生した。
死んだ記憶はないが、転生した。
物心がついた頃、唐突に理解した。
この世界は、現代の日本より圧倒的に文明レベルが低い。
トイレはぼっとんだ。
ウォッシュレットなんてない。
ビデに慣れきった身として、最初は辛かったが、十三歳になった今では慣れた。
ただ、トイレの後始末に葉っぱを揉まなければならないのが手間だ。
「決意は固いのね?」
「はい」
それより、もっと大きな問題がある。
そろそろ、この孤児院を卒業しなければならないという時期が来ていた。
進路は、三つある。
三つしかない、とも言える。
それが、この孤児院にいる者たちの『未来』だった。
「考え直さない?」
「しつこいですよ。シスター」
一つは、冒険者だ。
ただし、冒険者といっても、実際に冒険をする者は少ない。
多くは、街の外に出て、モンスターを間引くのが主な仕事らしい。
それを初めて知ったとき、驚いた。
どうやら私は、とんでもない場所に来てしまったようだ。
この世界は、魔法もある『ファンタジー』だった。
「でも、自分で言うのも何だけど……。
修道女なんて、退屈よ?」
「私、シスターのことを尊敬しているのに、それはないんじゃないですか?」
前世で、私はRPGが好きだった。
冒険者という選択を知ったとき、それしかないと思った。
だが、冒険者を志した多くの兄や姉の末路を聞いて、私はやめた。
「それは嬉しいけど……。
あなた、可愛いんだし、華やかな道を選んだほうが……。」
もう一つは、娼婦だ。
はっきり言おう。
私は美少女である。
春の初めになると、女衒がやって来る。
彼もまた、幼い頃から『将来が楽しみだ』と言っていた。
『絶対、冒険者になるな』とも。
『お前なら貴族みたいな生活ができる』とも。
去年は、そう言っていた。
しかし、私は娼婦になる気はさらさらなかった。
「どこにでも花は咲きます。
それを綺麗か、どうかを判断するのは、見る者次第です」
娼婦という職業を、軽んじているわけでも、蔑んでいるわけでもない。
貴族みたいな生活といっても、現代日本とは比較にならない。
どこまでいっても、この世界はいわゆる『中世ファンタジー』の域を出ない。
「うっ……。私より、修道女っぽい説法。
……パクってもいい?」
「さあ、ちゃっちゃっとやってください!」
残った一つは、修道女だ。
これが一番人気がない。
基本的に戒律と清貧が求められ、生活レベルは孤児院とそう変わらないからだ。
だが、私はこれに選ぶ。
こちとら、元独身アラフォーの女である。
子どもが抱くような夢は、とっくに卒業している。
三食食べられて、屋根があり、修道服があれば、それで十分すぎる。
前世の、工場とアパートを往復していただけの毎日と大差はない。
結婚には憧れがある。
しかし、自分が喪女であることくらいは分かっている。
性癖も、BLよりは百合寄りだった。
「……分かったわ。
あなたを祝福します。ようこそ、神の庭へ」
たまにくらいは、お酒が飲みたい。
それが、ささやかな希望だ。
******
『我が使徒、フィオナよ。汝の勇者を導け』
修道女として、一生に一度のビッグイベント。
遠路はるばる総本山の神殿を訪れ、礼拝堂の神像前で跪き、祈りを捧げたときだった。
室内だというのに、スポットライトのような光が私の頭上に降り注いだ。
「なんて?」
しかも、声が聞こえた。
思わず閉じていた目を開き、辺りをきょろきょろと見渡す。
「……し、神託だ!」
「あ、あの娘が……。こ、今代の聖女!」
神官たちが一斉にざわめき始めた。
一緒に祈りを捧げていた地方出身の修道士や修道女たちが、私から距離を取る。
「あ、あの~……。」
神像前にぽつんと取り残された私のもとへ、教皇様が慌てて進み出てきた。
「聖女様! 我らにお導きを!」
そして、床にひれ伏すようにして両手を広げた。
これ、知っている。
祈りの中の最上級『五体投地』というやつだ。
「ええっと……。とりあえず、説明をお願いします」
すごく面倒くさくなる予感がしてきた。
私は、ただ田舎で静かに暮らしたかっただけなのに。




